**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第593回配信分2015年09月07日発行 中小企業の経営者が日ごろから備えること その91 〜人の募集は簡単にできると思うことなかれ〜 **************************************************** <はじめに> ●昨今の人手不足が次第に深刻になってきた。まだ、京都地区は大学生が多い ので、学生アルバイトの募集は比較的楽なようだ。最近新聞で読んだところに よると、北陸新幹線が開通した金沢などの商業施設では、とてもとてもアルバ イトが全然集まらないようだ。首都圏並みの時給1,200円くらい出しても、全 く応募がない店舗があるという。急きょ、慌てて東京の本社から社員を派遣し てしのいでいるお店もあるらしい。特定の業界の話しかと思っていたら、意外 に全業種に人手不足は深刻なようだ。 ●京都は大学が多い。多いというより、頭抜けて多い。人口当たりの学生数 は、ダントツ日本一だ。だから、市内に学生マンションがやたら目立つ。最近 では市外に転出していた大学が市内に戻ってきた。同志社大学の今出川キャン パス、学園大学の太秦キャンパスなどが相次いで開校し、市内に下宿する学生 が急増している。それを当て込んで、ワンルームのマンションがいたるところ で建設中だ。それくらい京都では学生さんが多い。昔から、京大さん、同や ん、立っちゃんという表現が定着していた。 ●京都市内に学生さんが多いから、学生バイトには事欠かないとたかをくくっ ていた企業、店舗は最近慌てている。時給を少々あげても、なかなか募集に学 生が来ない。条件のいいところ、下宿から近いところ、融通の利くところなど が好まれる。勤める側からすれば、完全に売り手市場になっている。募集する 側の選択肢は限りなく少ない。いま、人手が欲しいと言っても、ほとんど望む べく形で応募は皆無だという。人がいて、初めて事業が動き出す。何よりも、 事業は人が動かすのだから。 <気が付いていない経営者の方も多い> ●飲食業では特に人手不足は深刻だ。時給の良しあしで選ばれるのは相当以前 の時代。いまは、時給はもちろんのこと、企業やお店そのものの存在価値、存 在理由が問われる。完全に当分は売り手市場になる。どうもそのことが経営者 の方ご自身が分かっていない。アルバイトはいつでも採用できるから心配要ら ない。ハローワークに、無料だから掲載していればいい、などという安直な考 えの古い経営者の方も多い。しかし、昨今では募集要項を掲載しても、全く反 応がない。待てど暮らせど、一向に応募がない。 ●しかし、何も経営者は動かない。そのうち応募があるだろうと、たかをく くっている経営者の方も多い。一昔前は、それでも待てば何とかなった。しか し、昨今の状況では、そう簡単なことではない。高齢化した社員がだんだん辞 めていく。これは仕方のないことだが、交代で入る予定の若い社員やアルバイ トの手当てがつかない。かくて、60歳定年で65歳まで延長するが、その後のイ メージが全然描けていない。しばらく静観していたが、どうも応募がないのに 気が付く。しかし、ことは相当手遅れになっている。 ●募集要項の掲載から、応募者との面接、条件の提示、時期の決定、受け入れ 態勢の整備など、多くのやることがある。しかし、これを相当丁寧にやってい る企業は、あまり知らない。中小企業では人事担当者などという中堅企業や大 企業のような部署はないから、おっつけ代表者の方か総務経理の担当者の方が 採用業務を兼務していることが多い。兼業だから本業が忙しくなると、俄然そ ちらのほうに時間がとられ、募集や採用に関して手抜きになる。応募書類の対 応や面接の段取りは結構手間がかかる。 <面接に来て帰った学生もいた> ●ブラック企業とまではいかないが、労働環境があまり良くない中小企業も多 い。職場の環境もさることながら、休憩室、ロッカー室、食堂、トイレなどの 福利厚生施設などの環境整備がままならない。地方からの人材を集めるなら、 借り上げの寮なども必要な企業もある。労働条件は仕事の内容で変わるから、 あまり他社との比較はできないが、福利厚生施設に関しては比較がしやすいか ら、意外と友達との話題になることも多い。特に、毎日毎日使ったり、利用し たりする場所に関する不平、不満は良く聞く。 ●そんな愚痴っぽい話題は、あまり代表者の耳には入って来ない。現場の担当 者や責任者辺りには聞こえてはくるが、それがななかな代表者、トップには届 かない。そんなことを言うと、代表者の機嫌が悪くなるし、文句を言ってもい まカネがないのが分かっているだろうと、切りかえされるのが落ちだ。物言え ば、唇寒し、秋の風ということになり、だんまりを決め込む。そうなると、な かなか周辺環境の整備に資金が回らない。特に、投資をしても生産性が上がっ たり、コストが下がるわけではないと、錯覚する。 ●以前在籍していた出版社の建物も、相当古かった。なにせ、元になった印刷 会社の創業が大正の中ごろだから、老舗ではあるが相当に古い。その建物の2 階と3階を出版社が使っていた。その建物で新卒大卒の採用面接をやったのだ から、これは相当ブーイングの嵐になった。会社説明会は、外部の立派な会場 を借りることはできるが、絞り込んだ面接はやはり会社の会議室か応接室でや ることになる。そこで、京都本社でやりますと言って、学生が当日来て、びっ くりして帰った学生もいた。後で聞いた話しだが。 <誇り、意義、やりがいが大事> ●成岡は同族一族の役員だったから、義兄の代表取締役社長にまともに面接に 来た学生の感想を伝えたところ、その後トップの決断で本社を改装、改造する ことになった。面接に来た女子学生の、まず第一声が決定的だった。最初の質 問で、本社に来られた感想は?と聞いたら、あまりに古くてきたないのにびっ くりしたとの感想を言った女子学生がいた。当方は、それでも当日は一生懸命 掃除をして、少しでも片づけて、何とかきれに見せようと必死になってやって いたが、そんな努力も全く関係なかった。ベースが汚い。 ●環境は整えられても、それはお化粧を厚くしただけになる。根本は仕事に対 する誇り、会社に対する信頼をいかに従業員に持ってもらうかだ。その誇り、 意義、やりがいを全社員、全従業員が共有していないといけない。新しい人に 対する社長のプレゼンの時間は、そう長くない。職場に配属されてからの上 司、先輩、同僚の毎日の一言、一言が非常に重たい。その職場での雰囲気、空 気、風土、文化が毀損していると、一瞬にして新しい人がダメージを受ける。 給料の多さもあるだろうが、人はおカネでは動かない。 ●定着して戦力になってもらうには、非常に時間がかかるかもしれないが、普 段の努力を怠らないことだ。人が来ない、定着しないと嘆く前に、まず自分の 足下を点検することだ。応募者のせいにしている限り、会社は決して良くなら ない。まず、トップが率先垂範して行動することだ。説明会に出かけていく前 に、会社の中を何回も見回してみる。自分の周囲を点検してみる。必ず、そこ に何か原因がある。それを発見して、自らが先頭に立って改善しない限り、中 小企業の人材採用環境は良くならない。他人のせいにしてはいけない。