**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第598回配信分2015年10月12日発行 中小企業の経営者が日ごろから備えること その96 〜売上を伸ばすことより価値を高めることが成長の源〜 **************************************************** <はじめに> ●入口のコラムにも書いたが、どうしても企業の場合は売上を伸ばそうという 気持ちになるのは、やむを得ない。しかし、今回のように非常にうまくいった ときが連続して、ようやく目標に達するというのは、通常の企業経営ではあり 得ない。企業経営的に言えば、想定外のことは起こるし、売上のアップほど浮 気性のものはない。苦しい経営状態で、売上が上がる計画を描くのは簡単だ が、本当に実現可能なレベルなのか。某国会議員が、ぶちあげて出来るのなら ご同慶の至りだと苦言を呈したという。実は、それが正しい。 ●確かに、ベンチャー企業や新進気鋭の企業で、目覚ましい売上の伸びを残し ている企業もある。そういう企業が対象にしている市場やお客さんは、新しく 創造的に市場を作ったケースが多い。今まで、こういうことが既存の企業では できなかった。自社の新しい技術を使えば革新的な方法で、新しい市場を創造 した。それが市場に見事に受け入れられた。そういう場合は、一時的に売上は 伸びるものだ。しかし、それがずっと続くとは限らない。ずっとでなくても、 当分続けば良いが、それも保証の限りではない。それくらい現実は甘くない。 ●昔はひとつの技術で収益を向上できる期間が比較的長かった。ひとつの革新 的な技術開発で、相当期間メシが食えた。場合によれば、5年から10年くらい は収益源になってくれた。しかし、今は違う。技術革新の変化の速度が非常に 早いから、とても長い期間ひとつの傑出した技術で全社のメシが食えるとなる と、相当応用技術も基本技術も突出していないといけない。中小企業でそんな 突出した技術が、数年に1回ものになるというのは、よほど研究開発に投資を して、費用をかけている企業だろう。 <残骸を整理することから始める> ●売上を伸ばす前に、まず支出=費用を見直すべきだ。過去にいろいろと食い 散らかした残骸が、一杯残っていないか。いろんな政策を、ときに思い付きで いっぱいいろいろなことをやってきたので、一度それを整理したほうがいい。 今回問題になっているマイナンバー制度も、国民総背番号制とか、住基ネット とか、いろいろな似たり寄ったりの政策のオンパレードしてきたはすだ。官僚 のトップが交代すると、必ず過去の政策の中途半端を残したまま、新しことを またぞろ始める。まずは、過去の始末をすることだ。 ●そういうことをすると、残骸を整理すると、必ず無駄なものがあることに気 が付く。その無駄をまず整理することだ。捨てるのにもコストがかかる。時間 もかかる。手間もかかる。だから面倒だから、過去を整理しないで、また600 兆円、1億総活躍を目指して別の会議や政策を立ち上げる。各省庁にまたがっ て重複したことがいっぱいある。縦割り行政だから、仕方ないかもしれない が、誰も大掃除しようと言いださない。県と市町村との行政の重複や無駄もあ る。県の大学の横に市立大学がある。本当に必要か。 ●成岡は行政の専門家ではないから、行政に身を置く立場の方からの反論もあ るだろう。しかし、一般庶民は良く見ている。競争原理もないし、費用も税金 だという意識はあるが、その使用方法に関してそんなに厳しく見ているかとい うと、必ずしもそうではないだろう。一般企業でも、甘い企業は多い。誰も意 図して悪いことをしているのではないが、自分のカネだと思って使うのと、会 社の費用だと簡単に思って使うのとは、雲泥の差がある。これは自分で経営し てみれば、一目瞭然、簡単なことだ。 <売上の中の付加価値を高める> ●売上を上げようとするのは、結果だから、結果を出すには結果が出るような 行動をしないといけない。どうも、そのような原点に立ち返った考え方をする より、とにかく目先の結果を求めようとする。目先の結果を追い求めている と、それしか見ないから、遠くを見ることをしない。3年先、5年先にどのよ うな世界、世の中、環境になっているのか。その時点で自社の技術で生き残れ るか。そのような分野に、人材も、時間も、エネルギーも、資金もかけないと いけない。果たして、経営トップはそれをいつも考えているか。 ●2020年に600兆円にするには、計算上このような成長率で毎年いけば達成す るなどは、中学生の数学でもわかる。具体策のないままスローガンだけぶち上 げるなら、止めた方がいい。一時の社長の大演説と同じだ。それより、自社の 売上の中味を点検し、今後価値を伸ばせそうな分野に集中的に投資するべき だ。どういう分野が今後投資の対象になるかは、これは会社によって全然違う から、一概に何とも言えない。それを見極めるのは、トップの責務だ。そし て、自社の経営資源を投入する。そして、価値を高める。決して売上ではな い。 ●要するに、付加価値だ。外部からいろいろな原材料を買い込んで、加工し て、製品になる。あるいは、どうしても自社でできないものは外部にやっても らう。原材料と外部費用を引いたものが付加価値だ。この付加価値がいかに高 いかが、今後企業の勝負どころだ。サービス業では、特に原材料や外注費がな い場合もあるので、付加価値率は非常に高い場合が多い。しかし、労働集約型 が多いから、付加価値の中に占める人件費が高い。医療機関などはその典型 だ。学校経営もそれに近い。 <価値を高めれば消費者は支持する> ●付加価値を高めるための投資とは、自社の技術を磨くことだ。3年先、5年 先に向けて自社の特徴のある技術を磨くことだ。その際の注意点は、決して成 功体験や、自分の唯我独尊に陥らないことだ。最後の決定は、ワンマン的に やってもいいが、それまでには色々な角度で反芻することだ。特に、過去に大 きな成功体験があると、それから離れられない。大きなイノベーションで成功 すると、どうしてもそれを捨てられない。大企業でもそうなる。中小企業は、 特に気を付けるべきだ。時代が、どんどん変わっている。 ●セブンイレブンの鈴木さんは、世の中でコンビニ飽和論がかまびすしいとき ん、絶対にそういうことにならないと断言していた。今後は高齢者がコンビニ で買い物をする時代になる。深夜や休日におカネを下したい人が多くなる。銀 行のATMは閉まっている。昼間在宅の人が減るから、近くのコンビニで荷物を 受取りたい人が増えるはずだ。考えてみれば、当たり前のことだが、誰もそれ を真面目に取り組もうとしなかった。それを愚直にやっただけだ。100円の食 パンがいい人もあれば、300円の上等な食パンをたまには食べたい人もある。 ●いまやコンビニというビジネスは大規模スーパーを凌駕するまでの価値を提 供している。成岡も近くの店で荷物を受け取り、たまに遅い時間に食品を買っ たり、いろいろと便利している。コンビニのコピーでは、最近いろいろなこと が可能だ。これほど進化している業態も珍しい。それを売上だけを追及してき た企業は、完全に取り残された。ダイエーを始め、大手スーパーが沈滞してい る理由がよくわかる。売上だけを求めて、規模だけを求めて、価値を高めるこ とに手を抜いた。市場は正直だ。答えは結果で一目瞭然になる。謙虚になるこ とだ。