**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第708回配信分2017年11月20日発行 円滑な事業引継ぎに向けて7回シリーズ第6回 事業主の周囲の人が心がけること:その6 〜得意先や仕入先との引継ぎに気を配る〜 **************************************************** <はじめに> ●借入金が多くなくて、資金繰りが順調な企業でも、仕入先、得意先を次世代 にうまく引き継ぐのは容易ではない。中小企業では、そのほとんどの付き合い のある企業が、何らかの形で代表者やその周辺の一族同族の方とつながってい る場合が多い。いや、現在はそうでなくても、以前のとっかかりは創業者との 個人的な付き合いから始まっていることが多い。先代と永く懇意にさせていた だいたという企業とのお付き合いも多い。特に、老舗企業の多い京都では、こ のような人的な付き合いから取引が始まっているケースが多い。 ●特に日常何もなければ、その得意先や仕入れ先は後継者の代になっても継続 されるのだろうが、社会環境も変化するし、相手側の企業もいろいろな事情が 発生する。相手側の企業も、同様に事業承継が行われ、先代社長から若社長に 承継される場合もある。当方はまだ70歳に近い現在の代表者で、先方は若社長 に交代すると、世代間ギャップが著しく、会話が成り立たない。こちらも早く 次世代の後継者にバトンタッチしないといけないと、自覚を促されることもあ る。これが遅れると、先方の若社長が今までと違う意思決定をすることもあ る。 ●京都のビジネスは、一度お付き合いができた企業との関係を非常に重要視す る土地柄だ。東京や海外の企業のように、コストと品質がよければ従来の付き 合いがほとんどない企業でも、立派に新しくビジネスの関係が成り立つことが ある。ところが、京都という土地柄は比較的そういうことが少ない。少々コス トが高くても、先代からのずっと続くお付き合いを大事にする。安いから、早 いからといって簡単に取引関係を崩さない。そう思っていたら、昨今の若い経 営者の方は非常にドライな方もある。あっという間に新しい取引関係を他で築 いて、従来の関係に終焉が来る。 <同行して現場を確認する> ●現在の代表者は、よほどその辺を注意して日ごろから気配り、目配りをして おかないといけない。特に、大口得意先を従業員や役員に任しぱなしにしてい ると、日常の動きがなかなか把握できない。業務日報を読めばわかるというも のではない。日報には、微妙なニュアンス、機微なやりとりは完全には記載さ れていない。そこから読み取るのも、なかなか億劫だ。やはり、疑問を感じた ら本人を呼んで、詳しく中味を問いただすことが必要だ。しかし、双方が動い ていると、なかなか時間が合わない。かくて、後手後手に回って、気が付けば 遅かったということになりかねない。 ●毎週、毎月の会議でもいろいろな報告がなされるが、その発言から真意を聞 き取るのも、相当苦労する。会議の席では、常識的な発言しかなかなか聞かれ ない。本音で話しせよというが、なかなか多くの関係者が集まった席上で、出 席者が代表者を目の前にして本音で話しをするのは難しい。入り口のところで 終わってしまう可能性が高い。アンテナを高くして、微妙な表現や発言を嗅ぎ 分け、触覚、嗅覚、視覚、触覚をフルに動員して、異常な兆候や症状をキャッ チしようとする。そんなことを継続していたら、くたびれて本業に身が入らな い。 ●やはり現場を把握するのには、同行して先方に一緒に行くのがいい。それを いやがる担当者がいれば、それは何かあるのかな?と考えた方がいい。年末年 始やイベントの開催時期などに、たまには同行して一緒に出掛けてみる。行っ てみると、いろいろなことがわかる。新しい機械が入っていたり、事務所のレ イアウトが変わっていたり、新しい女子社員が働いていたり。そういう変化を 微妙に嗅ぎ取り、今までと何か変わったことがないかと、いろいろと思案して みる。このままで大丈夫かと。何か打つ手はないかと。 <引継ぎ担当者を決める> ●現在の代表者や古手の役員が担当している取引先、特に得意先を徐々に後継 者や後継者の周辺の次世代にバトンタッチしないといけない。徐々に次世代の 担当者に引き継ぐには、まず誰に引き継ぐのかを決める。これは、相当慎重に 考えないといけない。相性の問題もある。能力の問題もある。いろいろな要素 を加味して、慎重に判断する。決まったら、本人に申し渡して、その理由も明 快に伝える。いついつから、どういう方法で引き継ぐのかも相談して、社内に も広報する。そして、同行して先方にも紹介しないといけない。 ●社内的には、引き継ぐ担当者に過去のいきさつ、経過、取引の内容、条件な ど子細を説明しないといけない。簡単なら問題ないが、意外と例外もあった り、通常のルールから外れた条件で取引している場合もある。掛け率は社内 ルールになっているが、歩引きやバックマージンなどは、帳簿外で別の勘定科 目になっている場合もあり、表面的な伝票を見ているだけでは分からない場合 もある。まずい場合は、現在の担当者がなかなか本当のことを言わない場合も ある。ビジネス上の付き合い以外の接触も引き継いでおかないといけない。 ●ビジネスの基本は人的関係だから、微妙な人間関係や先方企業の内情も関係 する。本来、担当者が変わっても同じようにビジネスの関係がつながっていか ないといけないのだが、どうしても代表者や古参役員が担当してた得意先を完 全に同じように引き継ぐのは難しい場合が多い。その取引高が少ないなら、最 悪売上が減少しても仕方ないが、会社に大きな影響を与える場合は、そんな悠 長なことを言ってる場合ではない。仮に、徐々にその取引がなくなっていった としたらどうなるのかも、慎重にシュミレーションしておく必要がある。 <最後は割り切る> ●現在の代表者や古参役員が担当している得意先を離したくない気持ちも分か らないではない。過去からずっと担当し、会社が苦しい時代を支えて来た。今 まで多くの出来事があり、その歴史は自分の会社での歴史に重なる。苦労も し、努力もし、夜遅くまで走り回って何とか創業時代の苦しい時期を頑張って 乗り切った。次の担当者に、はいそうですかと、簡単に渡したくない愛着もあ る。その得意先を完全に渡してしまうと、自分の引退時期が早まる可能性があ る。そのあと、自分は一体どういう風にこの企業でやっていけばいいのだろう か。 ●真面目に、一途にやってきた人ほど、この空虚な時間には耐え難い。若い時 代から40年近く、とにかく後ろを見ないで走ってきた。資金繰りが苦しい時代 も長かった。言葉に出せない苦労を重ねて、ようやく最近では経営が安定して きた。そんな大事な得意先を、簡単に次の担当者に引き継いで、今までと同じ かそれ以上に数字を伸ばしてもらわないといけない。どこか不安で心配があ る。彼が自分と同じようにやってくれるとは、到底思えない。しかし、いつか は引き継がないといけない。なかなか決心できないまま、時間が経過する。 ●成岡も、過去何回も異動や転勤などを繰り返してきた。会社も通算で4回転 職した。東京への単身赴任も、3回経験している。延べで10年間くらいの東京 暮らしも経験した。その都度、得意先や担当相手先の引継ぎを行ってきた。も う、これは割り切るしかない。その都度、未練がなかったというと、確かに別 れ難い得意先や関係先もあった。しかし、それにこだわっていては前に進まな い。割り切りが必要だ。そして、次の絵は自分が描くしかない。未練を持たず 嗣、すぱっと割り切る勇気が要る。そして、過去は忘れて、次のビジョンを掲 げればいい。