**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第611回配信分2016年01月11日発行 成岡の40年の社会人生活の軌跡をたどる:その9 〜選挙運動にはマーケティング感覚が欠かせない〜 **************************************************** <はじめに> ●約半年間の選挙運動期間中でも、やはり最もエキサイティングなのは告示前 1か月から投票日までだ。工場敷地外の比較的近い社宅の空き地の一角に選挙 事務所がプレハブで建設される。もちろん、終了後は取り壊すので、簡単な造 りだが工事関係者が工場内には多く出入りしているので、これくらいの建物を 臨時で建てるのは、朝飯前だ。あっという間に選挙事務所が建てられて、関係 者が集まって事務所開きとなる。近くの神社から神主さんを呼んで来ての、お 祓い神事が執り行われる。滅多にこんな経験はできない。 ●しかし、実際の活動舞台の本拠は従来からある工場敷地内の組合事務所なの だ。これを、我々スタッフは「裏選対」と呼んでいた。公の選挙事務所に出入 りすると、外部の方や関係者の方がしょっちゅういらっしゃるので、非常に晴 れがましいし、目につきやすい。誰かと誰かが一緒に車に乗って、出かけるな どは、みんなの眼に当然さらされる。別に隠すことはないが、名簿や後援会の カード、プロットした住宅地図などを公の選挙事務所の壁に堂々と張っておく のは、いささか気が退ける。よって、それらは全部「裏選対」事務所でやって いる。 ●「表選対事務所」には、どこでも同じだろうが、激励文、推薦文、片目のダ ルマなどがびっしりと並べられ、来客用の椅子やテーブルなどが置かれてい る。当然外部からの電話もかかるので、常時数名が詰めていないといけない。 また、面倒なのが食事の世話なのだ。当時、まだコンビニなどという便利な店 がほとんどなかった時代なので、社宅の奥さん方を中心に、昼ごはんの世話を していただく「炊き出し班」を編成する。毎日、数名の奥さん方が交代で「表 選対事務所」に炊事当番で来ていただく。これもシフトをうまく組まないとい けない。 <女子社員の電話チームを作る> ●選挙活動のひとつ大きなものに、電話での投票、応援依頼というのがある。 最近では、各自の家に固定電話をつけない人も多いが、当時昭和50年代はほと んどの家に固定電話が必ずあった。逆に、携帯電話がまだなかった時代だ。 FAXなどという洒落たものも、まだ普及していなかった時代。当然、メールや インターネットなどという言葉は、全く社会に存在しなかった。そこで、活用 されるのは従来からの固定電話なのだ。電話での選挙活動は、合法的にも認め られた活動だ。俄然、ここに力を入れることになる。 ●むさ苦しいおっさんが電話をかけるより、若い美人の?女性の声で電話をす るほうが、よほど相手に対する印象が良くなる。かくて、工場勤務の若い女性 たちを組織化し、電話かけまくり隊のようなグループを編成する。日中はかけ てもほとんどお年寄りくらいだから、おっつけかけるのは夕方から夜になる。 1グループ10名くらいのチームをいくつか編成して、トップに男性の担当責任 者をつける。当然、若い女性たちに電話をかける役目をお願いしても、エント リーしてくれる人は、まず最初はほとんどいない。 ●当然、無報酬のボランティアだから、当初各自にお願いに行っても全然反応 してくれない。まだ20歳そこそこの若い女性たちだから、当然選挙などにも興 味もなければ、組織内候補者がいてもいなくても関係ない。そんな彼女たちを 口説いて、週に1日くらい何とか数時間、勤務後に組合事務所の会議室に来て もらって、電話での投票依頼のメッセージを伝えてもらう。この依頼をするの に、相当苦労した。総勢50名くらい、5グループくらいのチームができたの は、ようやく告示近くになってからだ。 <電話での選挙活動は意外と難しい> ●まず、スクリプトと言って原稿を用意しないといけない。電話をかけて、相 手が出てきたらどういう会話をするのか、お話しをするのかを、予め原稿つま り文字にしておかないといけない。当時はパソコンなどもなく、手書きの原稿 を何回も、何回も書き直して、組合役員全員で検討して、ようやくひとつのシ ナリオにする。基本トークはこれで出来上がるが、一番難しいのはまず相手が 出た時の最初の切り出しのシナリオだ。電話と言うのは、やっかいなもので、 誰が電話口に出るか分からない。後援会に加入した本人が出るとは限らない。 ●夕方から夜時間となると、それこそ本人以外ではおじいちゃん、おばあちゃ ん、奥さん、子供などいろいろな人が電話口に出てくる。そこで、かけた女性 が後援会加入の本人につないでもらうように依頼するのだが、ここがまず最初 の関門だ。ご主人が工場に勤務されている従業員の家ならまだしも、下請け企 業からの紹介での会社とは無縁の人の自宅に、夜に電話して選挙の投票応援を 依頼するのは、なかなか難しい。まず、電話口に出た人に、どうやって簡単明 瞭に用件を伝えることができるかだ。 ●我々リーダーが、まず手本を見せないといけない。10名くらいの初めて電話 での選挙活動を経験する20代の若い女性たちに囲まれて、自分が見本をやって みるのは非常にストレスだ。最初は、ロールプレイといって模擬練習を行う。 電話をかける方も受ける方も、我々役員がやってみせて、特に受ける方の人は 相当意地悪い応対をする。そこでうまく切り返せるように、練習をしてもら う。当時はまだ今ほど個人情報に関して、うるさくなかったから名簿の出所で あまり突っ込まれることはなかった。それでもトラブルは、多々あった。 <女子チームのマネジメントで学んだことは大きい> ●特に、ご主人が外部の企業の方で奥さんが当社工場勤務のパートの方の場 合、奥さんを電話口に出て欲しいということを言わないといけない。夜分に何 用だ?という突込みから始まり、ご主人がうるさい方だとどういう名簿を見て かけているのかとか、面倒だなどと、あからさまに拒否反応を示される。素人 の電話をかけた女性では対応できないトラブルになる可能性もあり、そういう ときはさっと挙手してもらうことになっていた。そこに、さっと我々責任者が 飛んで行って電話をさっと交代する。トラブルシューティングをするのだ。 ●だから電話活動が始まる夕方から、夜の21時くらいまでは全く気が抜けな い。集中して、いつなんどきでも交代できるように消防署の署員の待機状態な のだ。晩飯も食えないが、緊張感で食事などできるものではない。そうやっ て、10名チームの5グループくらいを毎日毎日交代でローテーションする。当 然若い女性たちだから、体調を悪くする人もあるし、ドタキャンで欠席する人 も出る。前回の電話の印象が悪くて、もう二度とイヤと言われて、平身低頭 謝ってなだめすかして、また来てもらったことも数知れない。 ●なかには、何回かかけているうちに面白く楽しくなってくる人もある。逆 に、1回うまくいかないと落ち込んでしまう若い女性たちもある。本当に、こ のマネジメントは非常に疲れた。しかし、この電話の経験が、のちに転職して 後日テレマーケティング子会社の代表取締役で転籍したときに、圧倒的に役 立った。人生、何事も経験しておくに越したことはないと、つくづくその際に 感じたものだ。かくて、この女性たちとは非常に親しくなり、選挙終了後も工 場内では非常に円滑な人間関係が出来たことが、最大の収穫だった。 その時は分からなくとも、あとで役に立つことは山ほどある。意味のない仕事 などは、ない。