**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第584回配信分2015年07月06日発行 中小企業の経営者が日ごろから備えること その82 〜会社が成長するのに必要な経費まで削ってはいけない〜 **************************************************** <はじめに> ●業績が悪くなってくると、特に外部から経営改善の要求が厳しくなる。利害 関係者の最大が金融機関であることが多いので、どうしてもそちらからの経営 改善のリクエストが多くなる。現在の日本の経常収支と同じで、プライマリバ ランスが赤字だから、何とかこれを数年後に黒字化したい。これは、もう国際 公約になっている。しかし、現在の政府が考えているのは、歳入が伸びて何と か黒字化できるだろうというものだ。つまり、一般企業で言えば売上を伸ばし てキャッシュフローをプラスにするという計画だ。 ●この計画に稲田政調会長がかみついた。歳出の削減目標を数字で盛り込むこ とを提案したが、うるさがたのバッシングと霞が関の猛反対にあって、和えな く頓挫しそうになっている。ことほど左様に、歳出を削減すること、つまり出 ていくおカネをカットする計画には、こぞって全員が反対する。自分達の領域 に土足で上がってくるようなことは許されないと。他の部門のことはいざ知ら ず、自分達の省益、権益は絶対に縮小することはあり得ない。あったとした ら、それは自分の首を自分で締めることになる。 ●しかし、民間企業は親方日の丸ではやっていられない。何とか経常収支、 キャッシュフローをマイナスからプラスにしないといけない。キャッシュフ ローがマイナスと言うことは、理由のいかんを問わず手元のおカネがどんどん 目減りしていくことだ。少々規模の大きな企業になると、毎月何百万、何千万 円のおカネが羽が生えたようにどんどん減っていく。通帳の残高を見るのも怖 いというくらいの速度で、どんどんと資金が外部に流出していく。これは何と かしないと大変なことになる。 <単純に固定費を削減することは間違い> ●そこで外部の金融機関がまず申すのは、経費、固定費を削減しなさいという ことだ。決算書や試算表の一般管理費を見て、その勘定科目の中で感覚的、経 験的に多い、過剰な科目はだいたい見てすぐにわかる。よって、嵩張っている その経費を削減せよと。何の理由でそのような費用が出て行っているのかは、 関係ない。とにかく一般論で費用が多い箇所に関しては、自前でできるアク ションだから社内的なコンセンサスを得られれば、手の施しようがないわけで はない。 ●売上を伸ばしたり、仕入の原材料を低価格のものに切り替えたり、いろいろ とアクションの取り方はある。しかし、何よりも即効性があり、効果が速く上 がるのは、固定費の削減が一番だ。かくて、色々な経費を見直して、どの経費 がもっと削減できるのかを考える。現場の生産性や仕事の段取りなどは関係な く、場合によっては一律に5%カットとかいう愚策を実行せよと迫ってくる金 融機関もある。ここで大事なことは、固定費の削減は致し方ないが、今後の成 長のために必要な費用までカットしてはいけない、ということだ。 ●特に営業関係の経費、費用の削減は慎重に行うべきだ。営業関係の経費が正 しく使われていれば、なかなか今日有効に削減するのは非常に難しい。それよ りも、経費や固定費の削減の視点を、無駄やロスをなくす、仕事を効率的に行 うという観点に切り替えるべきだ。絶対的に必要な経費を削減までして、幸い にもキャッシュフローが捻出できたとしても、それは一時的なものに過ぎな い。経営は継続性が重要だから、絶対に将来の成長に必要な費用を削減しては いけない。ガソリンを入れないで車は走れない。 <固定費の削減より仕事の効率を上げる> ●効率的に業務を行うとは、どういうことを意味するのか。分かりやすい例で 挙げると、従来営業と技術が2名で出張に行っていたのを、どちらか1名にす る。これで旅費交通費は、その分に関しては半分になる。社長と会長が業界団 体の会合に両者が出席していたのを、どちらか1名にする。会議にある部署か ら2名参加していたのを、誰か1名に限定する。接待の席に複数参加していた のを、1名に限定する。とにかく、誰もが複数の業務を理解し、こなし、結果 を出せるようにする。 ●業務は段取りを重視し、その場その場での意思決定を限りなく少なくする。 翌日の段取りは必ず前日に行ってから帰る。現場に行ったら何が起こるか分か らないから、限りなく可能性が少ないことも想定し、予備の機材や材料を少し 準備しておく。時間には少し余裕を持ち、15分前に必ず現場に到着しているよ うにする。車の移動を極力減らし、公共交通機関での移動を心がける。車の移 動は時間が読めないことと、運転中いっさい何もできない。公共交通機関なら 移動中にいろいろな仕事ができる。 ●朝の定時からすっと全員が100%の出力で業務が円滑に廻るようにする。15 分早く来ていろいろと段取りしておけば、朝一番の業務がすっと始められる。 それが、来てからもたもたもたもたもとしていると、気が付けば11時くらいに なって、出そびれる。まあ、仕方ないかと午後から外に出る段取りを組むこと になる。それが前日の準備がきちんとできていると、10時前には外に出かけら れるようになる。午前中に相当な仕事の結果が出せることになる。この差は大 きい。これが365日全員がそうだとしたら、相当なアウトプットが生まれる。 <まず経営陣の頭の中を変える> ●要するに、何も経費を無理やり削減したり、カットしたりしないでも現状の 日常の中で大きな無駄、ロスが発生している。在庫の確認のためにいちいち倉 庫に足を運んで確認に行く。画面に出ている在庫の数字が信用できないとい う。営業全員がリアルタイムにきちんとデーターを入力しないから、画面の数 字に確信が持てない。かくて、その女子事務担当者の15分から20分は無駄な時 間だ。無駄な時間はコストなのだ。無駄な電話、無駄な会議、無駄な移動、無 駄な資料作成。これらは実際費用が出ていくのではないが、時間が無駄になっ ている。 ●会長、社長、専務、役員、幹部がこのような無駄な感覚に汚染されている企 業は、実は非常に多い。なぜかと言うと、自社のやっていることが一番正しい と思い込んでいるからだ。他社のすごいレベルのことを全く知らない。知ろう ともしない。実は競合他社は。ものすごい馬力で業務の革新、改善をしてい る。社長が先頭に立ち、IT技術を駆使し、従来になかったような営業展開をし ている。末端の営業マンが全員タブレット端末を持ち、それを持ち歩くことで 従来の営業の生産性を飛躍的に高めた企業もある。 ●まず、固定費削減ありきではない。バカのひとつ覚えのように何でもかんで も削減すればいいというものではない。将来の会社の成長のために必要と思わ れる経費は削減してはいけない。若い世代の社員を確保し、教育し、レベル アップを図ることは非常に重要だ。それより、現在の業務の棚卸をして、無駄 な動きを徹底的に排除する。業務の効率をあげる。2人でやっていたのを、 1.5人、さらに1人でできるようにする。そいうい生産性を上げることが、歩 留まりの向上につながり、結果的に業績の劇的な改善につながるのだ。まず、 足下から行うことだ。