**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第591回配信分2015年08月24日発行 中小企業の経営者が日ごろから備えること その89 〜従業員の「腹にすとんと落ちる」まで言い続ける覚悟〜 **************************************************** <はじめに> ●経営者、トップの方が一番頭を悩ますのが、従業員や社員、幹部にきちんと 自分の意思や会社の方向性を伝えること。これが簡単にできれば、経営などあ る意味楽勝なのだが、ことはそう簡単ではない。会社でいつも顔を合わせてい る幹部社員でも、ときとして社長がびっくりするくらい基本的な部分ですり合 わせができていないことがある。非常に簡単なことを聞いても、想定外、予想 外の答えが平気で返ってくる。思わず、我が目を疑うときが往々にしてある。 そのような場面に出くわすことが、結構多い。特に中小企業では。 ●大企業の場合、もちろん中途採用も多いが、新卒大卒、新卒高卒採用が主流 だ。18歳、22歳、24歳大学院卒などの新規採用者は、入社した企業以外どの企 業にも所属したことがない。生まれて初めて入った企業が、いまの会社だから 比較のしようがない。全く白紙の状態で入社してくるから、意外と真っ新の土 地に種を撒くのと同じだ。真っ白な紙には、絵を描くのと同じだ。障害物がな いから、すんなりと腹に落ちる。そうなると、いい悪いは別にして、単一の文 化、風土に染めやすい。 ●ところが、これが中小企業となると簡単にはいかない。20歳代後半で中途採 用で入った人、30歳になってから入社した人、数社の経歴を経て中途募集で入 社した人、アルバイトから社員に登用された人、派遣から社員になった人、血 縁で入社した一族の遠縁の人、などなど多彩な顔ぶれになる。最近、これに国 籍が色々と混じると、一層文化、風土、考え方の違いが統一できない。まだ日 本は宗教や民族では、大きく生活習慣が異なることは少ないから、まだいい。 東アジアの国々では、特に宗教上の対立が激しい国ではもっと複雑だ。 <会議は不完全燃焼が多い> ●中小企業で、この多様な人材を束ねる代表者、社長と言う職責もなかなか簡 単ではない。特に、そこそこの人数になると、機能別に編成することになる。 管理系の業務を担当する部門、製造系の業務を担当する部門、営業系の業務を 担当する部門などに分かれることが多い。それぞれの部門には、それぞれの責 任者が張り付く。それぞれの責任者は担当する部門をなんとかうまく運営しよ うとする。それは当然なのだが、それがときとして全体の利益につながらない ことも多い。それを会議などで調整する。 ●代表者の社長が利害調整のキーマンになるのだが、これが意外と簡単ではな い。かくて、会議は紛糾するか、白けるかのどちらかになる。部門の責任者が 一生懸命社長に訴えても、社長はなかなか聞き入れない。聞いたふりはしてい るが、初めからそういう意見を取り入れる要素がない。あるいは、自分の意見 は当初からあり、最終的にはそれを全員に納得さそうとする。議論して、討議 して、いろいろな意見が出て、お腹の中の意見を全部吐き出すような会議は、 実は稀だ。非常に珍しい。 ●たいていの中小企業の会議は、不完全燃焼だ。参加者が意見を言うのはいい が、なかなか真剣な議論にならない。足の引っ張り合いになったり、部分最適 を優先する意見が出たり、声の大きな部長の意見が優勢になったりする。全員 が腹蔵なく、いろいろな意見を正直に述べることは難しい。たいてい、会議は 最長でも2時間程度だから、よほどうまく運ばないと、入り口の話しで大半の 時間がつぶれて、肝心なところでは相当な不完全燃焼になる。全員の意識、レ ベル、責任感などが揃わないから、致し方ないところもある。 <うまく会話ができない社長も多い> ●中小企業では、その溝を埋める作業を誰かがやらないといけない。人数が少 数の企業では、それはトップの役目になる。会議が2時間で、尻切れトンボで 終わったら、これはまずいと思って、後半戦を個人的に単独攻勢をかけないと いけない。各自の顔色を見て、こいつは納得していないなと思ったら、終わっ てから個別に呼んで、さらなるフォローの会話をする。それも、あまり時間を 置くと気が抜けるから、なるべく早くやる。できれば、会議の当日、業務が終 わってから、会社の近くの居酒屋に誘うのも、ひとつの手だ。ただし、お互い が飲めることが条件だが。 ●マンツーマンで、とことんその引っ掛かっているテーマに関して、意見交換 をする。どうして納得できないのか、何が問題なのか、双方の立場を違いを乗 り越えて、出来る限り正直に会話を交わす。それでも、なかなか理解が深まら ないことも多いが、相当溝は狭くなるはずだ。そうか、そういう理由で彼は反 対していたのか、意外と単純なことだなと納得できる場合もある。逆に、意外 とことは深刻で、自分が気が付いていなかったいろいろな背景、事実、過去の 出来事を知らされる場合もある。 ●大事なことは、正直にいろいろな会話を真剣にかわすことだ。社長業は、こ のコミュニケーション業だと言っても、過言ではない。ところが、これを以外 にも結構苦手にされている方も多い。苦手と言うか、相手に合わせて会話がで きない。特に、初めからずっと社長しかされていない方に、その傾向が強い。 一兵卒から這い上がり、アルバイトを経て社長になったような方は少ないが、 そういう方と当初から社長をされていた方とでは、この従業員に対する接し方 が違う。初めから社長と言う立場だと、なかなかうまく会話ができない。 <お腹にすとんと落ちるまで会話を続ける> ●会社のこれからの方向性など、大きなテーマに関することになると、余計に それが目立つ。20歳くらい年齢が低い若手の幹部と、70歳近くなる創業家の社 長との会話は、なかなかかみ合わない。しかし、中小企業での社長の立場は絶 大だから、最後の最後は社長の意見に従わざるを得ない。そこで、猛反対する と会社にはいられない場合もある。なので、最後は納得していないが、結論に は従うふりをする。ふりをしているだけで、心底納得していない。これは、将 来どこかで亀裂を生じる。 ●なぜ社長の自分は、そのような結論に至るのか。なぜ、会社の将来に対し、 そのような方向を考えているのか、なぜこの事業を止めてこの事業に集中的に 投資をしようとしているのか。それぞれの機能別の担当部署の責任者では、社 長の判断の基準や心底は理解できない場合が多い。まず、トップは現実がそう だと理解することだ。会議をしたから、全員が納得し理解したと、ゆめゆめ思 わないことだ。会議の2時間の席上では納得した顔をしていても、いざ自分の 担当部署のデスクに戻ると、逆になる場合もある。 ●特に小規模の事業所では、この少しの亀裂は将来に大きな溝になる可能性が 高い。そのようなときは、間髪入れずにフォローを行う。そして、お腹の中に すとんと落ちるくらいまで、一生懸命説明をする。説得は難しいが、説明を懇 切丁寧にすることは可能だ。背景、理由、原因、想定している結果などを、い ろいろな角度から話しをすると、意外とああ、そうなんだと、納得する場合も ある。反対だが協力は惜しまないということにもなる。大事なことは、お腹の 中にすとんと落ちるまで、一生懸命語ることだ。それが社長業の一番大事なこ とだ。手を抜いてはいけない。