**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第686回配信分2017年06月19日発行 次世代の後継者が備えるべき能力7回シリーズその6 後継者はもっと自社の業績の内容に関心を持つ 〜数字を検証し内容を掌握する〜 **************************************************** <はじめに> ●いろいろな企業の、いろいろな承継に係ると、本当に状況は千差万別だが、 えてして言えることは後継者が意外と自社の業績に関して、よく承知していな いことだ。会社全体の売り上げ規模は分かっているが、それ以外の数字の情報 に関しては、ほとんど承知していないというのが実態だ。決算書をまともに見 たこともなければ、在庫がいくらあるのかを考えたこともない。銀行との交渉 は、父親の社長が取り仕切っているし、要らないことを言ったら、そんなこと を考える時間があれば、さっさと納品や営業に出かけろと、叱責される。 ●自分の給料はもちろん分かっているが、それ以外の社員の人の給料、賞与な どは承知していない。自分の傍で働いてくれているベテランの女子社員や、昨 年新規に採用された若い社員の給料など、全部社長が決めているから、全く預 り知らない。しかし、実際の現場は自分が仕切っているし、いろいろな業務を 担当している社員も、ほとんど組織上自分の部下になっている。にもかかわら ず、自分が給料や待遇を決めているのでもなく、昇進昇格の相談もほとんどな い。大半、自分が自社に来る前に採用された人が多いと、このような事態にな る。 ●数名は、自分が自社に転籍してから採用された社員だが、それ以外の大半の 社員は父親である現在の社長が採用した社員なのだ。圧倒的に現在の社長の時 代に採用した社員が多い現状では、後継者が人事や組織に口を挟む余地は少な い。現在の代表者からすれば、黙って黙々と仕事をしていればいい、という理 屈になり、つまらない口を挟むより売り上げをどうやって増やすかを考えろ、 ということになる。この状態を打開するには、自分が責任もって採用した社員 が半分を越えないと、非常に難しい。 <後継者が納得いかない数字が多い> ●人の問題でも非常にやっかいなのだが、おカネに関することはもっとやっか いだ。まず、役員報酬は誰が決めているか。決算書の付属明細を見て初めて役 員の誰がいくらもらっているかを知ることになる。よくある、非常勤取締役の 母親に結構多額の報酬が支払われている。それに引き換え、パートではあるが 相当の時間をかけている自分の奥さんが担当している経理部門の仕事には、さ ほどの給料は払われていない。しかし、後継者の奥さんは嫁の立場だから、非 常に言い難い。かくて、おかしいと思ってはいても、そのままになってしま う。 ●借入金が多額になっても、どうしてそんな多額の借入金に膨らんだかの説明 は、一切ない。とにかく赤字が続いたので、運転資金を借りて借りてしている うちに、こんな金額になったのだと説明されても納得できない。自分は言われ た業務を、本当に一生懸命やっている。土曜日も出て来て、黙って黙々とた まった雑用をさばいている。社長は、土曜日、日曜日出てきているのを見たこ ともない。ゴルフに行っているのか、他の遊びに行っているのか、よく分から ない。車は会社のリース車なので、公用しか使えないが、私用で使われている ことが多い。 ●売掛金の中に回収不能の売掛金があったり、在庫の中に死んだ在庫が相当数 ある。それ以外にも、仮払などで相当多額のおカネが出て行っている。いった い、何に仮払がこんなにたくさんの金額が出て行ったのか、いまだに解明され ないし、社長が説明してくれる気配もない。とにかく、手元の現預金が、どん どん目減りしていって月末向いての資金繰りが非常に心配だ。経理の女性の担 当者に聞いても、いっこうに要領を得ない。今まで、幾度となくこのような逼 迫した状態になったと思うが、代表者が月末におカネを持参して、それで凌い だというのが実態だ。 <決算書の本当の中味が分からない> ●決算書が完成しても、特段の説明があるわけでもない。顧問税理士さんは、 決算の近くになると、何回も社長を訪ねて来て、打ち合わせをしている。月末 に決算書ができたようだが、一向に内容の説明がない。銀行に持っていくよう に指示されて、初めて中身を見た。相当な赤字になっている数字が並んでいる が、何が原因でこのような赤字になっているのか、分からない。売上も、そん なに極端に下がっていない。しかし、今年度だけの数字が並んでいるので、昨 年度との比較ができない。去年の決算書の数字までは覚えていない。 ●質問をしようにも、中身がよく分からないので質問もできない。社長に聞い ても要領を得ない答えしか返ってこない。経理担当の女性は、財務というより 出納を担当しているので、決算書の難しい貸借対照表の数字の背景を聞いても 分からない。いったい、誰が社長以外に会社の財務の数字を掌握しているの か。顧問税理士さんは、社長の側近のようだから、社長の意のままに数字を作 成しているように感じられる。赤字がまずいから、黒字にしてくれとか、雑収 入で帳尻を合わせて、最後は見かけ上黒字になっている。 ●そんな決算を数年、数回経過すると、もう会社の中味を表す数字の信憑性が ない。毎月の試算表も、途中経過なので、減価償却が入っていなかったり、費 用が仮払になっていたり、在庫の棚卸を実地でしていないから、本当に何が正 しい数字なのか、分からない。唯一正しいのは、手元の現預金と思いきや、そ れはあくまでも差引した計算上の現預金であり、実際の現預金の実態とはかけ 離れている。本当は、これくらい現金があるはずなのに、手元ではない。おか しい、おかしいと思っていても、原因が分からない。 <特段の注意と関心を持つ> ●いろいろな周辺の知恵者に相談できればいいが、これが中小企業や零細企業 の場合は、ほとんどない。かくて、決算書が仕上がったときは、結構それに集 中しているが、10日くらい経過すると、もう過去の話しで目先の業績に集中せ ざるを得ない。03月末の企業なら、05月末に決算書が仕上がり、手元に来るの は06月の上旬だ。それをコピーして、数字を入力して、昨年との比較をして、 分析して・・・、などと作業をする時間がない。なので、机の上に決算書の写 しが置いてあっても、最後の最後は引き出しに閉まって終わりになる。 ●関心がないわけではないが、この年間だけの数字を漫然と眺めていても、何 も分からない。そのうちに、テンションが下がり、他のことに注意が行くと、 もう数字のことは頭から離れてしまう。そのころに、金融機関に決算書の説明 に出向くことになる。急ごしらえの税理士さんからのレクチャーを受けても、 予備知識と基礎知識が少ないから、内容はよく分からない。適当に誤魔化した 説明の講義を受けて、社長のお供で銀行に出向く。支店長や次長、担当者にし どろもどろで社長が説明して、とにかく赤字の決算のつじつま合わせをして、 その場を切り抜ける。 ●業績が芳しくなく、もたもたしている企業にはこのような状態で経過してい るケースが多い。このような企業の後継者は、このまま会社の経営を引き継ぐ となると、大変なことになる。何が大変だと言えば、仕入先、得意先を引き継 ぐのは勿論のこと、資産と負債も引き継ぐ。売上は毎年、毎年立てては回収 し、時間の経過と共に進行するが、不良資産は会社の奥のほうにずっと保存、 保管されて、誰もそれを処理しない。その賞味期限が切れた資産や、大きな債 務も当然引き継ぐことになる。その時点になってからでは遅い。今から、重大 な関心をもって、注意してウォッチしておく。