**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第602回配信分2015年11月09日発行 中小企業の経営者が日ごろから備えること その100 〜人を育てることが経営者の最大のミッション〜 **************************************************** <はじめに> ●先日30歳代の若手の経営者の方とお話しする機会があった。ご相談の内容 は、事業を始めて3年余り。幸運なことに比較的事業が順調に滑り出し、初年 度から黒字を計上できた。そして、3年目の今期も大幅ではないが、黒字を計 上できそうだ。これで、創業から3年連続の黒字計上となった。一見、順風満 帆だが、やはり悩みは尽きない。特に、仕事が忙しいので、人手が足りない。 何とか、従業員を増員したいが、なかなか人が採用できない。どうしたらいい だろうかという、ご相談だ。ご相談と言うより、コーチングに近い。 ●贅沢な悩みだというかたもあるだろう。創業して、ラッキーがあったにせよ すぐに黒字が計上できるなんて、珍しい。それより3年間くらいは、資金をど うしたらつなぐかで死にもの狂いだ。そんな悠長なことを言っている場合では ない。それが普通だろう。成岡も創業して3年間くらいは大変だった。この企 業は、そういう意味では恵まれている。お父さんが同じ業界で創業され、この 経営者はその長男だが、のれん分けではないがお父さんと袂を分かって創業し た。小さいころからのDNAと持ち前の商才で立派に事業を伸ばした。 ●さて、事業が順調に拡大してくると、今度は人の悩みに突き当たる。売上も 1億円を軽く突破し、順調に伸びている。従業員も当初の若干名から5名を超 え、さらに増員をしたい状況にもなってきた。ここでぶち当たるのは、人材の 採用だ。まだ創業して間もない企業が、ハローワークに応募の書類を出して も、全くと言っていいほど、反応はない。現在は皆無に近いらしい。しかし、 現場は結構忙しい。現場からは増員の要請がある。これで、もう少し人がいた ら、もっと受注が取れるのに。そう思うといらいらしてくる。 <トップが採用に必死になる> ●当該の企業さんは、いつもながらハローワークに募集を出しているが、一向 に応募がない。待てど暮らせど、一向に反応がない。とうとうしびれを切らし てのご相談となったのだが、得に名案、妙案があるわけでもない。おっつけ、 他の人材センターにあたってみるか、他の紹介機関はどこがいいかという、各 論に陥る。しかし、ことの本質はそうではない。媒体や紹介機関の問題ではな く、経営者その方、その人の心の持ちようなのだ。会社がどういう方向を目指 しているのか。自分は会社をどういう会社にしたいのか。 ●幸いなことに、この企業は当面目先の業績で一喜一憂することは、当分はな いだろう。それは、ある意味有難いことだ。だから、ここはチャンスととらえ て、環境の改善、受け入れ態勢の整備、事務所内の整理整頓、受け入れた後の 教育や研修ツールの準備など、やることは山のようにある。しかし、あまりそ ういうことには関心がない。ハローワークはご存じ紹介は無料だが、どこのサ イト、どこの紹介企業ならいくらかかるかという、カネの検討に陥ってしまう ことが多い。実は、ことの本質はそこではない。 ●まず取り組むべきは、自分自身がもっと深く人材採用に関わること。もっと 必死になって、将来を担う人材の採用に本気になること。いまの時代環境は、 おしなべて募集市場はタイトだ。特に、新卒、中途を問わず人材の採用に関し ては大手企業、有名中堅企業でも難儀している。まして、創業3年目の若い企 業だ。活力はあるかもしれないが、知名度は全くない。規模もまだしれてい る。社長が若いのが逆に売りだが、軽い印象はぬぐえない。そういう、プラス とマイナスの中で、中小企業が優秀な人材を採用するのは至難の技だ。 <いい人材を採用するには3年かかる> ●では、どうするか。もっと自分自身が、自分のミッションだと自覚して動く ことだ。お薦めしたのは、自分が卒業した母校への働きかけ。まだ、卒業して 20年くらいだ。同級生が母校の先生、教師をしている人もいるという。なら ば、その教員の同級生に積極的に働きかける。自分の母校だから、特に妙に意 識する必要はない。自然に、自社の良さ、特徴をPRして高校なら3年生に対す る就職ガイダンスの際に、積極的にPRしてもらう。そして、もっと足しげく母 校に出向き、PRする。接触時間を意識的に増やす。 ●それでも、1年目にすぐに結果が出るとは思えない。何でも3年はかかると 思っていた方がいい。まず、色々なことを始めて、翌年に少し反応が良くな り、3年目に多少とも結果が出る。それでも、早い方だ。3年経過しても、何 も結果が出ない、反応がない場合もある。しかし、一時の結果で短絡的に結論 を出してはいけない。少なくとも数年間、我慢して我慢して活動を続ける。幸 い、業績がいいこの時期に活動し、種まきをしておく。そういう意識が必要 だ。優秀な人材の採用に積極的にトップが関わるのは、当然だ。 ●それを勘違いして、誰かに任せてやらせておけばいいと、錯覚する。現在は 何とか回ってるので、他の方面に自分のエネルギーを向けている。3年目がひ とつの乗り越えるべき山と言うのは、おおむねこのような状態を指す。ここ で、この山が越えられたら、相当な成長を期待していい。しかし、大半の企業 では、お店では、そう簡単に採用が出来て、人材が育つとは思えない。ここが 中小企業の、ひとつの山、壁なのだ。ここを簡単に乗り越えられる企業は少な い。これを乗り越えるのは、経営者の器量なのだ。 <人を残すは、上(じょう)> ●あまり自覚はないかもしれないが、現在は相当な売り手市場だ。企業が必死 になって採用活動をしても、全く応募がない企業が山ほどある。実績のある中 小企業ですらそうだから、業歴の少ない企業や規模の小さい企業では、よほど 努力しないと採用は難しい。特に、高卒新卒などの採用は、非常に厳しい。あ る企業では、仕事のPR用の動画を制作するのに、百万円以上の費用をかけて、 相当立派なものを作った。それを持参して、縁のある高校を訪問しているが、 全く反応がない高校が大半だという。 ●今回ご紹介している企業の業種はあえて書かないが、そう格好いい仕事では ない。泥臭い業務も多いし、屋外の仕事が多い。夏は暑いし、冬場は寒い。特 に2月くらいは寒風吹きすさぶ中での立ち仕事になる。そんな厳しい環境でも 頑張ろうと思えるイメージを持ってもらうには、経営者、代表者の募集にかけ る熱意、情熱、エネルギーが相手に伝わらないといけない。本当に真剣に人材 を採用し、育て、その人の将来に責任を持って経営にあたっているか。その意 気込み、気持ちは自然と相手に伝わるものだ。 ●いくら設備に投資をしても、いくら見栄えのいいホームページを作っても、 所詮企業は人が運営し、判断し、事業を営む。その人、つまり人材を採用し、 育て、教育し、一人前にするのは企業経営者の責務だ。従業員はパートナーで あり、かけがえのない資産だ。資産価値を高めるのは、当人の努力もあるが、 そのほとんどは企業の、経営者の考え方ひとつだ。最後に格言を。カネを残す は、下(げ)。会社を残すは、中(ちゅう)。人を残すは、上(じょう)。こ れを肝に銘じて、人材を育てることだ。