**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第600回配信分2015年10月26日発行 中小企業の経営者が日ごろから備えること その98 〜誰にどのような仕事を頼むかを間違えない〜 **************************************************** <はじめに> ●以前に在籍していた出版社では、色々な役職をさせてもらったが、数年間管 理部門の責任者を拝命した。管理部門は、総務、経理、システム、物流、人 事、労務などと結構幅広い業務を管轄する。京都本社と東京支社にそれぞれ15 名ずつくらいのスタッフが在籍していた。当時はまだネット環境などないか ら、連絡は電話かFAXに限られる。仕方なく、新幹線をしょっちゅう利用し て、東京と京都を行ったり来たりしていた。JR東海には相当の売上に貢献した と思っている。もっとも、会社が払ったので自腹ではないが。 ●京都本社に部下に同年齢のS君という男性がいて、このS君は非常に仕事が速 い。また、手際もいい。難しいことを頼んでも、さっとやってくれる。部下の 面倒見も非常にいい。京都本社では女性がスタッフに多かったので、女子社員 の受けもよかった。なので、万全の信頼を置いて、京都本社のことはほとんど 彼に任せて、委嘱していた。成岡は、どちらかというと東京支社に在籍する時 間が長かった。一時期、東京支社長も兼務した時期もあり、その間は単身赴任 で総武線の沿線にワンルームを借りてもらった。 ●しかし、この優秀なS君のひとつだけの欠点は、整理整頓ができないこと だ。デスクの上は書類が山積みになっている。ごちゃごちゃになっている。今 なら、情報管理で落第点だろうが、当時はそんなことを言う人もないから、S 君のデスクの山積み書類は社内では有名な事実だった。しかし、何がすごいか というと、この山積み書類の中から、彼は瞬時に必要な書類を抜き出してくる 技を身に付けていた。それこそ、電光石火の早業で必要な書類を、山の中から さっと取り出してくる。時間もかからない。神業のようなものだ。 <急ぐ案件は多忙な人に頼む> ●この京都本社にS君がいてくれたおかげで、成岡は随分助かった。彼に仕事 を頼めば、彼自身は相当に忙しいから、すぐに片づけてくれる。忙しい人にも のを頼むと処理が速い。時間が余っている人に、ものを頼むとなかなか終わら ない。忙しい人は、本当に忙しいから瞬時にこれは自分がやる、これは誰に頼 むかと言うことを判断して、すぐに実行する。このてぎわの良さが彼の真骨頂 なのだ。のんびりゆっくりやらないから、いつも少しは手を開けている。その ような自己マネジメントをきちんとしている。 ●デスクの山積みの書類と、酒癖の少々悪かったことを除いては、非常に有能 で優秀な部下だった。だから、京都本社に戻ったときは、最大限彼とコミュニ ケーションを取るように努めた。酒癖は良くなかったが、頻繁に会社の前の焼 き鳥屋でコミュニケーションを図った。なにせこちらはあまり京都にいなかっ たので、留守中の本社の動向、動静、人の動きなどが非常に気になる。それ も、彼に聞けばおおよそのことが手に取るようにわかる。同じ学年、年齢だっ たが非常に良く頑張ってくれた。今でも感謝している。 ●この忙し人に仕事を依頼するのがひとつのコツなのだ。ぼっとして多少時間 がある人には急いでいる仕事は頼まない。忙しい人は、瞬時にこれは自分がや る、これは自分しかできない、これは誰に頼めばいいか、などを本当に早く判 断する。それも、ほとんど間違いがない。だから、仕事の俗に言う「手離れ」 がいい。仕事の遅い人は、この「手離れ」が悪い。いつまでも、自分の手の中 で案件をこねくりまわす。早く分かっている人に投げればいいのに、何とか自 分で解決しようとする。時間のロスが発生する。 <次の人材を育てることも必要> ●そんなに山ほど重要な案件が目白押しにあるはずもない。大半は雑用と言え るものが多い。特に管理部門はそうだ。しかし、このとりあえずやらないとい けない雑用も、たまれば雑用と言えなくなる。雑用は雑用なのだが、会社とし ては必ずやらないといけない官公庁への届け出など、誰かがやらないといけな い雑用も多い。そういう質をあまり必要としないが、時間と手間のかかる仕事 も多い。そういうものをどうやって処理するか。これは非常に重要だ。特に、 生産的でない管理部門では、常に意識しておかないといけない。 ●仕事の出来る人、忙しい人に仕事が集中するのはやむを得ない。しかし、そ んなことばかりしていたら、部下は全然成長しない。次のS君を育てておかな いと、中小企業は限られた人員で回しているので、何が起こるか分からない。 しかし、S君のような上司の下では、なかなか優秀な部下はかえって育たな い。かくて、次のS君を育てる役目は成岡が担っていた。そして、眼を付けた 人材に同じように山ほどの業務を分担させた。次から次へと、雨あられのごと く仕事のシャワーを浴びせた。そして、思いっきり重たい荷物を背負わせる。 ●そこで時間は少々かかるが、何とかそこを努力で乗り越えられる人材と、重 たさに負けてぺしゃんこでつぶれる人材との見分けがつく。なんでも、かんで も重荷を背負わせればいいというものでもない。やはり、その人材に適した重 たさの案件、業務を渡さないといけない。そこで上司の目利きがないと、単に 過重労働になり、つぶれてしまう。荷物も、いつもいろいろと異なる荷物を用 意しないといけない。人を育てるというのは、専任のスタッフがいる大企業な らいざ知らず、中小企業ではなかなか難しい。 <誰に何を投げるかを間違わない> ●しかし、原理原則として忙しい人に急ぐ仕事を投げるように、常に誰がいま どのように動いているか、手漉きは誰か、時間が少しあるのは誰か、など常時 ウオッチしていないといけない。それを間違って本人に聞く上司がいるが、そ れは最低。本人に聞いて、本当のことを言うはずがない。周囲のスタッフにそ れとなく情報網を張り巡らせ、それぞれの業務の密度、レベル、多忙の度合い などを自分自身のバロメーターで常に把握していることが大事だ。直接自分が 目で見て確認する。想像で判断しない。 ●忙しいといかに効率よく時間を使うかに集中する。15分間も惜しいとなって くる。当時、S君は煙草を吸っていたので、たばこの時間は成岡とのコミュニ ケーションの時間に充当できた。当時は喫煙ルームなどはなかったし、みんな 自分のデスクで煙草を吸っていた。成岡とは隣り合わせのデスクだったので、 頻繁に会話をするように心がけた。忙しいから邪魔をしてはいけないが、瞬時 の会話で全体が把握するように、日頃から全体を見ていた。そのようにする と、だれがいま忙しくしているのか、よく分かる。 ●そして、多少手が空いている人材には、将来の幹部候補生として、どんどん 業務を投げる。しかし、単に丸投げではいけない。コツを伝授して、リスクを 初めから教え、勘所も押えておく。そして、万が一彼が失敗やミスをしたとき の代替案も用意しておかないといけない。そして次のS君を育てるように、サ イクルを確立する。常に幹部は、現場がどのようになっているのか、だれがど のように動いているのか。誰に何を投げたらうまく回るのか。それを時間をか けずに判断できるようには、どうすればいいのか。常に集中して見ていること が大事だ。