**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第701回配信分2017年10月02日発行 円滑な事業引継ぎに向けて7回シリーズ第6回 事業を譲渡する側が心がけること:その6 〜借入金の個人保証を残さない〜 **************************************************** <はじめに> ●次世代にバトンタッチする場合に、非常にネックになるのが、今回のテーマ の借入金の個人保証の問題だ。この個人保証が障害になり、土壇場で崩れた案 件が、実は山ほどある。一番衝撃的だったのは、金融機関の応接室でこの個人 保証を後継者の長男が明確に拒否した。その場まで説明し、納得を得ていな かった代表者もうかつだが、土壇場の面談の席で、きっぱりと後継者の長男が 拒否した。自分が受け継ぐ際に、これだけの負債の保証をするのは、到底納得 できないと開き直った。ごもっともなことでもあり、結局この承継案件は破談 になった。 ●有利子負債の個人保証とは、いわずもがな借入金を代表者が個人として保証 をするものだ。個人で保証するから、万が一に会社が破産した際には個人で保 証しているから、個人の財産は原則すべて債権者のものになる。一定の生活を 保つための財産や年金は保全されるが、それ以外はすべて債権者のものにな る。このペナルティが非常に重たいので、どうしても個人保証をすることにな ると、腰が引ける。上段に掲載した事例でも、たとえ長男とはいえ親父の作っ た借金の保証を個人でするとなると、非常に抵抗がある。当然だ。 ●その有利子負債がどうしてそんなに多額になったかも、、問題だ。会社を発 展成長さすための原動力としての設備投資の借入なら、まだわかる。多額の設 備投資を思い切って行い。直後に世間が大きくトレンドが変わってしまうこと も多い。期待した収益が上がらず、新規投資の設備償却費が嵩張って、赤字に なった。その赤字が努力しても、努力してもなかなか解消できない。仕方ない から運転資金を借り入れて、なかなか返済が進まない。こういうケースならま だわかる。実際に投資した機械もあるし、挽回の可能性もある。 <代表権と個人保証も関連する> ●やっかいなのは、保証している借入金がほとんど運転資金の借入で、どうも 代表者の運営、経営がうまくいっていないので、借入金が減らない。担保価値 のある会社の資産も少なく、やむを得ず代表者の個人保証を求められる。こう いうケースの個人保証を、後継者に引き継ぐとなると、非常にハードルが高 い。長男の後継者といえども、個人の生活もあるから個人保証を引き受けるか どうかは、大きな問題だ。特に、結婚して子供がいる場合は、後継者の奥さん も発言権がある。奥さんが納得しないという場合も多い。 ●この個人保証の問題には、代表権を持つか持たないかという課題も関連して くる。個人保証を拒否する場合、代表権を後継者に付与しない場合も多い。そ のまま承継して社長になっても、代表権のつかない社長、つまり取締役社長と いう肩書の方も、結構いらっしゃる。名刺交換をして、そういう場合は敢えて その理由を聞かないが、ほとんどの場合代表権のない社長なら、この個人保証 の問題があって代表権を付けていない場合が多い。どちらかというと、後ろ向 きの理由だから、敢えて聞かないようにしているが、世間では結構多くある事 例だ。 ●連帯保証がついている場合などは、もっと複雑になる。成岡も、同族一族の 会社で取締役をしていた際に、個人保証をしてくれと依頼を受けたことがあ る。そのときは、特定の借入金の部分保証であり、連帯保証ではなかった。い ろいろな複雑な事情があり、やむを得ず引き受けたが、その際に自宅も担保物 件として提供した。結局会社は、後に破産となり保証した銀行債権者から残債 の返済を求められた。とても個人で返せるような金額ではなかったので、開き 直って返済を拒否した。担保になっていた自宅は競売になったが、買い手がつ かなかった。 <個人保証を外すガイドライン> ●この不良債権は、後日金額を相当値切って支払ってケリをつけることにな り、自宅の権利書が戻ってきたときは嬉しかったというより、ほっとした。そ れくらい、この個人保証をする、しないの問題は、身内であるがゆえに非常に 重たい課題になる。ご子息が同居して、奥さんも一緒に両親と暮らし、個人生 活と会社の生活が一体になっているような個人事業主的な企業なら、まあ仕方 ないかという結論になるかもしれない。しかし、別居してご子息が会社に戻っ たときに、父親の代表者が作った借入が多額になる場合、保証のハンコをつき たくない気持ちも分かる。 ●つまりは、業績を良くして借入の個人保証をなるべくしないような財務状態 にしておかないといけないということだ。最近は、金融機関も個人保証をなる べく外すように金融庁から指導を受けている。借換えのときなどに個人保証を 順次外していくケースもある。しかし、前提として業績が順調で、金融機関が 個人保証を外しても問題ないと判断しないといけない。一定の定量的なルール があるわけではないが、やはり前提としてはいくつかのガイドラインがある。 それを満たせば、要求すれば金融機関も柔軟に応じてくれるようにはなった。 ●ガイドラインとは数年前に金融庁が示したもので、(1)個人と企業とのお カネがきちんと区分されていること (2)業績が順調なこと (3)情報が 定期的に正確に開示されていること この3つが原則だ。(1)に関しては個 人的な費用を会社で負担していないかなどという細かいことより、代表者に使 途不明の貸付金があったり、多額の仮払金が長期間精算されていないなど、不 透明なおカネが代表者に流れているようなケースを指す。個人で所有する土地 の固定資産税が払えないから、会社から払って貸付金にしているケースなど だ。 <個人保証を外すにも時間がかかる> ●(2)と(3)に関しては特に説明を要しないが、とにかく外部の利害関係 者に情報を定期的に正確に開示し、少しでも業績を改善しようとしているか。 特に、収益力があるか、事業の価値はあるか、などは昨今金融機関も相当厳し くチェックする。最近公開されたローカルベンチマークなどは、その判断の指 標として活用するために、金融庁がガイドラインとして定めたものだ。そうい うことを踏まえて、代表者は後継者に事業を渡す際に、この個人保証を極力な くすように、常日頃から心がけないといけない。 ●同族一族にしかるべく後継者がいて、事業を承継する意思もあり、条件は 揃っているのに、事業価値がない、あるいは事業価値が極めて毀損していて、 今後の成長が望めない。そういう事業の場合、後継者がいらしゃっても事業を 次世代に承継するのが難しい。まして、30年後には人口減少が激しく、日本の 総人口が激減する可能性がある。そんな経営環境で、借入金をそのままに個人 保証も付けて次世代に承継すること自体が正しいか?という疑問がある。次の 経営者が担当する今後の30年。2050年くらいまでの時代が読めるか。 ●毎回同じことを書いているが、個人保証を外すにしても相当の時間がかか る。今日申ししれたから、明日に外れるわけではない。まして、借入金が多額 で年商に匹敵するくらいの借入がある場合は、なかなか難しい。時間がかかる 以前の問題だ。何年先に承継するかを設定し、それに向けて周到に準備を始め ないといけない。数年先と言っても、その間に何が起こるか分からない。起 こってから慌てても遅い。転ばぬ先の杖ではないが、いつも準備ができている かどうかだ。朝鮮半島で有事が起こらないとも限らない。