**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第684回配信分2017年06月05日発行 次世代の後継者が備えるべき能力7回シリーズその4 社内で人望を得るには:その2 〜謙虚に周囲の意見を聞く姿勢を身に着ける〜 **************************************************** <はじめに> ●後継者が直系の子息で男性なら長男が後を継ぐというのが、おおむね相場だ が、長男だからと言って優秀とは限らない。まして、学校を卒業して他社で修 行をしたからといって、必ずしも後継者としての能力や資質を備えているとは 限らない。逆に、資質の劣った親族一族の者が後継者に指名された場合、その 企業や組織の未来に非常に大きなマイナスをもたらすことにも成りかねない。 だから、後継者を誰にするのかは、中小企業にとっては業績以外の最大のテー マである。これに関して、相当悩む社長も多いと想像に難くない。 ●トップの立場になってみると一目瞭然だが、トップの立場に立つと誰もいや なことは言わなくなる。トップは人事権を含め、あらゆる決済権限を持ってい るから、社員の誰もが恐れる立場に立つ。いやなことを言って、心象を悪くさ れ、賞与や昇給の査定に響くことを懸念する。だから、社員や役員は、そのほ とんどが社長に対してマイナスの、ネガティブなことは言わなくなる。特に中 小企業は、その傾向が強い。会議をしても、ミーティングをしても、廊下の立 ち話でも、そのほとんどが耳障りのいいことしか言わなくなる。 ●特に、顧客からのクレームやまずいことは、一層情報が入ってこない。ま ず、第一報は営業担当者に連絡があるのだろうが、そこからトップにたどり着 くまでに時間がかかる。課長や部長で何とか対応しようと努力するのはいい が、対応できないスケールに発展する可能性もある。とにかく、悪いしらせは まず第一報をトップの耳に入れておく。クレームのスケールと質を判断して対 応するのは現場でいいが、情報はきちんと上に上げておく。その方が、上の者 は安心する。なんとか、黙っていて処理しようと思うと、ボヤが大火になる場 合が多い。 <中途で入ると苦労は覚悟> ●日ごろから円滑な人間関係やコミュニケーションが取れる環境を作っておく ことが大切だ。緊急時に、急に意思疎通、情報共有などと叫んでも、それは無 理というものだ。俗に言う、「日頃のつきあい」というものが大切で、これが なかなか難しい。まして、当人が代表者の子息などと言う立場なら、もっと難 しい。社員の誰もが、その立場を知っているから、簡単に打ち解けて人間関係 ができるとは思えない。どこか他社で修行して、30歳前後でお父さんが代表者 の会社に戻ってきた。相当な努力なしでは、簡単に後継者とは認められない。 ●認められないのだが、当人はそうは意識しない。当然のごとく、親父の会社 に中途採用で入ってきた。周囲の全員が、自分より社歴が長い。現場の経験も ある。四苦八苦して、苦労して、努力して、現在の地位をつかんだ苦労人もい るだろう。誰が、どんな過去を背負ってこの会社に入り、所属し、経歴を重ね てきたのか、それは非常に機微な情報だが、なかなか表面的にはそれは分かり にくい。しかし、一人一人の人生の大きな転機がどこにあったのか、学歴、経 歴はどうなのか。それを一定レベルで知っておくことは重要だ。 ●成岡が32歳で義兄の出版社に転職したときは、非常にとまどった。10歳違い の義兄が代表取締役社長だったが、社長が口説いてリクルートしてきたという 噂は、あっという間に広がった。特に、女子社員の間では相当の噂と話題に なったらしい。初めから社員全員と距離があったので、誰もいろいろなことを 教えてくれない。こちらから投げかけても、警戒されてなかなか打ち解けな い。孤立はしなかったが、これは相当苦労するなと、自分自身で覚悟した。あ る意味、過去もすべて捨てないといけないなと、腹を括った。 <謙虚になると道は開ける> ●一番親身になっていろいろなことを教えてくれたのは、実は東京支店に永年 在籍のベテランの女子社員だった。この人は滋賀県の出身で、縁あって当時の 会社に入ったが、東京支店に在籍していた。確か、女性の兄弟が当時の会社と 何らかの縁があって入社したと聞いていた。幸いなことに、その人がそこそこ の年齢だったが独身で、東京で一人住まいで、かつお酒が好きだった。東京に 出張に行った都度、誰かを誘って会社近くの水道橋の居酒屋に飲みに行った。 そこで、いろいろなことを教えてもらった。 ●役員や幹部の人の経歴、学歴、そして当社との縁。社員の人の入社のいきさ つとこれまでの経験。そして、会社が設立されて今日までの大きな出来事な ど、創業当初から在籍し、東京の社長秘書みたいな立場の人だから、結構オフ レコの情報も含め、いろいろと教えてもらった。また、業界のこともほとんど 知らなかったので、非常に勉強になった。京都の本社では、あまりにトップと の距離が近いので、誰もなかなか教えてくれないことも、東京なら大丈夫とい うことで、親身になって教えてくれた。そして、謙虚にその情報から勉強した ことを実践した。 ●中年で独身だったから、結構時間もあって、彼女がゴルフを始めたので、単 身赴任で東京にいるときに、ときどき数名でゴルフにも付き合った。やはり、 日ごろからの人間関係が非常に重要で、それがないと心のドアを開いてもらえ ない。逆に、日常の仕事では彼女が困った状況や、難しい場面では最大限でき る限り、何とかカバーしたりフォローしたりした。中途採用で、32歳で命がけ で転職した身には、この情報源は非常に貴重だった。年齢も一回り以上違って いたし、社歴も20年以上だった。謙虚になって接していると、道は開けるもの だ。 <まずは周囲の意見を聞いてみる> ●とにかく、途中で入った者にとって、まずどこで何をしていいのか、さっぱ り分からない。幸い、ほとんどの部署を数か月実習という名目で経験させても らった。教えてくれた課長さん連中は、同年齢くらいの人もいれば、50歳くら いの年配者もあり、逆に20代後半の若手もいた。しかし、年齢に関係なく、自 分よりすべての人は先輩であり、女子社員であろうがパートのおばさんであろ うが、すべては会社のために一生懸命やってくれている従業員なのだ。そうい う気持ちがある限り、いつかは向こうから声をかけてもらえる存在になれるは ずだ。 ●直系子息の後継者は、ある意味誰が見ても後継者なのだが、その立場、地 位、ポジションに胡坐をかいてはいけない。立場はそうだが、実力が備わって いるとは限らない。まして、社内の信用、信頼、尊敬などは、まだまだ時間が かかるだろう。若い感性で、新しい事業に取り組んで、一定の業績や成果が数 字で出れば、誰もが認める存在になる可能性はあるが、失敗続きやうまくいか ないケースでは、周囲の人間は果たしてどう感じているか、分からない。地位 に安住すると、一気にそのツケが出てくる場面に遭遇する可能性が高い。 ●常日頃から、社員とのコミュニケーションをとるように努めることだ。行事 への積極的な参加や、ときにはリーダーシップを発揮して自分が幹事役にな り、汗をかく。いやな仕事を進んで引き受ける。立場柄、わかったような偉そ うな発言は、なるべく控えて、まずは皆の意見を一通り聞いてみる。押しつけ がましく、自分の意見を押し通さない。まずは、各自の希望や意見を拝聴し て、それを斟酌したうえで自分の意見を言えばいい。発言は最後でいい。途中 で頭にくることもあるだろうが、謙虚、謙虚と、3回唱えればいい。まずは YESから入るように心がけることだ。