**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第585回配信分2015年07月13日発行 中小企業の経営者が日ごろから備えること その83 〜業歴の永い企業ほど会社の中に不要なものが蓄積する〜 **************************************************** <はじめに> ●今回オフィスを実家に移転してみて、つくづく場所が広いと不要なものを置 いておくものだと痛感した。成岡は、過去の中小企業経営の経験中、かなり多 くの事務所の移転を請け負った。狭い本社から新築の広い新しい社屋に移転し たこともあった。逆に、業績が悪化し、広い社屋から狭い古いオフィスに都落 ちしたこともある。東京都内で6か所の分散していた小さな事務所を、お茶の 水の新しい一棟借りしたビルに一斉に移転した大技を仕切ったこともある。ど のときも一緒だが、2日間で完璧にやらないといけないプロジェクトだ。 ●狭いオフィスから広いオフィスに移転したときは、ものを置く場所には困ら ない。なにせ、今まで窮屈な狭い場所で暮らしていたのが、広い場所に移転す るのだから、逆にがらんとして変な感じがする。旅館の大広間のど真ん中で寝 るのは、少々気持ちが悪いのと同じだ。しかし、心配は要らない。時間もあま りかからないうちに、あっという間に什器や備品が揃えられ、段々手狭な感じ がしてくる。キャビネットやロッカー、書棚、デスクがどんどん増えて、その うちに移転した時とは、全く違う風景になる。 ●お尻をぶつけながら、蟹歩きで横の人の椅子の後ろを遠慮がちに横歩きで歩 いていたのが、十分スペースがあるからゆったりと歩ける。確かに空間の余裕 はできたが、逆に部署ごとの距離が遠くなり、コミュニケーションが悪くな る。コミュニケーションの密度は距離の二乗に反比例するという、自分で勝手 に考えた法則がある。特に、フロアーが数階に分かれると大変だ。このフロ アーは管理部門、このフロアーは営業部門、このフロアーは製造部門などと分 断されると、途端にコミュニケーションが悪くなる。 <自ら勇気をもって変化を起こす> ●よって、なるべく一か所に集まっているほうがいい。特に、製造開発部門と 営業部門は近いほうがいい。顧客に近い営業部門と、商品開発や製造部門とが 密に情報を共有しないといけない。しかし、フロアーが分かれたりすると、ど うもうまくいかない。かくて、最近ではワンフロアー、中に柱のないオフィス が重宝がられる。確かに、一か所にぎゅっと凝縮していると、いやでも隣の部 署で何が起こっているのかが、手に取るようにわかる。いいことも、悪いこと も、すぐに伝わることが大事だ。 ●以前にも書いたが、移転とか組織変更などということは、変化を確実にもた らす。これはトップの決断以外にありえない。また、急に今日思いついて、明 日実行できるものではない。組織変更には、最低3か月間くらい準備にかかる と思っていた方がいい。09月末決算、10月から新年度の会社(弊社もそうだ が)なら、この07月くらいから構想を練り、08月に関係者と情報共有し、09月 に具体的なイメージを固めて発表する。そして、10月から新年度を迎える。事 務所の移転も同じだ。3か月くらいかかって準備を行う。 ●小規模な企業なら組織変更は難しい。20名くらいまでなら、全員が兼業して いる。部門もあるが、それは大した機能を果たしているのではない。一応、そ のように決めているが、全員で守り全員で攻めている。そういう企業に大きな 変化をもたらすには、事務所の移転やレイアウトの大幅な刷新、大きな設備の 入れ替えなどが、会社に変化を与える大きなチャンスだ。これは、じっとして いては何も起こらない、トップ自らが決断し、一度決断したことはこだわりを 持ってやり抜く覚悟を見せないといけない。途中で止めることは避けたい。 <思い切って捨てる勇気をもつ> ●特に業歴が永い企業になり、場所も変わらない、組織もなぶらない、もちろ ん経営トップは変わらないから、企業が成長に応じて脱皮していくイメージが ない。いつも同じメンバーが、いつも同じ席に座り、いつも同じ会話をしてい る。そういう息苦しい環境を壊すのは、経営者が自らちゃぶ台をひっくり返さ ないといけない。人間は変化に対して抵抗する免疫を常に備えているから、そ の免疫を入れ替えるくらいの変化をもたらすには、非常に大きなエネルギーが 必要だ。よって、トップの年齢が高くなると、エネルギーが枯渇する。 ●また、業歴の永い企業ほど会社の中に不要なもの、捨てないといけないも の、過去の遺物が蓄積したままになる。たまには、押し入れ、冷蔵庫などを 空っぽにするくらいの勇気ある決断が必要だ。現実の経営では、例えば在庫、 仕掛品、原材料の古いもの、未回収の売掛金、過去に支払った未精算の仮払金 などが、貸借対照表の左側にたくさん存在する。先代の経営者からのマイナス の遺産もある。通常は、なかなか思い切って償却したり、捨てたりできない。 バランスシートに大きな欠損、傷がつく。怖くてできない。 ●捨てられないと、当然どんどん嵩張る。車のトランクに不要なものを積んで 走ると、当然燃費が悪くなるのと同じだ。皮下脂肪が増えて体重が重たい人 が、57Kgの体重の成岡とマラソンを走れば、当然身軽な方が速く走れる。つま り、経営の要諦は不要なものを、常に捨てる勇気を持つことだ。そのきっかけ を経営トップは自ら生み出さないといけない。収納する場所が多いほど、不要 なものがたまる。場所が広いなら、新しい酒を新しい革袋に入れないといけな い。そのために、常に人材を外部に求めたり、情報を仕入れる。 <入れる場所が広いと要らないものをためる> ●とにかく、収納場所が広いとろくなことはない。成岡も40年ぶりに実家に 戻ったが、それはそれは代々残してきた遺物、遺産がごまんとあった。急に全 部捨てられないから、徐々に徐々に時間を見つけてはやっている。しかし、完 全にできるには最低5年くらいはかかるだろう。それくらい、先々代から残し たものが多くある。もちろん値打ちのあるものもあるだろうが、今の時代にそ ぐわないものも多い。贅肉を削ぎ落すには、相当な時間がかかる。ダイエット は時間がかかるが、リバウンドは早いのと同じだ。 ●今回は独りでやったので相談することなく、躊躇することなく捨てるものは 捨てた。なかには、後日になると間違って捨てたものもあったかもしれない が、そんな損失より捨てて新しい場所を作ることのほうが先決だ。今まで、ご まんと移転を行ったが、捨てた資料で復活しないといけなかったものは、皆無 に近い。なかったらないなりに、何とかするものだ。前任者からの引き継ぎ も、そこそこでいい。前任者の方法より、次の担当者が工夫して変えればい い。あまり無暗に引継ぎを行うのは、得策ではない。 ●後継者への承継も同じだ。収納場所を指定し、ここには必ずこれを入れると 先代から指定されると、身動きが取れない。それより、時代環境が変わったの だから、新しい担当者、新しい経営者の考えでやればいい。先代は、手は出さ ないが眼を離さない程度の距離感でいい。特に、先代からの負の遺産を出来る 限り早く処分する。いっときダメージがあっても、すぐに回復できると判断し たなら、果敢に捨てる。場所が広いと良くない。要らないものを捨てないか ら。常に新しく脱皮し続けないと、企業は一気に陳腐化する。