**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第685回配信分2017年06月12日発行 次世代の後継者が備えるべき能力7回シリーズその5 後継者として認められる結果を出す:その1 〜業績を挙げるための環境づくりを〜 **************************************************** <はじめに> ●後継者だから、子息だから、誰もが次の代表者と認めるとは限らない。従業 員が後継者になるケースもあるが、そういうケースではやはり従業員や幹部と して立派な業績を挙げている場合が多い。そうでないと、後継者と誰もが認め ない。認めないが、後継者として社内に存在するから、従業員は仕方なく認め ている。優秀な社員は、ぼんくらな後継者に交代すると、しばらくして退職し てしまう場合がある。こんなぼんくらな後継者のもとで、馬鹿らしくてやって られない。給料も安い。将来が不安になり、奥さんが転職を勧めると、止まら ない。 ●30歳代の後半でバトンタッチするなら、35歳くらいからは過酷な条件で経験 を積んで、結果を出すように環境を整える。厳しい条件の下で、なかなか以前 は結果が出なかった新規事業、プロジェクト、顧客開拓、新製品開発など、自 社の将来にとって非常に重要なミッションを与える。そして、現在の代表者も フォローしながら、徐々に結果が出るように環境を整える。決して甘えた環境 を作ってはいけない。むしろ、厳しい条件、状態でも、結果が出るように期待 する。資金も潤沢に用意せずに、一定のリミットを提示する。それ以上は出さ ない。 ●ただし、一人では厳しいからサポート役に優秀な社員をつける。後継者とあ まり年齢が違わない世代の、社内でも評判の若手をサポート役に抜擢する。こ の若手社員の教育も兼ねて、厳しい環境を設定し、一定の期間を区切って、求 めるべき結果を提示する。それを、社内全体に公表する。そして、後継者に決 意表明をしてもらって、現業をかなり外して新しいミッションに専念さすよう にする。今までの仕事を持ったままでは、どうしても簡単な現業に逃げ込む。 そうならないように、今までの仕事は思い切って外す方がいい。 <現在の代表者も厳しい環境に身を置く> ●人もつける。カネも一定は確保するが、投資の上限は決める。一番大事なこ とは、ゴールの設定と期間を決める。売上、利益、粗利、キャッシュフローな ど、なるべく分かりやすい目標を設定し、期間を明確に区切る。平成30年の決 算の時点までとか、2019年の年度末とか、合理的な期間を設定し、最終の期待 すべき仕上がりの状態を明確にする。それを、会議などで幹部やリーダークラ スにまで説明し、共有する。とにかく、後継者に逃げ込める場所を作らない。 言い訳をできる材料を与えない。それくらい厳しい環境を用意する。 ●そうしようと思えば、現在の代表者も、現時点で相当厳しい環境に身を置い ていないとできない。自分は楽をしていて、後継者にだけ非常に厳しい環境を 設定するのは、難しい。何が厳しい環境なのかが分からない。後継者が育たな い場合は、現在の代表者にも問題がある場合が多い。それをさておいて、後継 者特に子息、息子の能力不足を嘆いたり、ぼやいたりするのは、自分の教育が 足りなかったという、懺悔をしているのと同じだ。自分の責任を棚に上げて、 他人のせいにすることが多い。そういう経営者の下では、後継者は育たない。 ●現在の代表者に、一定の見識や考えがあると、それに基づいて後継者も育つ ことが多い。現在の経営環境が、たとえ厳しくても一定の見識や考えがあっ て、この苦境をどう乗り切るかという意思があれば、それは後継者に伝わるは ずだ。それがないと、後継者だけに厳しいミッションを課すことは難しい。売 上の低迷、粗利の減少、原価の高騰、管理費の増大、営業利益が赤字など、損 益面の数字は手元で理解しやすい。しかし、資金面では別の減少が起きてい る。在庫の増大、売掛金の増加、借入金の膨張なのだ。このほうが恐い。 <撤退を任すことも教育の一環> ●厳しいミッションを与えるときに、きちんと数字の背景や根拠などを伝え る、教えることは重要だ。現在の経営者に、数字の理解が一定程度ないと、後 継者にその数字の意味が伝わらない。どうしてその売上が必要なのか、利益が 必要なのか、投資の金額はどういう根拠で決まったのか。そういう説明がきち んとできることが、代表者と後継者の意思疎通が図れることの大きな要因にな る。後継者を育てるには、まずは現在の経営者、代表者がさらにレベルアップ しておかないといけない。それが、旧態依然としていると、後継者が育たな い。 ●新規開拓、新製品開発、新しいプロジェクトなど、会社は企業は環境に応じ て変化することが必要だ。意外と環境の変化は、想像したり実感しているよ り、早い。気が付けば、相当に手遅れ。かなり競争相手に置いておかれてい る、という悲惨な状態は、よくある話しだ。経営者がのんびりしている間に、 後継者に厳しいミッションを与えない間に、相当距離が離れてしまった。これ を、相当なスピードで追いかけるのは、非常に厳しい。ならば、新しいことに チャレンジするより、不採算部門の撤収という選択肢もある。 ●新しいことを始めて前に進むより、不採算部門を撤収するほうが難しい。こ の不採算部門の撤収、撤退を後継者に託すもの、ひとつの大きな教育の場にな る。前に進むより、後退することのほうが難しい。戦国時代の合戦に際に、負 け戦になったら大将を真っ先に逃がして、最後を守る役目を「しんがり」とい う。この「しんがり」を務めることは、ほとんど「死」を意味する。自分の身 を賭けて大将を守る。しかし、「しんがり」を務めて無事に帰還したら、ご褒 美や報奨は数倍になるという。豊臣秀吉は、この数倍の報奨で財をなしたとい う。 <現在の代表者が環境整備に注力する> ●撤退、後退の場合は、前に進むより費用がかかる。社員を雇用するのは、ま ず最初の給料で済むが、退職を強要する場合は、解雇予告手当を払わないとい けない。リースで調達した複合機も、撤退する場合はリースの残債を買い取ら ないといけない。いろいろな契約も、ペナルティを払って解約しないといけな い。結婚式は300万円でもできるが、20年経過して子供もいて離婚するとなる と、その数倍はかかるだろう。ことほど左様に、事業の幕引きは厳しいし、辛 いし、過酷だし、やりたくない。それを敢えてやってもらう。 ●撤退の責任者を拝命すると、非常にストレスがたまる。成岡も、出版社時代 に幾多となく事業所の撤退や事業の中止を担当した。四国の高松市で開始した 新規事業だった学習塾の経営状態が思わしくなく、京都の本社から乗り込ん で、撤退の指揮を執った。事業部の責任者とは、ぶつかり、もめて、相当の確 執があった。その奥さんとも面談し、目の前で涙を流して泣かれたことも、幾 多となくあった。それくらい、事業の撤収、撤退には、人間関係の確執がつき まとう。しかし、心を鬼にしてやらないといけないことは、やらないといけな い。 ●撤退の場合は、社長が直接に判断を下し、撤収作業に手を出すとトラブルに なることが多い。最高責任者は、先に逃げて後始末には信頼できる「しんが り」を後継者に託すのがいい。撤収が立派にやれたら、ある意味で新規事業の 開始におけるエネルギーはそう重たく感じないだろう。とにかく、後継者には 教育の場面を多く与えて、過酷な条件を設定し、そのゴールを明確にして、責 任を負ってもらう。それを立派にできるように現在の代表者は環境整備に注力 する。その両方ができて、初めて後継者は立派に育つはずだ。