**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第574回配信分2015年04月27日発行 中小企業の経営者が日ごろから備えること その72 〜何を自分がやり、何を外部にやってもらうか〜 **************************************************** <はじめに> ●ある著名な国際機関のトップを務める50歳台の女性が先日新聞に書かれてい た。曰く、「子育てで多忙で心が折れそうになったときに、夫の母親が言って くれた。スーツを1着買うよりベビーシッターに頼みなさいと」。この言葉を 聞いて、胸のつかえがすっとなくなったという。それまで、子育てと仕事の両 立に随分悩んでいたという。姑から、非常に貴重なアドバイスをもらって、そ れからはどんと割り切っていろいろな行動が出来るようになったという。まさ に、何を自分がやり、何を外部に依頼するか。それが非常に重要だ。 ●そしてその娘さんが成人になったころ、母親のキャリアウーマンに国際機関 からヘッドハンティングの誘いがあった。ここでも、非常に迷って娘に一言相 談したところ、「素晴らしいジョブ。ママしかできない素敵な仕事」という励 ましの言葉が返ってきたそうだ。その一言に背中を押されて、今では国際機関 では珍しい女性の最高峰の位置で頑張っている。まさに、この人しかできない ことをやり、外部にお願いすることは割り切ってお願いして、見事に現在のポ ジションをつかんだ。これを逆にする人がいる。 ●特に経営トップが逆の判断をすると、会社全体がおかしくなる。振り返って 自らの失敗を告白すれば、15年間在籍した出版社では見事にそれが逆転してい た。出版社の命は、企画。企画ができない出版社は一文の値打ちもない。しか し、ヒットする企画を考えたり、生み出したりするのは難しい。至難の技の部 類に入る。売れる、ヒットする企画を次々と出さないと、経営的には非常に苦 しい。なので、どうしても量産型で安直な企画や、二番煎じで物まねの企画に 陥ることになる。そうなると、編集者がオリジナル企画を考えない。 <本来するべきことは何か> ●そこで安直に走ったのが、海外から版権を買ってきての翻訳もの企画だっ た。ご存じだろうか、出版業界では年に1回大きなイベントがフランクフルト の見本市会場で開催される。世界各地からいろいろな出版社がブースを出し、 自社の企画を他国に売り込む一大イベントなのだ。主に10月に開催され、多く の出版人が訪れる。そこで、海外で出版された企画を買い付けることになる。 日本国内で売れるかどうかは分からないが、とにかく色々な競争相手との入札 になることも多い。当然売れそうな企画は、値段が吊り上る。 ●よしんば入札に勝って版権を手に入れても、今度は国内で翻訳して出さない といけない。また、そこに多くの投資が必要となる。そして出してみないと売 れるかどうか分からないことも多い。一番の問題は資金もさることながら、企 画を外部から買ってくることにある。企画を買ってくると、編集者はそれを外 部の翻訳会社に依頼して日本語化し、出版する。一番大事な、自分達で企画を 考え、いかにして読者を引きつける企画を考えるかが、もう飛んでしまってい る。発売期日までに書籍の形にする作業を担当している。 ●作業者になり企画者にならない。しかし、目先の仕事は重要だ。かくて、ス ケジュールに追われて作業を一心に追いかける。一番大事な企画を考えるとい う本来のミッションがどこかへ飛んでいく。挙句の果てに、海外との版権を仲 介するブローカー的な会社からの持ち込み企画に乗ってしまう。それが仕事だ と錯覚する。一番大事な、何を自分たちがやり、何を外部に委嘱、委託するの か、という切り分けが全く逆転する。作業に一生懸命になり、本来するべきこ とがお留守になる。そのような企業は、実は多くある。 <どこと補完関係を結ぶか> ●気が付いて意識していれば、まだいい。不幸なのは、それに気が付かないこ とだ。足下ばかり見ていて、遠くを見ていないからどうしても近視眼的にな る。当然、目先の業績に大きな陰りがあれば、まずそれを何とかするのが先決 だろう。しかし、全員が目先のことだけをやっていては、社長が部長の仕事を して、部長が課長の仕事をしていることになる。そんな中小企業は、実は多く ある。自分たちは、いったい社内で何をするべきか、何を外部にお願いして やってもらうのか。その切り分けは、会社の大きな方針から出発する。 ●要は、何が自社のコア=核となる部分なのか。それを強化し、育成し、成長 さすことが自社の成長や発展につながる。先ほどの出版社の例で言えば、企画 を考える編集者をいかに育てるか。いかに目利き能力をブラッシュアップする か。いかにそのような出来る人材を自社で育てるか。確かに一朝一夕にはいか ないことは百も承知。だからと言って、目先目先のことに走り、安直に外部か ら大事なものを簡単に買ってくることばかりをやっていては、到底そのような 人材は育たない。未来永劫に育たないし、育つわけがない。 ●製造業しかり、サービス業しかり、卸売業しかり、小売業しかり。何を自社 で行い、何を外部に協力をお願いしてやってもらうのか。こうなると外部の企 業も単なる外注先から、戦略的なパートナー企業と言う位置づけにならないと いけない。単に下請けというポジションから、自社の大事な業務の一部を委託 委嘱しているパートナー企業になる。自社は徹底的に、自分の企業でしかでき ないことに特化する。また、その強みを活かし、伸ばす部分に集中的に投資を する。外部には足りない部分を補ってもらう。相互に補完関係になる。 <何に集中し何を外部に切り出すか> ●ただし、時代と共に社内に残す業務と外部に切り出す業務は変わる可能性が ある。そこは経営者が、多分にカンを働かし、人脈や過去の蓄積を総動員し て、判断し結論を下す。そして、時間をあまりかけないで果敢に体制の変更や 異動を行う。技術開発力が突出しているなら、それをとことん極める。製造工 程は、場合によっては外部のOEM体制で生産を委託する。自社は開発に特化 し、そのようなセンス、能力のある人材だけで固める。自分たちで営業するよ り、代理店に委嘱する。販売店に委託する。 ●ユニクロのようにSPA方式で、生産から販売までを垂直統合し一気通貫で行 う企業もある。しかし、これを出来る企業は少数派だ。中小企業は、まずは自 社の強みに特化して、何を自社でやるのかを明確にする。そこに集中的に投資 を戦略的に行う。限られた経営資源だから、分散してはいけない。この自社に 残すコアな業務と、外部へ切り出す変動要素の部分を逆にする企業も、ある。 開発が大事なら、開発にエースを投入する。資金も集中的に投下する。最低3 年間はそのような明確な戦略を定める。 ●そして考えていることを、社内外に公約として掲げる。頭の中だけで考えて いたのでは、外から分からない。おっつけ、社員や幹部からは、社長が考えて いることが見えないというブーイングが起こる。旗を掲げ、従業員を鼓舞し、 方向付けを行い、経営資源を集中的に投下し、そして小さな成功でいいから、 それを継続して積み重ねる。一発大ホームランをねらってはいけない。小さな 成功事例の積み重ねこそが、自社を継続的に成長させる原動力なのだ。まず、 何に集中し何を外部に切り出すか。何を所有し、何を使用するのか。そこを間 違えないことだ。