**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第587回配信分2015年07月27日発行 中小企業の経営者が日ごろから備えること その85 〜なんとなく決まったことは絶対に達成できないと心得る〜 **************************************************** <はじめに> ●天下のあの東芝の不正会計処理事件は衝撃だった。おそらく、いろいろな訴 訟が起こり、この傷を癒すには相当の時間と費用がかかる。業績の見栄えを良 くしようとしてしたことなので、宮仕えのサラリーマン諸兄は担当者の心情が 痛いほどわかるだろう。社長以下、役員がずらっと並んだ御前会議で担当部署 の業績が悪い事業部長ほど、針のむしろの心境だ。いっそ、この会議に出たく ない。仮病を使って欠席でもしたい心境だ。欠席しても、何も変わらないこと など、百も承知だが。とにかく逃げ出したい気持ちになる。 ●業績がいったん悪化の道をたどると、さながら会議は魔女狩りの様相を呈す る。成岡が15年間在籍し、売上が100億円を突破した出版社でも、ピーク時か ら転げ落ちるのは早かった。バブルの絶頂期に売上のピーク100億円を記録 し、それからわずか5年くらいで破綻した。さながらジェットコースターのよ うだった。その際に、当時担当していたのは新規事業部門。20億円程度の売上 があり、そこそこ利益も出ていたから、何とか業績の悪化を食い止める防波堤 のような事業部だった。しかし、業績は当然徐々に悪化してくる。 ●会議では、他の部門の赤字をカバーするために売上計画の上積みを要求され た。自分の部門の予算、計画すら達成が困難な現状なのに、さらなる数字の積 み増しは不可能と断固突っぱねたが、一族同族の役員が責任者の部門がそんな ことは言ってはならないと、一喝されていつの間にか数字が勝手に増額され た。全く心外で納得していないが、議事録には会議で決定した事項としてその ように書いてある。議事録を書いた管理部門の常務にかけあったが、そう決 まったと頑として譲らない。とうとう妥協してしまった。 <終わってから結論が迷走する> ●このようなことが、末期にはいたるところで起こる。これほど深刻でないに しても、幹部会議できちっと結論が出るようなことは、逆に珍しい。何となく 社長がコメントし、何となく担当責任者が意見を言う。以外の参加者は、ひた すら沈黙を決め込んでいる。不要な、不興を買うような発言は、ご法度だ。必 要でないことを言って、墓穴を掘るより、自分の責任範囲に話題が及ばないよ うに、ひたすら念じている。無風で通り過ぎることを、切に念じつつ台風が来 ないように祈っている。運がいいか、悪いか、という抗えない選択肢もある。 ●中小企業の会議に出ていると、本当に会議で真剣に経営者と幹部が検討、討 議をしているのは、あまりお目にかからない。経営者の方が、ワンマンであっ たり饒舌であったりすると、独演会になる。代表者お一人で、相当時間演説さ れる。参加の幹部は、黙って聞いているだけ。時間が経過し、結局何がそこで 決まったかどうかは、分からない。結論がどうなって、誰が、いつまでに、何 を、どのようにするのか。終わってから、幹部の方が逆に当方に確認に来られ る場合もある。そして、どうなったんでしょうか?と。 ●会議は、「会して」「議する」だから、いろいろな参考意見を戦わせ、討議 することが目的だ。一度、ある大きな企業の会議にお邪魔したことがあるが、 代表者の方は最初から一切発言しなかった。隅っこに座って、目をつぶって 黙って討議を聞いていた。司会進行は、長男の常務が担当していた。ぼちぼち 意見も出尽くしたという時点で、突然発言。「・・・・君、君はどう思うかね ?」とある幹部に質問される。そして、その答えを待って、「分かった、よ し、やろう。」以上で、会議は終わった。立派だと非常に感銘を受けた。 <昔は喫煙室で会議の結果が決まる> ●何となく、結論がどうなったのか、よく分からない会議は結構多い。もっと 言えば、誰が、いつまでに、何を、どうやって、という基本的な内容が不透明 なことが多い。確かに、この4つがきちんと明確に決められない場合もあるだ ろう。いろいろな応用問題が発生したり、前提条件となることが急変すること もあるだろう。しかし、それを言いだしたら何も決まらない。会議で結論を出 すなら、最後は経営者、代表者が決断をしないといけない。それがトップの責 任だから。意思決定をすることが、トップの仕事だから。 ●これが、あいまいな結論になると、逆に混乱を招く。参加メンバーの受け止 め方が、各自各様にそれぞればらばらなのだ。自分の責任範囲のことだと受け 止めている人は意外と少ない。他部署の責任だとか、別の人がやることだと か、それは管理部門の仕事だとか、とにかく自分のミッションだと感じている 人が少ない。会議の最後に確認しないほうも悪いが、往々にしてそのようなあ いまいな意思決定が多い。最悪なのは、会議で決まらず、会議のあとに数名の 関係者で談合的に決まってしまう場合だ。 ●少し昔は会議で喫煙する人が多かった。大半煙草を吸っていた。近年、禁煙 の会議が多くなり、喫煙は喫煙ルームですることになった。途中休憩の喫煙タ イムで喫煙室で重要なことが決まるケースも、よくある。あるいは、会議が終 わってから、経営者が数名を残し、そこで御前会議が行われて決まるケースも ある。あるいは、前述のケースのように、会議では決まらなかったことが、議 事録で明記されていることもある。あいまいな意思決定ほど、あとあと悔いを 残す結果になることが多い。経験的に、これは間違いない。 <あいまいな結論なら結果は出ない> ●なぜ会議で単刀直入な会話ができないか。それは、参加者がいつもその課題 を明確に認識、意識していないからだ。中小企業の幹部は、大半がプレーヤー だから現業の業務に忙しい。会議で討議される経営上の重たい課題を、いつも 考えているわけではない。役付役員という、専務、常務でも、大半は現業のプ レーヤーだ。呼称だけ専務と言う立場の方も多い。本当に会社の将来を真剣に 考えているのは、悲しいかなトップのみという企業が、実に多い。そのトップ も、時間の大半を現業業務に費やしている。 ●結局、誰も大事なことを日ごろ考えていないから、そのような重要な場面に 出くわすと、何も決まらない。中小企業では、唯一社長のみが将来のことを考 えているかと言えば、これがそうでもないケースが多い。人数が少ないと、代 表者も半分以上プレーヤーになっている。そうなると、重要なことを決定しよ うという会議では、何も決まらない。決まらないというより、課題を認識し、 その対策を考え、意思決定するのに十分な時間や環境が整っていない。しか し、時間は待ってくれない。仕方なく、何となく、決まったか決まらないか、 あいまいに終わる。 ●以前に社外役員をしていた企業の会議の社長が出した結論は、「今日の会議 では何も決めなかったことを決めた。」という、非常に意味不明で、かつ笑止 千万な結論の会議があった。しかし、これを笑えない企業も多い。何となく決 まったか決まらないかという曖昧模糊の結論は、おそらく絶対と言っていいほ ど実行できない。やらねばいけないことが曖昧であれば、誰も当事者意識がな い。我がことと思っていない。それで結果が出るはずもない。まずは、トップ がきちんと明快な結論を出すことだ。そこから、すべては始まる。