**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第691回配信分2017年07月24日発行 円滑な事業承継に向けて7回シリーズ第4 渡す側が心がける大事なこと:その4 〜会議や人事に関しての決めごと〜 **************************************************** <はじめに> ●後継者に承継したあと、どのように会社の仕事に関わるかは、結構悩ましい 課題だ。急に完全に退いてしまうわけにはいかないから、その関わり方を承継 者と事前に決めておかないといけない。承継してから、さあどうしようという のは、いかなことまずい。望むべくは、毎月の定期的な重要な会議に出席する かどうか。まず、これを決めておく。幹部会議、課長会議、部長会議、などな ど名称はさまざまだろうが、まず会社で最も重要と思われる意思決定の会議に 参加するか否か。これを決めておくことが、一番大事だ。 ●仮に参加するなら、どういう立場で、どういう風に参加するかも、決めてお かないといけない。これも、希望としては参加すれども発言せずが好ましい。 辛抱、我慢が要るだろうが、じっと黙って聞いていて、発言は控える。当面、 前社長に向けて参加者が発現したり、質問したりすることもあるだろうが、決 して発言しない方がいい。船頭が二人いると、船は迷走する。我慢が要るが、 ここは新しい社長に舵取りを任せたのだから、任せたら任さないといけない。 発言しないと参加しても意味がないと思われるだろうが、参加することに意味 がある。 ●そして、発言しない代わりに、会議が終わった後、必ず新社長と二人きりに なる時間を設ける。そこで、二人きりになったときに、自分が会議に参加して 思ったこと、言いたかったこと、発言したかったことを、新社長に懇切的寧に 伝える。そして、どうしてそう思ったのかも、理由が大事なので、きちんと説 明する。その意味、背景、理由などをきちんと伝える。新社長は、正対して聞 く。これを、会議が終わったごとに繰り返す。この儀式をやらないと、本当の 教育にならない。必ず習慣化して行えば、非常に有効な教育の場になる。 <どの会議に出るのかを決める> ●発言しないなら、会議に出ないという方もあるだろうが、やはり会議の雰囲 気、空気、参加者の顔色などは、重要な経営的な情報だ。誰が、どのように発 言したかは、その場にいないと分からない。後で、議事録を読めばいいという 解釈もあるが、議事録は発言の要約であり、抜粋なので、いまいち真意が伝わ らない。やはり、現地、現物、現場が大事なので、参加することには意義があ る。参加者も、前社長が参加出席するなら、緊張感も違う。ぴんと張り詰めた 空気になるはずだ。また、そうでないと、おかしい。 ●そして、参加者には前社長は参加するが、発言はしないと、事前に通告す る。そして、これを継続し、仮に自分が参加しないでも大丈夫と判断できたな ら、次第に参加する回数を減らしていく。ただし、参加しない場合でも、必ず 翌日には社長が会長を訪問し、議事録と会議の資料を持参し、要点や重要な決 定事項を説明する。了承や承諾は必要ないが、報告はしないといけない。でき れば、会議の資料は事前に届けて、目を通してもらっておいたほうがいい。そ の場で読んで説明するのは難しい。お互いに、努力が必要だ。 ●仮に、毎月の重要な会議に参加しないら、しかし、どの会議には参加するか は、決めておく。年に1回の取締役会や株主総会などは、必ず参加する。しか し、小規模な株式会社では、決算の取締役会、株主総会などは開催していない ケースも多い。新社長の勉強のためにも、決算書が出来上がる前に、顧問税理 士さんを交えて、決算の重要なポイントは役員で共有すべきだ。決算書が出来 上がった段階で、いまさらここをどうする、こうするというのは本末転倒だ。 決算月の試算表が、ほぼ確定に近い段階で、役員だけで協議する場を設ける。 <人事権は後継者に全部渡す> ●次に関わり方で重要なのは、人の問題だ。具体的には、新規の採用、高齢者 の退職、昇進昇格、昇給賞与などの場面でどうするかだ。経験的に申し上げる と、新社長になってから新社長が新しく採用した社員が増えるにつれて、新社 長の発言と影響力が増してくる。社長が若い新社長に代わっても、幹部が前社 長が採用し、永年一緒にやってきたメンバーなら、なかなか新社長の意向が反 映しない。取締役に、新社長と同年齢、もしくは以下の年齢の方が昇進され て、初めてなんとなく新社長時代がやってきたのかな、と感じるものだ。 ●特に、高齢者の継続雇用、嘱託期間の延長更新など、とかく中小企業ではこ ういう人的な問題で、新社長と前社長がぶつかるケースが多い。高齢の社員が 多い職場では、前社長との人間関係で雇用を延長、更新しているケースも多 く、当事者は新社長になったら、自分の雇用はどうなるのだろうと、戦々恐々 としているケースも多いだろう。ことは、一人の雇用の継続案件に留まらな い。その人の処遇を新社長がどうするのかは、全員が注目して見ているはず だ。ゆめゆめ、思い付きで人の処遇を決めてはいけない。慎重に判断する。 ●昇進昇格、昇給賞与に関しても、よく意見が対立する。現場を見ている感覚 が、前社長と新社長とでは異なるから、どうしても誰を昇格さすか、誰の賞与 をどうするかで、よく揉めているケースを見てきた。ここは、割り切って新社 長に全面的に人事権を渡すべきだ。会社の運営で、一番重要なことは、おカネ とヒトのことだ。人事権を誰が握っているか、持っているか、裁量権があるか は、衆目の注視しているところだ。明快に、人事に関しては新社長に全権を委 任すると宣言した方がいい。社内でこれが一番揉める原因になることが多い。 <自分の処遇報酬も決めておく> ●最後に、自分の退職金をどうするか。自分の社長職を退いたあとの処遇を、 どうしてもらうかを、よく考えておく。そのときの会社の業績にもよるし、株 式を持ち株割合や、株式をどれくらいいくらでどのように移管するかにも関係 する。株式の譲渡のおカネを退職金相当と考える方もあれば、これはこれ、退 職金は退職金と割り切る方もある。これは、ケースバイケースで定番の解決方 法はない。しかし、言えることは急に検討しても難しい課題なのだ。承継をす ると決めた時点から、自分自身の身の振り方の問題だから、よく考えておく。 ●社長職を譲って会長職になり、社業と距離を置ける立場になり、業界団体の 別の役職に就かれて、そこから多少なりと収入があるなら、それも入れて全体 で処遇を考えてもらえばいい。あるいは、年齢の高い方なら年金があるはず だ。日本の年金制度では、年金受給者で会社からの報酬が多いと、年金が減額 される仕組みになっている。これも、おかしいと思うが制度がそうなっている 以上、ここで文句を言っても仕方ない。制度の範囲内で、何が一番ベストの選 択かを、事前に十分検討しておく。専門家にも相談されるといい。 ●とにかく、会議への参加、人事権の問題、自身の処遇など、これ以外にも重 要なことはいっぱいあるが、とにかく事前に、事前に十分検討しておくこと だ。その時間も必要だ。場合によっては、前社長の奥様が取締役という場合も 多い。実質的に経営に関与していたのか、非常勤で名目だけの役員だったのか で、全然違ってくる。そういう複雑な事情も、全部踏まえて自分で決めないと いけない。迷ったら、友人や専門家に相談されるのもいい。自分だけで悩むよ り、外部の意見も重要だ。決めたら、新社長に伝えて、相互に理解を得る。こ の重要なプロセスをないがしろにしてはいけない。