**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第688回配信分2017年07月03日発行 円滑な事業承継に向けて7回シリーズ第1回 渡す側が心がける大事なこと:その1 〜事業の価値を高めることが円滑な承継につながる〜 **************************************************** <はじめに> ●渡す側も、渡される側も、事業承継は非常に機微な問題が多く含まれるの で、なかなか一筋縄ではいかない。特に、渡す側の現在の代表者が心がけるこ とは、非常に多くある。意外と無関心な方が多いが、実は大きな問題のひとつ に借入金の保証の問題がある。特に、代表者がされている個人保証を金融機関 が次の後継者の方にも要求する場合がある。これが大きな問題となり、土壇場 で後継者の方が保証を拒み、承継が不調に終わったケースも多い。この問題が こじれると、非常に面倒でやっかいなことになる。早めの対応が必要だ。 ●事業価値を高め、収益性を向上させ、借入金の個人保証を外すように心がけ ておかないと、なかなか急に外すように要請しても難しい。最近では、金融庁 の指導のもとに、各金融機関へ中小企業の代表者の保証を外すガイドラインも 公表されている。結構ご存じない方もあり、これならうちは外すことは可能だ と、おっしゃる経営者の方も多い。知っておくことは損はないので、いま一度 整理して自社がそれに該当するのか、しないのか。どうすれば、少しでも条件 を満たすことに近づくのか、検討し努力しておく必要がある。 ●大きくは、次の3つがガイドラインに記載されている。まず、おカネの公私 混同をなくすこと。2つ目に業績をよくすること。3つ目に情報開示ができて いること。表現はいろいろだが、要約するとこの3つになる。おカネの公私混 同を避けることは、企業倫理面からも当然なのだが、意外と中小企業の代表者 の方は会社も家も個人も、全部ごちゃまぜで一緒になっているケースが多い。 かまどの灰まで自分のものだと主張してやまない経営者がいらっしゃるくらい だから、推して知るべし。レジの中の現金をそのまま出して、私生活の費用に 充てる経営者もいらっしゃる。 <責任を取るのはトップしかいない> ●今回のテーマでは、2番目の業績を限りなくよくすること。借入金を減ら し、収益性を向上させて、資産と負債のバランスをとること。この業績をよく することは、なかなか簡単なことではない。一時的によくなっても、それが継 続するとは限らない。よく、何年間増収増益という企業がたまにあるが、これ は驚異的なことだ。企業経営とは環境の変化にいかに適応するかということ で、環境の変化は突然やってくることも多いので、毎年毎年増収で売上が増加 し、増益で利益が増えるというのは、非常に難しい。 ●そして会社経営をしていると、想定外の思いもかけないできごとも起こる。 信頼信用していた得意先、仕入先が突然の事業閉鎖。あてにしていた従業員の 突然の退職。品質の異常発生や顧客とのトラブルなど、枚挙にいとまない。そ れくらい、経営とは変化が激しくこれに柔軟に対応しようと思えば、本当に神 経をすり減らし、毎日毎日緊張感満載で切り抜けないといけない。社長業は、 やってみれば本当にやりがいのある職業だが、その反面責任も半端ではない。 とにかく、会社で何かあれば責任を取るのはトップしかいないから。 ●そんな中で継続して業績を向上さすのは、非常に難しい。運も味方しないと いけないし、従業員も頑張って努力してくれないといけない。努力してくれる ように、環境を整備し報酬もきちんと払い、設備も新しくし顧客の無理難題に 答えないといけない。目先のことも大事だが、来年、再来年以降の近未来のこ とも常に考えておかないと、急に未来をどうすると言われても返答に窮する。 しかし、中小企業で近未来のことを考えているのは、社長以外にはまずありえ ない。みんな、足下の緊急な案件に対応していないといけない。 <運転資金の借入は理由を明確に> ●業績の見方も、会社側と金融機関側では大きく異なる。売上と利益もさるこ とながら、資産と負債のバランスも大事だ。当然、純資産がどれくらいなのか も、重要な指標だが、あまり経営者の方はこの資産と負債のバランスに関心が ない。貸借対照表は難しいから、さっとページをめくって次の売上と利益の数 字に目が行ってしまう。実は、借入金に関することは損益計算書には、支払金 利という形でしか掲載されず、返済金額はほとんど数字では反映されない。し かし、返済が重たいと、みるみるキャッシュが減っていく。慌てて追加の借入 を頼むことになる。 ●しかし金融機関は、よく中身を見ているので、そう簡単にカネがないからと いって、追加の融資には応じてくれない。いや、貸したいのはやまやまだが、 貸せる中身にしておいてもらわないといけない。設備投資で長期の資金が必要 だというなら、使用目的も明確でそんなに無理はないが、運転資金が足りない というのは、よほど特段の事情があるとしか思えない。通常の商売のサイクル で回っていれば、当然目先の運転資金は確保できていないと、おかしい。それ が足りないというのは、びっくりするくらい大口の受注があるときだけだろ う。 ●借入金を一方的に減らすのがいいとは限らないが、やはり大事なのは自社の いまの体力との相談だ。売上が減少し、運転資金が手詰まりになってきている なら、何らかの対策が必須だ。しかし、カネが足りないからといって、それを 理由に運転資金を単に借り入れるのは、やはりあまりよくない。何が原因なの か、売上が下がっている理由は何か、どこに問題があるのか、対策は可能か、 などいろいろな要因を検討し、仮説を立てて検証し、それからアクションを起 こさないといけない。そういう場面に、社長と後継者が同じ方向に向き合って 話し合いをする。検討する時間と機会を設定する。本音で会話し、将来の会社 のあるべき姿を討議する。そこに、幹部社員も同席すればいい。 <まずは自分で手を動かす> ●このような場面、機会は絶好の後継者教育の場になる。机上のお勉強ではな く、実践の貴重な機会になる。この場面で、どのように経営者は判断し、どの ような対策を打つのか。その理由、手段、段取り、背景など、後継者にとって はまたとない、いい勉強の機会になる。また、代表者はきちんと後継者と向き 合って、自分の考えを述べ、自分の見解を表明し、自分なりの方針を示さない といけない。しかし、多くの現在の代表者はそういう場を設定することすら、 避けようとする。まともに後継者と向き合って、目を見て話しをしない。 ●経営とは、このような実戦の場でしか経験を積むことはできない。いくらビ ジネススクールで高邁な理論を学んでも、実戦で活用しないと何の役にも立た ない。スポーツで練習を一生懸命したとしても、試合で結果を出さないと意味 がない。そういう意味では、このような特に経営が厳しい環境での対策の検討 は、非常に重要な場面になる。業績が順風満帆なときは、あまり役には立たな い。誰がやってもうまくいくときは、あまり勉強にならない。やはり、厳しい 局面、難しい状態をいかに切り抜けてきたかが、生きた教材になる。 ●まずは、自社の経営状態を素直に棚卸し、認識をすることから始まる。この 正確な現状認識が、意外と難しい。会社の中に、実態をきちんと表す数字の資 料が、実はあまりない。試算表や決算書を漫然と眺めていても、何も分からな い。自分なりにいろいろと数字を加工したり、抜き出したり、分解したりし て、初めて実感として自社の課題が見えてくる。税理士さんや経理担当者が作 成した他人からもらった数字は、ぴんと来ない。自分自身で手を動かして、汗 をかいて、初めて自社の実態が見えてくる。まず、自分で行動することだ。社 長のデスクでじっとしていては、見えてこない。