**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第621回配信分2016年03月21日発行 成岡の40年の社会人生活の軌跡をたどる:その19 〜プロジェクトを軌道に乗せたご褒美は40日間の海外出張〜 **************************************************** <はじめに> ●大きなプラント、製造設備の試運転に立ち会い、実際に担当し、それを軌道 に乗せるという経験は、実はそのときが初めてだった。これくらいの大型投資 の試運転に遭遇するのは、相当運がいいとあとで、いろいろな方から言われ た。たまたま配属された部署がそうだったというめぐり合わせなのだが、やは り運がいいと思った。正直、ついていると思った。そう、前向きに楽天的に考 えると、何もかもがうまくいくし、好循環になる。自信がなくて、恐々として 対峙すると、不思議なもので幸運はやってこない。 ●正直、これだけの新しい設備を任されて、試運転の現場を采配し、一日も早 く運転を安定させ、品質のすぐれた製品を製造するのが、我々の役目なのだ。 やることが明確だから、当然モチベーションも高くなる。関係者の注目も集ま るし、本社からも大勢の関係者やスタッフが、頻繁に豊橋工場に出張で足を運 んでくる。なにせ、1980年(昭和55年)くらいは、会社の業績もまだそう大き くは回復していない時代だった。その時期に非常に大きな設備投資、開発投資 をしてもらった。これは、絶対に失敗は許されない。 ●毎日遅くまで会社に残って、プロジェクトのメンバーとスケジュールの確 認、段取り、準備など、それこそ猫の手も借りたいくらいの忙しさだった。し かし、今から思っても、やることは明快だし、目的も、ビジョンも、方針も、 ずべてがクリアーなのだ。当然、目指すべき山ははっきりしているし、いつま でに登り切らないといけないということも、関係者一同一致している。なに せ、初めてのことだらけだから、心配は心配だったが、心配しても仕方ないこ ともある。やるべきことを、全部やり切れば、あとは結果を出すだけだ。 <ユーテリティのテストを行う> ●試運転から本運転、本格稼働までの詳細は、もう30年以上も前のことではあ るが、ほとんどが機微な情報であり、今でも企業秘密に属する範疇のものが多 いから、ここではあまり詳細には書けない。一定程度常識で許せる範囲に限定 されるのは、致し方ない。おおよその設備が徐々に完成していくのと同時進行 で、単品の機器のチェックが行われる。電気設備、配線、配管、ポンプやモー ターの作動、プログラムの確認などを一通り行ってから、いよいよいろいろな ユーテリティのテストに入る。 ●緊張するのは、熱媒と呼んでいた高熱の媒体の昇温だ。まあ、てんぷら油の ようなものだと思っていただければ想像がつくだろうか。動力課の大型熱媒 ヒーターで350度くらいの高温になった油が、大きな配管を伝って流れてく る。常温から280度くらいの高温に温度が上がると、いろいろなところで熱膨 張が起こって緩みが生じる。一か所一か所の配管の緩みを大きなレンチで順番 に締めていく。これを昇温増し締めといって、非常に大事な作業なのだ。新設 エリアにあるすべてのボルトナットを増し締めするのに、相当な時間がかか る。 ●設備班の担当と、作業を委託した業者の責任者と作業員、そして運転を任さ れている我々とがチームになって、図面を片手にすべての個所を増し締めして 終わるのに、一週間くらいは優にかかる。それくらい作業箇所は膨大になる。 そして、順次いろいろなユーテリティを通し、バルブの作動やコントローラー の動作、プログラムに沿って動くかをチェックする。たったひとつの見落とし が大事故につながるので、緊張の連続だ。それが終わると、いよいよ本番の原 材料を流して、反応を起こさすテスト運転に入る。 <原材料を通し反応テストを行う> ●ここからは、いったん動かしだすと24時間365日止められない。もちろん高 圧容器だから一定期間で必ず運転を止めて官庁検査という検査を受ける必要が ある。しかし、それでは安定して製品を製造することができないから、必ず複 数の系列をつくって、片方ずつ停止したり、一部を停止したりできるようにし てある。そして運転を停止した設備に変わって予備の系列機械を動かす。そも そも、そのようにラインが造ってある。しかし、その切り替えのバルブの操作 を間違えると、とんでもないことが起こる。 ●原材料は、高温高圧の環境下で、次第に流量を上げてまず30%から50%くら いで安定的に流れ、反応し、生成物を取り除き、ポンプで次の工程に連続的に 一定の流量で送り出すことが大事だ。それが、まずきちんとコントロールでき ているかを確認する。これだけでも数日かかる作業なのだ。12時間の2交代で 昼夜を問わず、試運転を繰り返す。そして、一定程度安定的に製品ができるよ うになってから、次に80%くらいの稼働に持ち上げる。ここで異常なことは起 こらないか、できた製品の品質は安定しているかを、何回も何回も確認する。 ●次に、温度や圧力、流量などの主要な変数をいろいろな条件に振って生成物 の品質確認や物性をサンプリングして分析し、確認し、反応が正常に行われて いるか、製品の品質が一定のレンジ、範囲に入っているか、異物ができていな いか、反応率は正常か、などを何度も何度も確認する。そして、概ね安定して 製造できた製品のポリマーをカッティングして取り出して、後工程に早く運ん でテストの糸を製造する。その糸を検査し、撚糸し、油剤をつけ、巻き上げ る。そして、さらに次の工程で異常が起こらないかを確認する。 <プロジェクト成功のご褒美は> ●化学繊維はあとの工程も複雑だが、一番おおもとのポリマーの物性がきちん と範囲に入っていることが大事なのだ。この重合工程の大型設備投資は、中央 研究所の研究開始からだと、おおよそ10年、現場への導入決定から5年、設備 の発注と据え付けから3年、テスト運転から約1年間でおおよそ終了したプロ ジェクトだった。技術的な企業秘密もあるので、これ以上仔細に書くことはは ばかれるので、肝心な部分はあまり書けないが、それでも12時間2交代の勤務 を半年やって、通常の日勤形態に戻ったのは、8か月くらいあとだった。 ●とにかく、曲がりなりにも、テスト運転は成功した。細かくはトラブルも山 ほどあったが、爆発、炎上、流出、ケガなどの異常事態は起こらなかった。 モーターが逆回転したとか、温度計が異常値を示したとか、一部の配管から漏 れたとか、些細なことは山ほどあったが、それは現場の知恵と行動で乗り切っ た。ようやく交代勤務から通常の日勤勤務へ復帰したときは、さすがに嬉し かった。満足感や達成感も大きく、でかい仕事をやり切ったという自信が持て た。もちろん、全員の力でできたことだが、個々のメンバーの意識は高かっ た。 ●今でも覚えているが、1980年昭和55年の春にようやくこのプロジェクトは いったん終了し、運転技術、製造技術、品質管理などの引継ぎが我々開発技術 班から現場へ移行された。作業標準書、品質標準書、技術標準書、設備標準 書、運転マニュアルなどを順次書き上げて、ようやく一端5月頃に落ち着い た。そしたら、例のS部長からお呼び出しがあり、部長室に伺った。プロジェ クトの終了完成のお褒めの言葉をいただけるのかな?と勇んで出向いたら、と んでもないご褒美の話しだった。40日間の海外出張だった。