**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第629回配信分2016年05月16日発行 成岡の40年の社会人生活の軌跡をたどる:その27 〜移籍した中小企業で経験したシリーズ:採用の基本〜 **************************************************** <はじめに> ●いきなり中途採用の会社説明をやってみろと言われて、少々戸惑ったがそこ は以前に勤務していた会社の労働組合での選挙活動中の応援弁士の経験が大い に役立った。なにせ、選挙の立ち合い演説会の応援弁士というのは、候補者本 人が会場に到着するまでの、座持ちの演説なのだ。当時は携帯電話などないか ら、定刻になっても候補者が会場に現れないときには、5分10分の即興のしゃ べりが要求される。会場もざわざわしているし、なかなか場持ちは難しい。し かし、他にやる人がいなかったので、お鉢が回ってきた。 ●一番最初は当然うまくできなかったが、何回かやっているうちに何とかコツ がつかめてきた。最後のオチを決めておいて、短時間でも中途半端な時間で も、最後はそのフレーズで決めて終わるようにした。そうしたら、なんとなく 話が締まってくるようになった。そして、必ず誰かに終わってから、どうだっ たと聞くことにしていた。やはり、お客さんの反応が一番大事なのだ。いくら 本人が満足していても、最後の最後はやはりお客さんの反応だ。数回やってい ると、不思議なもので実感で分かるようになった。やはり場数だ。 ●話しは戻って、いきなりオーダーされた中途採用の会社説明だったが、やは りここで断るわけにはいかないので、勢いで引き受けた。前日の大阪での説明 会では、後ろの席でずっと聞いていた。当然、初めてだからノートでメモを 取っていた。だから、話しの流れや要点はわかっていたが、やはりいきなりや れと言われると、それはそれでなかなか難しい。しかし、まあ何とかなるかと 深刻に考えずに、ではやりましょうと言って、おもむろにしゃべり出した。だ いたい1時間だから、おおよそのストーリーは頭に入っていた。そして、最後 のオチも。 <創業のいきさつから仕事の内容まで> ●まずは、会社が出来たいきさつ、創業の動機、きっかけ。一番最初は印刷会 社から始まった会社だから、その印刷会社が出来たいきさつからストーリーは 始まる。これがなかなかアカデミックな動機で、創業者は浄土真宗西本願寺の 高僧だった。当時の代表取締役社長の祖先にあたる。大正の中ごろに印刷会社 を布教のために創業し、太平洋戦争を経て戦後印刷会社を再興し、宗教、歴 史、東洋史、考古学などの人文科学系の分野の印刷物を得意とする。昔だか ら、活版印刷機も当然持っていたし、鉛の特殊な活字がたくさんあった。 ●その印刷会社から昭和47年に当時の代表取締役が出版社を創業した。印刷会 社というのは受注産業で、製造加工業になる。紙を仕入れて、お客さんからの 指示された印刷物を印刷する。そこには、いろいろな企業ごとに得意技があ り、特徴がある。また、持っている印刷機械によってできることと、できない ことがある。しかし、どこまで行っても受注産業であることに変わりはない。 しかし、出版社は違う。これは、企画が命なのだ。自分のところの都合や思 い、考えで書籍や雑誌を作ろうと思えば、公序良俗に反しない限り構わない。 ●出版社という日本語の響きは非常に心地よい。いかにも文化の香りがする し、アカデミックな雰囲気がある。それも、下世話な出版物ならいざ知らず、 学術研究書となると、非常にレベルが高い。なので、あまり安売りするイメー ジではなく、結構ハイレベルな感じの雰囲気を前面に押し出す。しかし、あま り難しい話しをするととっつきが悪いから、自分には出来ないという先入観を 持たしてしまう。素人のあなたにも簡単にできますよ、という印象を持っても らうには、話しのメリハリをきっちりつけないといけない。 <出張が多いのが難点> ●そして、現実に実際現場でする仕事の内容を説明しないといけない。最後 に、待遇などで締めくくる。そこから、次は個人面接に入ることになる。一番 のネックは、待遇でも仕事の難しさでもなく、出張が多いことだ。じっと待っ ててお客さんが来る商売ではない。書店で売れればいいのだが、学術専門書は 値段が高いから書店に置いていない。だから、こちらから見本を持って営業に 出向かないといけない。専門家は全国各地に点在しているから、おっつけ、当 方から能動的にアクションを起こさないといけない。 ●東京以北は当時営業所や支店がなかったから、東京以北の地域は出張での営 業活動になる。見本やカタログ、パンフレット、説明資料、申込書など機材一 式をトランクに積んで、車で出かける。高速道路はそこそこついていたが、ま だ全国各地に高速道路網が張り巡らされていたわけではない。ナビもなく地図 を頼りに営業車で移動する。一度出かけたら、最低2週間は行きっぱなしにな る。北海道などは冬場は行けないから、どうしても時期が限定される。あとで 札幌支店を作ったが、当時北海道は東京から出張で営業していた。 ●独身で若い人は問題ないが、中年で子供が中学、高校あたりの年齢層の方の 場合は、なかなか長期間家を空けるとなると家庭の事情で難しい人も多い。逆 に喜ぶ人も稀にはいたが、大半は2週間、3週間の出張が延々と続くとなる と、入り口で足が止まる。面接の時点では、特に問題ないと言っていた人で も、最後の最後になると弱気になったり、奥さんと相談するとほとんどが辞退 という結論になることが多かった。また、現職で企業に在籍の応募者と、既に 退職してなかなか再就職が難しい人とでは、全く状況が異なる。 <迷ったら採用しない> ●会社説明が終わり、次の個別面接が勝負だ。ここで、短時間でどれくらい、 その応募者の人となりを聞き出せるか、炙り出せるかをうまくやらないといけ ない。その日の応募者の人数にもよるが、大勢だと一人15分くらいになる。15 分では難しいので、一次面接では次回に呼びたい人か、そうでないか、という 非常にシンプルなジャッジにしていた。初回の面接では、なかなか、よく分か らないことが多い。かくて、1週間後くらいに、もう一度呼び出すことにな る。実際には、この2回目の面接が勝負だと思っていた。ここで、本音を聞き 出す。 ●新卒採用よりも中途採用の面接は、相手に一定の社会人経験がある場合は、 それ以上の情報量でジャッジしないといけない。成岡は転職直後は営業の仕事 に関しては、ほとんど素人同然だから、うまい聞き出しができなかった。やは り自分が経験していないと、勘所の質問がうまくできない。投手で引退した野 球の評論家が打者の論評ができないのと同じだ。やはり、何十人、何百人と面 接の経験を踏まえて、相手を見てはまった質問が次第にできるようになる。 「はい」「いいえ」で返事できる質問は意味がない。相手にいかにしゃべらす か。 ●2回目の面接でほとんどこちらの意思決定をしないといけない。今まで山ほ どの判断ミスをしてきた。優秀だと信じて疑わなかった人が、入社後全然空振 りだったり、さほど期待していなかった地味な人が入社後急に伸びたりしたこ とも、多くあった。自分の判断の物差しをもたないといけないと気付いたの は、そんな山ほどの無駄な経験をしてきたあとだ。ただ、ひとつ頑固に守って きたのは「迷ったらやめる」というシンプルな物差しだ。それをやらなかった ために、今までどれほど多くの無駄をしてきたことか。基本方針は単純化する ことだ。