**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第582回配信分2015年06月22日発行 中小企業の経営者が日ごろから備えること その80 〜売上の数字以外に目標とする経営指標の数字を決める〜 **************************************************** <はじめに> ●大企業のように中期計画などと言う洒落たものがない中小企業が多いと思う が、さすがに年度初めや、正月の仕事始めなどのときに、社長や代表者の方が 売上の目標などの数字をスローガン的におっしゃることが多い。今年は売上を いくらいくらを目標にやるとか、前年比較で2割伸ばすとかを掲げることが、 ままある。しかし、聞いている社員や従業員にしてみたら、どうもぴんと来な い。自分の仕事に振り返って考えるから、それが自分のやっていることに、ど う結び付くのか、いまいちぴんと来ないまま、ただ聞いている。 ●また、親父がぶち上げているという感覚で聞いている人がほとんどで、それ なら自分たちは何をしないといけないのか?聞いただけで一生懸命考える人は 少ないだろう。もっと具体的な行動指針を言わないと、従業員やメンバーは何 をしていいのか分からない。だから、売上数字の目標だけを掲げても、実際の 達成は非常に困難だし、おそらく現実的にはスローガンで終わってしまう。期 末が近付いて、どうも乖離が大きくむなしく目標の数字だけが独り歩きしてい る。とても達成など、おぼつかない。 ●かくて、残り2カ月くらいになって、あまりに差が大きいので、諦め、厭世 ムードが漂い、目標が完全に宙に浮いてしまう。そうなると誰一人、これを達 成しようと高いモチベーションでやる気を出さない。もう、はるかに手が届か ない目標になり、誰も数字のことを言いださなくなる。最終の期末に数字を締 めると、達成率が70%くらいに留まり、またぞろ今期も未達成で終わってしま う。それなら、届かない数字を掲げること自体が白けたことになり、逆効果に なる。初めから売上の目標など掲げないほうが良かったということになる。 <基本は売上より利益> ●売上の数字だけを目標に掲げるから、こういうことになる。確かに売上の数 字は大事だ。会社のすべては、この売上の数字から始まるが、それ以外の目標 とする数字を設定しないから、単に売上の数字を追いかけることだけが、当面 のターゲットになる。その売上の目標と並行して、どのような数字、指標、 チャレンジする目標を追いかけるのか。それを全然提示しないと、売上の数字 が目標と乖離すると、途端に糸の切れたタコのように、目標を見失って経営が 失速する。そういう企業が多い。 ●大事なことは、売上以外の目標数字、例えば利益の額、率など別の数字目標 を設定しないといけない。もちろん、業界、業態、規模感、業歴、従業員数な どによっても変わってくる。製造業なのか、製造加工業なのか、卸売業なの か、小売業なのか、サービス業なのかによっても、全然違う。サービス業で も、どのようなサービス業か。飲食業か、IT系の企業か、美容理容業か。サー ビス業と言っても、非常にすそ野は広い。飲食業でも、いろいろな飲食業があ る。自分の企業はどのポジションにあるのか。それを明確にする。 ●いくら売上が大きいと言っても、最後は利益がどうなったかで、大きく異な る。もちろん、利益の源泉は売上、そして原価を引いた粗利だ。そこから、営 業経費や運営経費がが差し引かれて、営業利益になる。この営業利益が本業の もうけだから、営業利益をどれくらいにできるのか、売上に対して何%になる のかは、非常に重要な指標だ。しかし、突然いきなり従業員に営業利益率10% を目標にするとぶちあげても、そもそも営業利益率という指標自体の持つ意味 が分かっていないと、全くぴんと来ない。学習が必要だ。 <売上以外の目標とする経営指標を定める> ●もっと難しい経営指標も多くある。大企業では、最近はやりのROEだとか、 ROAだとか、総資産回転率だとか、いろいろと経営指標はある。それもが大事 な数字指標だが、自社の経営スタイル、規模、業種業態、現在の置かれている 経営状態に照らして、どのような指標、数字を経営目標にすればいいのかを考 えることは非常に重要だ。また、労働集約型の企業、すなわち人海戦術的な企 業の場合は、人件費の総額や割合も重要な数字指標だ。それも、売上に対して なのか、付加価値に対してなのか。 ●どの企業も税理士さんが決まっていて、その税理士さんが月次の決算をして 試算表を作成し、1年間の決算業務を担当しているはずだ。そこからも、多く の重要な知見が得られるはずなのだが、それが意外と有効活用されていない。 企業側も有効な質問ができないから、どうしても税理士サイドも、敢えて面倒 な議論に踏み込まない。コンピューターから出てくる決まった文言のコメント が印字されただけの月次試算表が毎月送られてきて、それを読むでもなく、単 に引き出しに入れて終わりになる。 ●一度真剣に売上以外の目標とする経営数字、指標数字を考えてみることは、 非常に重要だ。これを考える過程で、いろいろと勉強することが出てくるはず だ。特に創業者でない経営者の方で、業歴の長い企業の場合は、特に重要なこ とになる。自分が創業者で、10年や20年くらいの業歴だと、創業設立から今日 までの経過は全部頭に入っている。だから、経営の勘所も、ぴんとくるものが あるが、受け継いできた後継者の方が現在の経営者だと、創業からの苦労は全 く分からない。だから、数字を見るときに真剣になれない。 <最後は経営者の心構え次第> ●成岡も自分自身が経験しているが、一度企業経営が最大のピンチを迎え、倒 産の悲劇を味わっていると、その数字を見る真剣度が異なる。あるいは、棚卸 資産の数字、特に在庫の数字には非常に敏感になる。あるいは、どんどん人が 増えていった時期には、総人件費の合計金額などを、毎年毎年絶対値で比較す るなども、非常に重要だ。一般に、売上を伸ばそうと思うと、変動費は当然の ことながら増加するが、固定費も増加することが多い。経営上の理屈では、固 定費だから売上が伸びても、固定費は固定費で変わらないはずだ。 ●しかし、全く固定費が変わらすに売上だけが伸長することなど、なかなか難 しい。どうしても売上を伸ばそうとすると、固定費と言えども固定ではなく、 増加するものだ。この売上の伸び率と、固定費の伸び率を常に数字でチェック されている企業経営者の方もいらっしゃる。固定費の伸び率を、売上の伸び率 の半分以下に抑える、それが当社の経営目標だと立派に理屈をきちんとおっ しゃる経営者の方もいらっしゃる。そのような経営者の方が経営する会社の業 績は、当然のことながら、非常に立派だ。 ●あるいは、過去に一度会社の経営が左前になって、資金繰りで非常に苦労さ れた方の場合は、毎月の棚卸を実にきっちり正確にされている。在庫の数字が いい加減で、それがもとで資金繰りに困窮した経験のある方ならわかるだろう が、在庫や棚卸の数字が分からないで、経営など到底できるものではない。そ の企業では在庫の数字が一定の金額を超えないように、常に目を光らせてい る。ことほど左様に、売上数字以外に自社の経営にとって何の数字、指標が大 事なのかを決めることだ。それをきちんと追いかけている企業は、非常に強 い。