**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第590回配信分2015年08月17日発行 中小企業の経営者が日ごろから備えること その88 〜伝統の行事は形を変えてでも守り継続継承する〜 **************************************************** <はじめに> ●京都だけではないだろうが、このお盆の時期には伝統的な行事がいろいろと 行われる。京都市内では、ご存じのように伝統の大文字5山の送り火が行われ る。当日の天候が心配だが、少々の雨では強行されることが多い。なにせ、こ のたった1時間くらいの送り火という行事を見に観光客の方々が多くいらっ しゃる。少々の雨で、翌日に順延などはできない。まして、今年は08月の16日 当日は日曜日と重なった。翌日の月曜日の夜に先送りすることはあり得ないだ ろう。数年前も、相当の降雨の中でも行われた。 ●事務所を衣笠に移転して、場所は左大文字の真下になった。真下といって も、本当に真下。左大文字の火床まで直線距離で100mくらいではなかろうか。 行事の時の、地元保存会の方々の声も聞こえるし、顔も何となく見える。それ くらい近いので、見ていると大文字の形に見えない。あまりに近すぎるので、 そうなるのだろうが、きれいに見るには相当離れた場所に移動するしかない。 庭の水銀灯も含め、京都市からは照明を消して欲しいと要請があるくらいだ。 左大文字は200mくらいの低い山なので、照明が邪魔になる。 ●08月になると、先祖の霊があの世からお盆の間はお墓から自宅の仏壇に帰っ てくるという。先祖の霊を迎える行事を精霊迎えといい、近くの寺院(だと思 うが)でその行事がある。従って、08月になると、まずそこに行って先祖の霊 を迎える準備をする。そして、お盆の前に先祖の霊が仏壇に戻って来る。だか ら、お盆にお墓参りに行っても、お墓はもぬけの殻になっている。だから、仏 壇を綺麗に掃除をして、先祖が年に1回戻ってくる準備をしないといけない。 そして、5山の送り火であの世に、また先祖の霊が戻っていく。 <変えないといけないのに変えられないもの> ●しばらく前までは、こういう伝統行事と縁のない生活をしていた。仏壇も、 墓参りも、実家の母親に任して仕事に集中していた。先祖の霊のお守などは、 業務の範疇の外だった。ところが、環境が変わって実家に誰もいなくなり、事 務所を実家の中に構えたので、伝統行事を承継することになった。これが結構 面倒なことで、いろいろと段取りもある。成岡家は金閣寺の檀家であり、お墓 も金閣寺の参道の横にある。金閣寺から、仏壇のお参りに来るというので、大 騒動で事務所を掃除して、お寺さんを迎えることになる。 ●伝統行事はこれだけではない。京都にもいろいろな決まり事もあるし、家に もいろいろな伝承の行事がある。世代も変わったので、全部をそのまま承継、 引き継ぐ必要はないが、大事なものはやはり守っていきたいものだ。それぞれ に、こだわりがあり、それぞれに継承してきた方法や流儀、伝統や決まった手 順がある。取捨選択すればいいが、やはり先祖から大事にしてきたものは、大 事にしたい。何を止めて、何を残すか。何を大事にして、何を変えるか。それ は承継された者が決めればいい。 ●よく言う、「変えるもの」「変えないもの」を明確にすることだ。意外と、 この2つは明確になっていることが多い。伝統を大事にすることは、この「変 えないもの」が何かと言うことを明確にすることだ。また、「変えるもの」と いうのは、明らかに時代にマッチしなくなったものだ。大多数の関係者は、こ の2つは明確にしていることが多い。一番やっかいなのは「変えるべきだが、 すぐには何かの理由で変えられないもの」なのだ。これを放置して長い時間 ほっておくと、必ず何か経営的に齟齬を来すことが多い。 <ルールを決めて継続することが伝統になる> ●変えないものには、代表者や経営者の「こだわり」がある。あまり「こだわ り」にこだわると頑固者になるが、いい意味での「こだわり」に執着して守り 通す意思を持っているなら、頑なに守り通すことだ。例えば、某社で行ってい る正月2日の創業家への墓参り。役員全員が揃って創業家の遠方の墓にお参り するという。正月2日の家族の行事ができなくても、やはり何十年とこの正月 の墓参りを続けていることが大事なのだ。終わってから、代表者の家に全員集 まって新年の挨拶をし、お屠蘇を酌み交わすという。 ●あるいは、毎月最後の土曜日は出勤日にして、午後から一定の時間全員の手 を止めて大掃除をする会社もある。その際は、社長も専務も一般社員も関係な く、全員が2時間程度完全に手を止める。毎月の最終土曜日の午後だから、意 外と納期の関係で仕事は忙しいことも多いという。しかし、上から下まで全員 が業務を一時停止して、掃除をする。だから、工場の中はいつも非常にきれい だ。年末の最終日の大掃除などは、この会社はやらない。いつも、毎月やって いるから関係ない。それが、この企業の文化なのだ。 ●小さい規模だが、もう10年以上になるので弊社でもそれなりの決め事をして いる。05月の連休の数日間はこう、お盆休みの一日はこう、年末年始のいつい つはこう、と決めてある。決めてあると、あまり迷うことがないので効率がい い。そのために、事前に準備段取りもスムースに行える。ダメなのは、そのと きそのときの代表者や社長の思い付きで、ことが決まること。年間の会議、全 社員の総合会議、年始の行事、年度末の経営会議、はては役員会から株主総会 まで、一定のルールを作って習慣づけることだ。それが伝統になる。 <変えていかないと伝統は守れない> ●営業スタイル、事業領域、マーケティング方法、ITのシステム、商品サービ スの内容、製造技術、開発体制、管理部門のやり方などは、時代環境の動き、 変化と共にどんどん変えるべきだ。特に、創業が戦後間もない企業など、もう 60年以上会社は継続している。代表者も3代目、4代目になっているはずだ。 創業者が現在の代表者の曽祖父というケースもあるだろう。しかし、社内に 綿々と継承される伝統行事は、そのままのスタイルで継続されている企業も多 い。特に京都では、そうだ。 ●本店本社を東京に移す企業が多いなかで、京都発の企業は本店本社を移さな い企業が多い。一部上場のメジャーな企業になっても、有難いことに嬉しいこ とに本店本社を東京に移さない。実際は、社長は大半は京都本社にいないで、 東京や海外に行っていることが多いだろう。しかし、多少不便かもしれない が、本社は東京に移さない。確かに、情報の鮮度は多少は落ちるかもしれない が、用事があれば2時間そこそこで東京まで行ける。そんなに不便なことはな い。むしろ、都内の移動に時間がかかるくらいだ。 ●伝統を維持し、未来に成長していくには、変えることも必要だ。いや、逆に 言えば変えないと伝統は守れない。一番大事なことは、何か。会社で言えば経 営理念かもしれないが、それは会社の軸だから、変えてはいけない。伝統を大 事にしながら、変えないといけないことは果敢にチャレンジして変える。そう いう勇気のある決断と行動は、代表者やトップしかできない。仮に、できなと すれば時代から確実に取り残される。一歩踏み出す勇気を持って、変えるもの は変える、守るものは守る。そう決めて行動することが、企業文化を創る。