**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第595回配信分2015年09月21日発行 中小企業の経営者が日ごろから備えること その93 〜ユーザーの無理をとことん実現するために努力する〜 **************************************************** <はじめに> ●製造業であれ、サービス業であれ、小売業であれ、卸売業であれ、とにかく お客さん、市場からのリクエストに真剣に耳を傾けないといけない。市場やお 客さんからのリクエスト、要求、要望、ニーズと言うのは、天の声、神の声と 思えばいいくらいだ。だいたい、基本的にはないものねだりというのが多いの で、それが実現できたら非常に魅力的だ。なかなか、現実では難しい、できな ことを要求されることが多いので、実現するのは大変だが、そこをやってのけ ると、俄然ビジネスに新しい展開が期待できる。 ●例えば、納期。普通ではとても短期間で実現は困難な納期設定を、いとも簡 単にやってのければ、それは非常に価値のあることになる。納期と言うのは、 先方の発注先の企業や会社にしてみれば、本当にぎりぎりでは設定していない はずだ。本当にぎりぎりだと、仮にアクシデントがあり間に合わないというこ とになると致命的だからだ。ゆえに、少々余裕を見て納期は設定されているは ずだ。だから、受注企業にしてみれば、かなりきついことになる。それを楽々 とやってくれたら、これはおカネ以上の価値があることが多い。 ●成岡が所属していた以前の出版社で一番の課題は、定期刊行物の納期。つま り、月刊誌などの雑誌の納品日だ。全国配布になると取次ぎと言う組織(会 社)に納品するが、これがほとんどが東京や首都圏に物流センターがあるの で、関西からだと余分に1日かかる。これが結構厳しい条件になり。この1日 が非常に重たい。印刷会社、製本会社との交渉、納期の設定などは、いつもぎ りぎりだ。定期刊行物だから、決まった発売日に書店に並んでいないと洒落に もならない。この担当をしていると寿命が縮まる。 <新しい世界が開けると技術レベルが上がる> ●次に製造業であよくあるのは品質のスペック。従来の基準、規格より少し厳 しいというのは、まだ理解できるが、3桁くらいレベルの高い基準を言われる と、正直どうやってやるのだろうかと、頭を悩ますことになる。ユーザーや顧 客企業が新しい市場に進出したりする際には、そういうことは良く起こる。特 に、最近注目を集めている宇宙や航空機、ロボット、医療、食品などの市場か らのリクエストは非常に厳しいことが多い。あるいは、海外の異国の市場に商 品を輸出するなどという際にも、全く驚天動地の数字を言われることがある。 ●あまりいい例えではないが、安全保障法案とは関係ないが、昔は技術の進歩 は戦争がもたらすと言われていた。第二次世界大戦では、レーダー技術、 ジェット機、原子力などが新しい技術として登場し、その後の世界の技術地図 を大きく塗り替えた。最近では、ITの世界での技術の進歩などは、サイバー戦 争などのもたらした技術の進歩だ。また、超高齢化社会を迎えるにあたり、医 療や製薬関係のリクエストも非常にハイレベルになっている。この技術の進歩 についていけないと、いつかは振り落とされる。 ●成岡が所属していた以前の化学繊維製造業では、当時ポリエステル樹脂で飲 料の容器が製造できないかが、技術的な大命題だった。今でいうPETボトルの 製造技術開発だ。今でこそ、どこの樹脂製造業でもPET(ポリエチレンテレフ タレートの略)ボトルを作ることなど、なんということでもないが、1980年代 では、なかなか難しい技術だった。何が難しいかというと、飲料の容器だか ら、触媒金属の含有量などの規格が、繊維などに比較すると数ケタ厳しい基準 になる。これが、なかなかクリアーできなかった。 <試行錯誤を積み上げるのと全く異なる方法とがある> ●そういう厳しいリクエストを、どのようにクリアーするかには、どうも2つ の切り口があるようだ。ひとつは、常識的な方法でクリアーすること。それぞ れの工程、それぞれの作業、それぞれの部品などの基準や規格を、とことん厳 しく見つめ直す。そして、極限まで追い詰めたり、切り詰めたりする。その地 道な努力をとことん続ける。そうすると、必ず何かの壁にぶち当たる。そこを どうするかを全員でとことん考える。何回も試行錯誤を繰り返し、そのうちに 何か解決策が見つかる。普通の製造業はこのような方法が多い。 ●ところが、新しい企業や若い企業などは、全く異なるアプローチをしてくる ことがある。従来の常識を覆すというか、常識に拘らないというか、全く異な る方法、手法、技術でその高いハードルをクリアーしようとする。サービス業 では、このような革新的なサービスが始まる場合は、だいたい業界の常識では 考えられないことから始まることが多い。それも、業界に籍を置いた人物では ない人が考えると、従来の常識に染まっていないから、斬新なアイデアが出て くる。今でこそ、珍しくないが当時としては非常に斬新なアイデアなのだ。こ れを考えた人は偉い。 ●よく言われる、クロネコヤマトの宅急便。小口貨物の集荷、配達などは絶対 にコストがかかり、儲からないとされていた。しかし、いまや、小口荷物に限 らず、クール便、ゴルフ便などそのバリエーションは素晴らしい。また、驚き はあの時間指定配達だ。2時間刻みでどうしてあのようなきめ細かい配達シス テムができるのだろうか。不思議でならない。それ以外に、10分1,000円の散 髪で有名なQBハウスなども、業界に在籍していた人ではない。普通のサラリー マンが考えて起業したビジネスだ。誰も、そのようなことを考えなかった。 <社長が革新的にならないといけない> ●市場が、顧客が、お客様が、そのような新しい製品、商品、サービスを求め ていることが、まず分からないといけない。いつも会社に籠って、たこつぼの ように社外に出ない経営者の方も多い。従来の得意先、仕入先、従業員などと の中では、新しいニーズやリクエストはなかなか分からない。ときに、営業の スタッフが得意先で聞いてきた、耳よりの情報も、実際のマーケットを経営者 が知らないと、それが非常に貴重な情報だと分からない。だから、どんどんお 客さんがいるところに出ていく必要がある。社長室など、要らない。 ●ここで難しいのは、本当にそれが市場のリクエストだろうか、ということ だ。たまたま、単に思い付きで言われている場合もある。基本的に、ないもの ねだりだから、簡単にほいほいとそのニーズに乗ると危険な場合もある。軽く 考えると、あとで火傷を負う場合もある。そこは、経営者の、社長のジャッジ が必要だ。会社が考えている将来の方向性に合っているか。会社の技術的な強 みを活かせるか。実現するのに、社内の経営資源はどうだろうか。資金は、時 間は、人材は、技術レベルは、などなど考えることは多い。 ●従業員も、新しいことにチャレンジする風土、気風があればいいが、おおむ ね新しいことに消極的な企業も多い。それは、トップが消極的というケースが 多いのが影響している場合が多い。消極的な従業員を鼓舞して、新しい技術に チャレンジしてもらうには、まず経営者自身のマインドチェンジをしないとい けない。常に、社長が革新的なマインドを持って、新しいことに挑戦するのが いいことだ、立派なことだ、失敗も許容する、そして実現するまで、成功する まで頑張るという気概を持つことだ。従業員に愚痴を言う前に、自分自身のマ インドを変えることだ。