**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第610回配信分2016年01月04日発行 成岡の40年の社会人生活の軌跡をたどる:その8 〜選挙結果は選挙運動のマネジメントの巧拙で決まる〜 **************************************************** <はじめに> ●前回に書いた戸別訪問による後援会活動は、その後転身した出版社での営業 活動の原点になった。理系工学部を卒業して、合繊繊維製造メーカーに就職し た技術者にとって、市会議員選挙の戸別訪問活動は全くの異次元だった。当 初、何を、どう、話ししていいのか分からない。周囲の組合役員は既に1回前 回の選挙を経験している。なので、要領も分かっているし、何よりも地元出身 者だ。言葉も、訛りも、アクセントも、イントネーションも、所詮関西弁、そ れも京都弁の若者とは年季が違う。当初、非常に戸惑った。 ●しかし、職場を代表して組合役員になり、専従の選挙運動員として、いわば 出向しているような身分だから、弱音は吐けない。何とか、これは食らいつか ないといけないと思って、色々と悩んだが工夫をした。しかし、小手先の工夫 では通用しないことも、すぐにわかった。選挙の後援会活動だが、やはりこち らの人間性を売り込まないといけないのだ。候補者を売り込む以前に、まず玄 関に出てきたおばあちゃんに、こちらが何者でどんな用事で訪問して、何をお 願いしたいのか、それを分かってもらうには、まず人間を売り込むしかない。 ●段々、コツや要領、しゃべりかた、玄関への入り方、その家の周辺の情報収 集などの、テクニックは身についてきた。後援会の名簿から転記したカードだ けでは、なかなかその家の様子、状況は分からない。まずは、ぐるっと家の周 囲を一周する。広さ、古さ、建物の外観、庭の雰囲気、ガレージの車などを一 通り頭に入れてから玄関をノックする。マンションやアパートなら、必ず裏に 回ってチェックをする。そうすると、途端に会話のカードがたくさんゲットで きる。いわゆるフロントトークが滑らかに出てくる。 <俄然忙しくなる選対事務所> ●他にもいっぱいノウハウがあるが、またの機会に譲るとして、ここから学ん だものは大きかった。人間の心理の綾もわかる。ちょっとした会話の何気ない 言葉のミスで、印象を突然悪くされた失敗もある。いろいろと、経験したこと はのちの転職以降のいろいろな場面で、非常に役に立った。今でも、感謝して いる。こういう経験がなかったら、おそらく転職して行った出版社で、3年目 から営業の部門長を任されたが、おそらくできなかっただろう。それくらい、 この選挙活動における後援会活動の戸別訪問は有意義だった。 ●さて、いよいよ選挙の告示が迫ってくるひと月前くらいになると、組合事務 所の選対本部は俄然忙しくなり、緊張感が漂う。選対本部を取り仕切っていた のは、組合専従の書記長の林さん。当時45歳くらいだろうか、一番油が乗って いた年齢だろう。この林さんの下で、連日連夜、専従運動員が集まってミー ティングを行う。ときには、青年部の幹部なども会議に加わる。選挙事務所の 設営、ポスターの撮影印刷の段取り、掲示板へ張り付けるメンバーの割り振 り、協力企業へのあいさつ回り、立会演説会の段取りなど、非常に忙しい。 ●当時、パソコンも携帯電話もない。コピー機もようやく工場の事務所に数か 所入ったような時代だ。模造紙やホワイトボード、黒板などに所狭しといろい ろな殴り書きの情報が書き込まれる。住宅地図を一冊ばらして張り付けて、大 きな地図にして、そこに蛍光ペンで後援会に加入してくれた方の住宅をプロッ トする。その塗る色を、従業員の家、協力業者さんの従業員の家、関係企業さ んの社員の家などに塗り分ける。協力の程度の応じても色を変える。訪問の都 度、状況が変わり、どんどん変化していく。 <ポスターの掲示場所を確保する> ●当時の豊橋市の市会議員のポスターは、告示前ならどこでもやるが市政報告 会という講演会を数回行う。その広報用のポスターを従業員の住宅などに頼ん で張らしてもらう。告示後はこれを撤去しないと選挙違反になるので、どこに 張ったかを全部地図上に記録していないといけない。そして、告示後はすぐに 外しに行かないといけない。ときどき、告示後も剥がすのを忘れてポスターが 残っており、色々なところから電話で指摘がある。すぐに駆けつけて撤去しな いといけない。 ●告示後の選挙用本番のポスターが、またやっかいなのだ。公設の掲示板では なく、選挙管理委員会からポスターに張る「証紙」を受け取る。枚数は忘れた が、ざっと500枚くらいだったか。この「証紙」を本番用のポスターに張れ ば、どこに掲示しても構わない。逆に500か所の掲示する場所を確保する必要 がある。現在はどのような方式になっているか分からないが、当時はそうだっ た。なので、この掲示に絶好の場所を確保するために東奔西走することにな る。当然、人目につくいい場所は取り合いになる。 ●また、自分の自宅敷地のフェンスや壁に張らしてもらうには、当然許可が要 る。ご主人に依頼してもそう簡単に許可が下りるわけではない。当然、ポス ターが貼ってあればその候補者を支持していることの意思表明になるからだ。 空き地は空き地で地主の許可が要る。公的な建物、土地は絶対にダメ。商業施 設は特定の候補者のポスターは、まず張ることは拒否される。そうなると、狭 い人口30万人の市内で、実はあまり目立つ場所に張ることは非常に難しい。こ れも、実際には営業活動みたいなものだ。 <演説会の前座演説を務めたことも> ●告示前の市政報告会、告示後の立会い演説会、小さな場所でのミニ集会、支 援企業での昼休み中心の演説会など、ほとんど連日連夜、1時間刻みくらいで 移動しながら選挙カーが走る。選挙カーに候補者が乗っていることは実はまれ で、ほとんど違う場所で演説や訪問をして、どこかで落ち合ってまた次の訪問 先、演説会場に移動する。当時、携帯電話がないから、このスケジューリング は非常に困難を極める。道路が渋滞している場合もあるし、突然のハプニング も起こる。昼食をどうするかもある。 ●数か月前から、徐々に日程が固まってくる。移動が長距離だったり、渋滞が 予想される交差点を通る時間帯を綿密に計算する。そして、候補者本人を乗せ て走る車と、その予備の車を用意する。何が起こるか分からないから、必ず予 備の車を一台併走さす。それと別に選挙カーは選挙カーで走っている。相当、 地元の地理に詳しい運転手でないと務まらない。かくて、常時3台の車が稼働 している。これをマネジメントする責任者が当然必要だ。その人に情報を集中 しないといけない。まさに指令室が必要なのだ。 ●告示後は選挙事務所の応対、協力企業への訪問、演説会の段取り、ポスター の手配と掲示場所の確保、戸別訪問の継続、電話での投票依頼、投票依頼はが きの発送、そして内部の引き締め策の検討など、それこそ毎日が戦場のよう だ。その間、色々と面白い経験をいっぱいすることができた。次号に詳細を書 くつもりだが、立会演説会の会場で待機していたときに、候補者が渋滞で10分 くらい遅れたことがある。突然、10分間の前座のスピーチを即興でやれと命じ られたこともあった。冷汗をかきながら、なんとか務めたことも、いい思い出 だ。 何事も初めての経験だったが、やる気があればできるものだ。