**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第571回配信分2015年04月06日発行 中小企業の経営者が日ごろから備えること その69 〜会社の中で「式年遷宮」を計画的に行う〜 **************************************************** <はじめに> ●中小企業では、事業所の場所を変えたり、工場を移転したり、オフィスの場 所を変えるなどということは、正直なかなか難しい。難しいが、仮にそういう ことが出来るチャンスがあるなら、一気呵成に打って出る。そんな機会、チャ ンスはなかなかない。待っていても相手のあることだし、そう簡単なことでは ない。ならば、伊勢神宮、出雲大社のように一定期間を経て、敢えて変わるこ とを強制的に行う。それくらいの覚悟がないと、なかなか組織を変革するのは 難しい。事務所や事業所の移転は、またとない絶好のチャンスだ。 ●創業して10年くらいの間は、頻繁に移転することが多い。当初、小さなとこ ろで数名で創業した。5年経ち、いろいろな事業が立ち上がり、当然手狭にな る。メンバーも気が付けば10名以上になった。事務所もデスクがいっぱいで、 椅子の後ろを横向けに歩かないといけないくらいで、スムースに通れない。コ ミュニケーションはいいが、いかんせん仕事がやりにくい。環境が悪いと、当 然能率も悪い。どこか広いところに移りたいが、そう簡単にいかないので、当 面我慢するしかない。しかし、そうは長く続かない。 ●かくて、別の場所に第二事務所を構える。そうなると、途端に報・連・相が 悪くなる。2か所になった途端に、いろいろな経費が一気に増加する。当然そ うなるだろう。親元で暮らしていた息子が結婚して一家を構えるのと同じだ。 いろいろなものが二重に必要になる。よくよく考えれば同居すればいいのだ が、お互いにわがままを通すから、簡単にはいかない。かくて、不毛の時間が 際限なく続く。そのうちに、関係がぎくしゃくして分裂状態が発生する。やは り、組織は同じところにいて、一つ屋根の下でやるのがいい。 <そうそうチャンスはやって来ない> ●創業者が社長をまだされているなら、事務所の移転や事業場所の移転は10年 くらいの間には、しばしばあっただろう。狭い小さな事務所から、段々広い立 派なオフィスに移り、いろいろな事情で何回か移転と引っ越しを繰り返す。だ から、10年間くらいは、引っ越しや移転は日常茶飯事なのだ。ところが、創業 者でない代表者の時代になると、そう簡単に事務所の移転や事業場所の引っ越 しはできない。もう事業の形が出来上がってしまっているから、おいそれと移 転などという大事はできない。 ●自分が社長をやっている30年間で移転や引っ越しは1回あるかないかだろ う。以前の昭和50年代からバブルまでの超高度成長時代には、頻繁に引っ越し 移転を繰り返した。成岡の在籍した出版社でも、何回もオフィスの開設、移 転、撤退などを繰り返した。ほとんどの事務所とオフィスの移転の責任者、担 当者をしたから、なまじ専門業者より詳しい。作業の段取りなどは、自称プロ 並みだ。移転プロジェクトというのは、中小企業にとっては大きなイベント だ。会社の体質を変える千載一遇のチャンスだ。 ●工場が手狭になった。将来を考えるとここで大きな決断をしないといけな い。将来の成長を考えると、ここで思い切って事業場所の移転をしないといけ ないかもしれない。細かい計算をしないといけないが、どう計算してもシュミ レーションしても、採算が合うかどうか自信がない。誰に相談してもらちがあ かない。かくて、自問自答を繰り返しているうちに、段々見通しが不透明にな る。思い切った決断というのは、なかなか理詰めで決められるものではない。 大きな決断は大雑把に決めないといけない。詳細を詰めるのはその後だ。 <10年先を見た大局観が大切> ●大局観が大事だ。これからの3年、5年、10年を考えると、ここで決断しな いといけない。後継者もいるが、まだ現場の業務に張り付いていて、このよう な大きな経営上の決断を相談してもらちがあかない。幹部の部長連中も、給与 をもらっている立場だから、あまり責任もって大きな決断に対してきちんとし たものを言えない。かくて、社長は独りで悩み、一人で苦しみ、自問自答し、 挙句の果てに結論を先送りする。時間はどんどん経過し、状況は次第にネガ ティブになる。もう、バスはやって来ない。 ●発展の過程に対して、なるべくならコストをかけたくないが、必要とあらば 果敢に投資をしないといけない。何に投資するのか、何にコストをかけるの か、何にエネルギーを注ぐのかを決めること、そしてそれを果敢に実行するこ とが、経営者の最大のミッション、つまり使命であり責務だ。これから逃げて はいけない。決める人が決めないと、誰も中小企業では決める人はいない。リ スクもあるし、不安もあるが、後戻りしない覚悟で果敢にチャレンジすること が、将来の展望や可能性につながる。じっとしていては、何も変わらない。 ●発展途上の企業の場合は、やむなく物理的に場所の移転や工場の増設、拡張 をせざるを得ないときが来る。ここは攻め時だ。しかし、事業が停滞したり、 可もなく不可もなくとなると、現状維持になるのが普通だ。まして、業歴が永 い企業になると、現在の地を離れようと考えたことすらない。建屋の補修 や設備の更新は多少行っても、未来に向けて大きく改革しようとすれば、当然 リスクも伴うし痛みも発生する。新たな費用もかかり、移転する間の売上のダ ウンも覚悟しないといけない。考えれば考えるほど、大きな決断はできない。 <一定の期間ごとに変化を起こす覚悟をする> ●式年遷宮とは一定期間を定めて、お社を新築しそこに移転する。そして、ま た数十年後を見据えて新しいお社を新築する準備をする。大きなコストがかか るが、これが伝統の技術や匠の技を承継する非常に合理的な方法なのだ。一番 大事なことは、期限を決めているということだ。準備が整ったらやりましょう では、まず難しい。人間は難しいことは、普通後回しにするものだ。着手容易 性ということばがあるように、簡単にできることから手を付ける。難しいこと は、どうしても後回しになる。なかなか手が付かない。 ●式年遷宮などというおおごとが難しいなら、新しいメンバーが入ってきたと きにデスクのレイアウトを変更するだけでも大きなインパクトがある。特に新 人が入社したときに、誰のデスクの横に新人君を配置するかは、重要なこと だ。社歴が浅いから一番端っこということではなく、指導役のベテランの左側 に配置するのが一番いい。正面では非常に指導しにくい。ベテラン教育係の左 側が教え易い。たったそれだけのレイアウトの変更だけでも、変化を起こす、 起こさすには十分だ。日ごろから一生懸命に考えておく。 ●会社や組織の中で式年遷宮を行うことは、非常に難しい。人間は基本的に外 部からの変化を拒む。免疫という言葉があるように、外部からの異物の侵入に は必ず抵抗する。そうでないと、身体の健康が保てないからだ。しかし、これ を組織で行うと改善、改革は何もできない。まず、一定期間に必ず組織や体制 の改革をやろうと覚悟を決めることだ。経営者の覚悟なくして式年遷宮はあり 得ない。まず、やるんだと腹をくくる。そこから、具体的にどうしようかと考 える。あまり最初から子細には拘わらない。大きなグランドデザインを描くこ とが、未来につながる。