**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第599回配信分2015年10月19日発行 中小企業の経営者が日ごろから備えること その97 〜社長は夢とビジョンを語る伝道師になる〜 **************************************************** <はじめに> ●毎年のことだが、10月くらいから中小企業診断士さんを引率して、企業にお 邪魔しての「実務実習」という事業を担当している。少し解説が必要だが、10 年近く前に制度が改正になり、我々中小企業診断士は5年間に30ポイントとい うポイントを獲得していないと、この資格の更新ができないことになった。5 年間に30ポイントというのは、単純に言えば毎年6ポイントであり、1日1ポ イントとして6日間企業にお邪魔して診断士としての実務実習を行うことを義 務付けられている。この実務実習の京都での診断協会の担当を引き受けてい る。 ●診断士の資格を有する方の場合、京都府では約7割くらいが企業内に在籍し ていらっしゃる。東京都ではもっと少ないかもしれないが、全国的に見ても7 割くらいというのが平均値だと思う。企業内に在籍する診断士の方は、お仕事 の中味にもよるが、日常中小企業の経営内容に関わることは非常に少ない。例 外として、金融機関や地方自治体に在籍している方は、逆に日常のお仕事がそ のような範疇のお仕事かもしれないが、大半の診断士の方はそうではない。 よって、京都府の診断協会が実習先の企業を用意し、この事業に参加していた だいている。 ●毎年30名ちかい診断士の方が、この事業に応募され、1社平均3名から4名 くらいの企業内診断士の方を引率して、成岡が依頼した企業にお邪魔させてい ただく。この毎週配信のメールマガジンを読んでいただいている企業経営者の 方の中にも、この実習をお願いした企業も多くあると思われる。感謝すると共 に、毎年実習先企業を用意するのは、なかなか大変なのだ。30名で平均3〜4 名ということは、計算上8社くらいの企業先を確保しないといけないことにな る。しかもできれば毎年違う企業であることが好ましい。 <簡単には企業の実態は分からない> ●この事業が始まって10年近くになると思うが、当初から京都の診断協会で誰 もこの事業の担当に手を挙げてくれなかった。当時の支部長さんから依頼があ り、あまり気が進まなかったがお引き受けしたが、実際多くの実習先の企業を この時期に準備するのはなかなか骨が折れる。しかし、いったん引き受けた以 上は、きちんとやらないといけないと思って、継続して担当している。この実 習が10月から始まった。3〜4名の診断士を引率して企業先にお邪魔して、代 表者や役員の方から2時間くらい、いろいろとお話しをうかがっている。 ●そして、3週間くらい空けて我々のなかで議論を繰り返し、最初からすれば 1か月半くらいあとに、再度企業先を訪問して各自が各自で考えたストーリー で、経営に関してテーマを決めて提案を行う。一人20分くらいと決めてあるの で、パワーポイントのシートで言えば10枚くらい。何か気の利いた提案ができ るように、当方も一生懸命指導をする。なかなかいい提案に結びつかないこと もあるが、企業さんにも貴重な時間を取っていただいているので、少しでもこ れからの経営に役立つ提案でありたいと思っている。 ●さて、初回の訪問で30分から1時間くらい、代表者や社長から会社の沿革、 現在の経営状態、今後の計画など、色々とお話しをうかがう。そのまえに、参 加の診断士には事前にいただいた会社案内や3年間くらいの決算書を事前に手 交している。それを読みこんでから参加するのだが、初回の説明でなかなかそ の企業の深い内容を把握することは難しいこともある。代表者の方も、色々な 思いがあり、いろいろな課題を感じていらっしゃる。それが、初対面の企業内 診断士の方では、簡単に理解できないことも多い。 <夢やビジョンが具体的か> ●今年度も、この事業が始まった。先週まで数社の企業にお邪魔したが、そこ で気が付いたのは、代表者や社長が将来の夢、ビジョンをどの程度お持ちで 語っていただけるのか、ということだ。目先の課題を解決しないといけないと いう、目前課題解決希望の企業さんもある。それはそれで仕方ないが、やはり 聞いていると今後の会社のありよう、目指すもの、目標や事業の目的、さらに は5年後10年後のビジョン、こうありたいとう会社の形、内容。そういったも のを語っていただけると、非常に我々は心強い。 ●そして、何より大事なことは、将来の夢。社長の個人的な夢は別にして、会 社としての夢。それはいったい何を実現しようとされているのか。どのような 会社になりたいのか、なるために努力されようとしているのか。夢は夢とし て、その夢を少しでも現実のものに近づけるために、どのようなビジョンをお 持ちなのか。それを、我々にわかりやすく順序立てて説明していただけると、 非常に論旨明快でわかりやすい。壮大な夢でもいいし、実現可能性が低いかも しれないが、そのような夢をお持ちの経営者の方の顔は、概して輝いている。 ●夢を正夢にするのは大変だろうが、その一歩手前のこうありたいというビ ジョンは必要だ。その掲げたビジョンに対して、社員や従業員、経営陣は一丸 となって、日々努力をし研鑽を重ねているはずだ。そのビジョンがどれくらい 明確か、それくらい具体的か、どれくらいタイムスケジュールがはっきりして いるか。さらに、大事なことはどれくらい幹部社員や従業員に浸透し、共有化 されているか。なかなか、社長の思い描くビジョンと言うものが、中小企業の 場合、全従業員に浸透しているとは言い難い。非常にこれが難しい。 <夢やビジョンを語れる経営者になる> ●いろいろな理由があるだろう。従業員の方も、大半が中途採用の場合が多 い。大企業のように定期の新卒社員が大半なら、採用から入社、そしてそれ以 降の教育研修で十分時間をかけて、理念やビジョンを浸透させることも可能だ ろう。しかし、大半の中小企業では中途採用がほとんどだ。ハローワーク経由 の中途採用も多いだろう。欠員ができたから、慌ててハローワークに募集を出 したら、たまたま運よく応募があり、意気投合してすぐに採用し、来てもらっ たなどというケースでは、なかなかビジョンを語り浸透する余裕がない。 ●確かに従業員は毎日一生懸命働き、その対価として給料をもらっている。そ う言ってしまえば、それで終わりなのだ。表面的にはそうだが、では人は単に おカネを稼ぐ、もらうだけのために人生の大半の時間を費やして会社や企業で 働いているのだろうか。何がそのモチベーションになっているのだろうか。そ れをよくよく経営者や代表者の方は考えないといけない。現実は働いた対価と しての給料だし、残業すれば時間外手当が支給されるだろう。しかし、それだ けだと非常に精神的に辛いものがある。 ●最後は、社長が語る将来の会社のビジョンや夢なのだ。綺麗ごとかもしれな いが、そのビジョンや夢に賛同、共感してくれている社員や従業員、幹部社員 や役員が、意思を同じくしてついてきてくれている。そう、考えないといけな い。給料を払っているのだから当然だと考えると、どこかで間違う。まず、す るべきは自分の頭の中をリセットし、整理して、会社が目指すビジョンや自分 が描く夢を、いまいちど明確にする。あるいは、明確でなければ、明確になる ように努力する。その姿勢があれば、必ず従業員には伝わる。社長は伝道師に なることを心がける。