**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第572回配信分2015年04月13日発行 中小企業の経営者が日ごろから備えること その70 〜どの製品でいくらの利益が出ているかをつかむ〜 **************************************************** <はじめに> ●中小企業の製造業で難しいのは、製品別にどれくらいの利益が出ているのか を正確につかむことだ。特に、一月の間に多くの種類の製品を製造している企 業では、原材料費、副材料費、製造労務費、外注費、製造経費、一般管理費、 借入金の支払金利など、いろいろな費用が発生し、それをどのようにどの製品 にいくら配賦、賦課すればいいのか、よく分からない。おっつけ、どんぶり勘 定になり、だいたいこれくらいではないか?という想定のもとに収益を管理し ている。売上はつかめるが、利益をつかむのは難しい。 ●金属加工業の場合などは、比較的把握しやすい場合もある。使った材料が特 定できる。この加工機械で、誰が、何時間作業した。次の工程にいつ渡した。 次の工程は誰が何時間作業した。いくつ加工できた。格外製品がいくつでき、 A級合格した製品がいくつできた。最終検査でどうなった。これくらいは、そ んなに難しい分類でもないし、作業でもない。記録をきちんとつけて、きっち り毎日管理をすれば、そんなに難解な方程式を解く作業でもない。要は、まじ めに当たり前のことをきちんと継続してやり切るか、ということだ。 ●ところが、原料を購入して、加工したあとそれがいろいろな製品に分散して いく。原料と製品が特定できない。梱包などの副材料も共通で使用する。製造 工程は何段階にも分かれて、それぞれ複数の作業員、従業員が複数の作業を担 当する。繁忙な工程で製品が滞留すると、手の空いた従業員がすぐに駆けつけ て手伝う。外注さんも製品によって、工程ごとにばらける。電気代や水道代な どを製品ごとに分けて配賦、賦課するのが非常に難しい。減価償却費の配賦な ど、夢のまた夢になる。かくて、分からないまま製造される。 <繁盛してゼニ足らずになる> ●それでも、何となくは把握して、何となく売上が伸びていると、何となく利 益が出ているうちは、まだいい。ところが、ある製品の受注がどんと来て、そ れを一生懸命製造するがどうも利益が出ない。売上は伸びて、現場は忙しいの に、最終締めてみるとほとんど利益が出ていない。いや、最悪の場合は赤字に なることもある。どうもおかしいと思っているうちに、原材料の支払いが迫っ てくる。製品を出荷して、売上は立っているが売掛金の入金は再来月になる。 かくて、資金繰りが窮屈になり、売上は伸びているのに、手元資金が枯渇す る。 ●こういうのは、非常によくあるケースだ。特に製品別の原価管理が疎かに なっていたり、ざっくりしか把握できていないと、おおむねこういう状態に陥 ることが多い。手元の運転資金が潤沢にあればいいが、昨今のように輸入の原 材料が円安の影響で値上がりしている場合は、そうは簡単にいかない。まし て、製品の値上げがそうは簡単に通らないから、余計に資金繰りが苦しい。か くて、繁盛しているのに、ゼニ足らずという典型的な繁盛貧乏に陥る。金融機 関にも、うまく説明できない。業績はいいのに。 ●そもそも、過去から現在に至るまでそのような状況にはありながら、何らか の検討をしていないし、対策も打っていない。確かに、本当に正確に完璧には 分からない。しかし、何かを重点的に調べれば、今まで感覚的につかんでいた ものが、多少は数字で客観的につかめるはずだ。この指標、例えば作業の工数 であったり、原料の使用量であったり、作業時間であったり、機械の稼働時間 であったり、何らかの科目、指標を決めて定点観測、定点観察を行い、時間や データを記録する。一か月継続してやると、意外と見えてくるものが多い。 <利益の源泉をつかむのが経営者の仕事> ●やらずに嘆いているだけの企業は、一歩足が出ない。行動に移らない。結構 学歴が高かったり、理屈が先行する企業や経営者の方に限って、やっても無駄 というようなやる前からの決めつけが多い。過去にいろいろとやってうまくい かなかった。だからやっても無駄、という過去からの体験に基づいて判断する タイプ。かたや、そそもそそのようなことを把握することが必要と感じていな い不感症タイプ。必要は分かっているが、どうしてやったらいいのかわかない ので右往左往している能力不足タイプ。 ●いろいろなパターンがあるだろうが、経営者とて完璧人間ではないから、何 らかのサポートを受けながら試行錯誤するしかない。俗に言う管理会計的な手 法を導入し、自社に一番現状で近い最適な方法を編み出し、適応する。中小企 業の製造工程や生産方式には、独特のものが多いから、そう簡単に中堅企業な どでやっているパッケージを導入しても、簡単にはいかない。むしろ、自社に 合うような簡単なソフトを自社用に作り込むほうがいいかもしれない。お手軽 に、その辺で売っているものを入れても消化不良を起こす。 ●卸売業や小売販売業の場合は、製品ではなく商品を仕入れて販売するので、 仕入れ値というものが歴然と存在する。しかも現金商売が多いとそんなに複雑 ではない。大事なことは、棚卸をきちんとやって正確に在庫や商品別の回転率 を把握することだ。ところが、製造業や製造加工業は非常に複雑で難しい。成 岡が以前に在籍した印刷会社でも、最終の納品印刷物単位の最後の本当の原価 というのは、なかなか正確につかめなかった。しかし、できないとぼやいても 仕方ない。利益の源泉がどこにあるかをつかむのは、経営者の大きな責務なの だ。 <執着しないと掴めない> ●不幸なのは従業員だ。忙しい、忙しいと、どんどん追いまくられ、挙句の果 てに不良品を出すと文句を言われる。それは当然かも知れないが機械がついて これない古い場合もある。この製品には適応が難しい機械装置を使わざるを得 ない場合がある。どこの外注先も受けてくれないから、仕方なしに少々不安の ある外注先に委託すると、案の定不良品が発生し、納品先で瑕疵が発生し、ト ラブルとクレームの後始末で社長が走り回ることになる。僅かの黒字が、この トラブルで吹き飛ぶ。 ●それで賞与が払えないと言われても納得がいかない。前期は売上が伸長、伸 びたが最終の利益が出なかったので賞与は昨年並みに出せないと言われても、 もらう側から言わせてもらうと、それはやり方がまずいんじゃないの?という ことを言いたくなる。要するに、経営的に問題があるんじゃないの?と言いた いのだが、中小企業ではそんな禁句を平気で社長の前で堂々と言う従業員は珍 しい。我々のような社外役員的な、直接利害関係が薄い人間が言うのが、関の 山だろう。かくて、そういう声は社長の元には届かない。 ●次第に製造工程や製品規格が複雑怪奇になり、数年前にイメージした原価管 理や工程管理では対処しきれなくなる。しかし、そこにメスを入れると周辺に 連動して直さないといけない不具合箇所が山ほどあり、とてもとても簡単には 手が付けられない。かくて、わかっちゃいるけど、対策が打てないまま数年間 が経過することになる。じわじわと業績の悪化が現実のものとなり、気が付け ば債務超過になっているという企業も珍しくない。一番大事なことは自社の利 益の源泉は何か、ということをどれくらい執着して掴むかだ。