**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第637回配信分2016年07月11日発行 成岡の40年の社会人生活の軌跡をたどる:その35 〜移籍した中小企業で経験したシリーズ:〜売ろうとしたら売れない〜 **************************************************** <はじめに> ●初版5000セット。総制作費6億円。20名の新卒採用に3,000万円の費用をか けて、本当に社運を賭けたプロジェクトだったが、当初営業成績が全く上がら ず、義兄の社長が相当気を揉んだという噂は、すぐに成岡の耳元には届いた。 全社の会議でも、この最重要プロジェクトの現状をどのようにテコ入れするの か?営業が素人の成岡に、この社運を賭けた大きな企画、仕事を任せていいの か?という素朴な疑問がまことしやかに会議で議題がのぼるようになった。幹 部会議のメンバーである成岡の目の前で議論される。 ●やはり理由の如何を問わず、営業部門で数字が上がらないのは致命的だ。し かも、企画から販売まで一貫して市場調査をして、自信満々でスタートした部 門だ。いくら営業に素人の新入社員とはいえ、20名と4名のマネジャー、1名 の部門長の総勢25名が毎日毎日必死にやって結果が出ないはずはない。いった い毎日何をやってるんだ?営業のイロハを知らないのか?などなど、毎回の会 議はまさに針の筵以外の何物でもない。当然、会議に出るのに出張先から戻っ てくる。とうとう、言い訳ばかりなら出なくてもいいとまで言われた。 ●結果を出すしかないが、焦れども焦れども、やはり空回りして結果が出な い。とうとう、営業担当の専務から出た案は、外部からプロの営業をスカウト してくるという案まで出た。つまり、成岡に任せていてはダメだろうという失 格の結論だ。ただ、採用から入社研修まで、一貫して手塩にかけて育ててきた 新入社員チームと、半年間それこそ寝ても覚めても一緒に苦労してきた4名の マネジャーに、敗残チームの烙印を授けるわけにはいかない。しかし、なかな か結果が出ない。悶々とした日々が続く。持病の十二指腸潰瘍が疼く毎日が続 いた。 <売ろうとするから売れない> ●しかし、20数名が一生懸命毎日動いているのだから、全く結果が出ないとい うわけではない。数日間に1セットくらいは、どこかで誰かが販売実績を上げ てくる。この時期、1セットでも売り上げが立つということは、涙が出るほど 嬉しかった。そこで、気持ちを切り替えて、数字が上がったチームに出向い て、どのような状況で、どのようなトークをして、どのように振る舞ったから 売れたのかという検証を、徹底的にやることにした。そこでわかったことは、 実は意外なことだった。ほとんどの新入社員が、どうして売れたかわからない と言う。 ●しかし、結果的には個人がその場で1セット購入してくれている。だから、 買ってもらった動機、理由が必ずあるはずだ。しかも、そんなに安い買い物で はない。当時の販売価格は約20万円。18冊で20万円だから、1巻だいたい1万 円の専門書なのだ。いくら看護師さんの給料が相当高額とはいえ、やはり高い 買い物には違いない。それを、だいたい20分くらいの時間でさっと契約書にサ インしてくれる。何か理由があるはずだ、何か明確な根拠があるはずだと、必 死になって販売した新入社員にしつこく聞いた。 ●結局わかったことは、販売していないということだった。お客さんが自分で 判断して、自分でその価値観を納得して、自分で契約書にサインしている。つ まり、営業社員はほとんど営業をしていない。やったことは、きちんと説明を しただけだ。決して売っていないということに、気が付いた。これは大発見 だった。そうか、売らないのでいいのだと。売ろうとするから売れないのだ。 売ろう、売ろうとするから、逆に、かえって売れないのだ。売ろう、売ろうと する気持ちが強すぎて、数字を挙げないといけないという気持ちが強すぎて、 売れないのだ。 <見えるものが違ってきた> ●なんとなくわかったが、これをメンバー全員にどのように伝えればいいの か。とにかく、次回の営業会議までに、4名のマネジャーを集めて、このこと を徹底的に議論してみよう。11月の紅葉の時期になり、群馬や長野チームの現 地は、観光客も多くなり、なかなか車での移動にも時間がかかるようになって きた。そこで、思い切って11月の月末は3日間早く現地を切り上げて、まずマ ネジャーを京都の本社に集合してもらった。今回は、研修会をするという名目 で、3日間京都に全員滞在することにした。 ●4名のマネジャーも、なんとなく半年間の実戦でそれなりに感触、手ごたえ を掴んではいた。しかし、売らない方が売れるんだという、パラドックスのよ うなテーマに関しては、最初はさすがに意思統一はできなかった。しかし、実 績の上がった現場の状況を再現すると、実は不思議なくらいそれぞれの状況は 似ている。まず、看護師グループの上司、つまり看護部長や看護チームのリー ダーたちが非常に勉強熱心な職場であること。毎日、毎日、医療の、看護の現 場は修羅場であり、研鑽を積まないといけない。 ●とにかく、上司が非常に勉強熱心な職場だった。だから、自分に投資をする ことにためらいがない。しかも、日本で初めて「看護+医学」という新しいコ ンセプトで出版された大型専門書企画だ。あまり、詳細な説明は要らないの だ。価値判断は、当事者の彼女たちが自ら行うのだ。いくらこちらが、すご い、すごいと宣伝しても、所詮我々は看護の現場では素人なのだ。素人なら素 人らしく、説明に徹すればいい。売ろう、売ろうとしないほうがいい。最後 は、自分で決めてくれればいい。そう思えるようになると、全く見えるものが 違ってきた。 <バッシングも意に介さず> ●この感触を、まず成岡と4名のマネジャーで共有することが必要だ。それ を、順番に抱えているチームメンバーに浸透させていけばいい。言葉で伝える 前に、まずマネジャー自身が自ら現場でその手本を見せることが大事だ。もっ と言えば、成岡自身が4名のマネジャーが納得する営業活動を行い、結果を出 すことが大事だ。この原理原則がわかってから、販売の現場で落ち着きが出て きた。それまでは、売らんかな、売らんかなという姿勢が見え見えで、お客さ んからは非常によくわかる。 ●人間は所詮弱いもので、やろうとすることの逆の行動をする。ゴルフで真っ すぐ飛ばそうと意識すると真っすぐ飛ばない。テニスでボレーできれいにポー チをして決めてやろうとすると、力が入ってミスをする。筋肉が固くなるの か、意識過剰になるのか、理由はわからないが、どうも逆の方に結果が出る。 本当のすごいプロになると全く逆なのだろうが、所詮営業の素人集団なのだか ら、素直に考えればいい。というわけで、売らない営業に徹することにした。 このことを自慢げに幹部会議で言ったら、それこそ袋叩きにあった。 ●しかし、結論には自信があった。25名で半年間、地べたを這って苦労して得 た結論だ。これは絶対に正しいと信じて進むことだと、幹部会議の意見は意に 介さなかった。当然、相当なバッシングの嵐も起こったが、結果を出せばいい んだと割り切った。そして、年末の12月くらいから徐々に現場で結果が出てき た。ある長野県の小さな病院では、M君が営業に行って、その病院の看護師さ んの大半が申し込んでくれた。20セットくらいが一度にオーダーになり、これ は快挙だった。次第に結果が出てきて、少しずつ自信が出てきた。