**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第711回配信分2017年12月11日発行 これからの中小企業経営の重要課題 少子化高齢化への対応を考える7回シリーズ:第2回 〜機械化する作業と人間がやる仕事の切り分け〜 **************************************************** <はじめに> ●一昨年くらいから社会的にAI(人工知能)が普及することで、将来なくなる 仕事の一覧表が発表されたことがあった。確か野村総研とどこかの企業が組ん だ研究成果だったと記憶しているが、その結果に衝撃を受けられた方も多かっ たと思う。つまり、繰り返し行われる定型的な作業は、将来AIが高度に進化す ると、AIに置き換わられる可能性が高い仕事が結構多いということだ。作業的 な要素が強く、同じようなパターンを繰り返し一定の間隔で行うような作業 だ。会社の仕事で言うと、経理業務、営業事務業務などはその典型だろう。 ●特に企業の内部業務で言えば、経理作業や月次決算、試算表の作成などの経 理財務業務は、早晩高度に発達したAI内蔵のコンピューターに置き換えられる 可能性が高いという。なんとなく、イメージはなるほどそうなんだと納得、合 点がいく。あるいは、工場内部の現場作業で、繰り返し行われる単調な作業 は、ロボットか機械がやれば、人間がやるよりもっと効率的で早く、かつ正確 に行ってくれる。昨今、各地で建設が進む物流ロジスティックの世界では、こ のような作業は全部コンピューターが判断して行う。 ●成岡もAmazonでよく物を買うが、気が付いたことは小さな商品をオーダーし たときも、結構大きな段ボールの箱に入ってやってくる。どうしてこんな小さ な商品の発送に、こんな大きな段ボールが必要なんだ、無駄じゃないかと思っ たが、実は小さな商品でもこれくらいのサイズの箱に入れないと、自動識別 レーンを流すときにバーコードを機械が読み取れないし、レーンの切り替えの 際にうまく流れないのだという。なるほど、いろいろなものは全部機械に合わ せて設計されている。こういう自動化をするなら、周辺もすべてそれに合わせ て整える。 <まだ機械ができない作業もある> ●最近は製造現場にロボットを導入するのは当たり前。ほとんど全部無人化さ れた工場で、黙々と24時間365日稼働する光景を見ると、今後はどのようにな るだろうかと、少々お寒く感じるのは、自分一人ではないだろう。しかし、現 実にはまだロボットでは難しい作業も残っている。意外なことに、少し形状の 異なるものを同じようにロボットの手が摘まんで、それを左右に移動させて所 定の位置に置くという作業は意外と難しい。まず、毎回異なる形状や重さのあ る商品を手に摘まむという工程は、ロボットメーカーでは凌を削っている。 ●CVSなどで販売されているお弁当などでは、具材の大きさや形状がそれぞれ 少しずつ異なる。ハンバーグも、ニンジンの切り身も、ブロッコリーも少しず つ全部形状と重さが異なる。それを所定の位置に正確に置くには、少々技術が 要る。レトルトカレーに入れる具材も、少しずつ形状と重量が異なる。肉、野 菜などはカットして入荷するが、カットした時点で形状と重さが揃っていな い。人間なら一緒にして重量を測り、足りないときは調整できる。そういう微 妙な調節は、機械でもできなことはないが、例外が発生するとスピードが格段 に落ちる。 ●要するに微妙なさじ加減を判断することが難しい。しかも、製造業の工程は 一定の速度で流れている。ある部分で例外が起こり、所定の速度で工程が流れ ないと、システム全体のスピードが落ちる。ある工程でスピードが落ちると、 それが律速になり、全体のスピードが落ちて、最終工程で大きな支障が生じ る。トヨタのように、どこかの工程でトラブルが起こると、そこにランプが点 灯して上級職の助っ人が飛んでカバーに入る。やはり、機械と人間がうまくコ ミットして、全体の流れを調整しないと、完全にロボットだけでは難しい。 <過去から未来を推測するのは難しい> ●人生100年時代の構想を唱えるロンドン・ビジネススクールのリンダ・グ ラットン教授は、人生100年時代の到来に備えて、人工知能の進化によって自 分の仕事がなくなると不安を感じている人が多くなっている事実を踏まえて、 「どういう仕事が代替され、どういう仕事が残るのかを説明し、将来の自社の ビジョンを提示することが経営者の務め」と講演している。確かに、コン ピューターやITの発達で大容量のデータを瞬時に判断して正解を見つける技術 は高度に進歩した。しかし、それで我々の生活が豊かになったかというと、必 ずしもそうではない。 ●経理や財務の数字を入力したり、そこからいろいろな経営情報を引き出すシ ステムは既に今まで多くの企業で活用されている。しかし、指標がいくら出て 来ても、それを経営的に判断し、意思決定し、実行するのは、これは人間がや る仕事だ。同様に、作業的な部分は機械に任すとして判断の伴う仕事はAIでは 難しい。特に、例外的な事項が多かったり、相手によって条件を変更したり、 それこそ「斟酌」したりしないといけない。データに色をつけて識別し、優先 順位を変えないといけない場合もある。 ●データは過去のものであり、過去から判断するのも間違いではない。しか し、我々は過去の実績も考慮しつつ、未来のイメージを仮説として考えること が仕事だ。未来は不確定な要因が多い。政治、経済、国際、社会、環境、海外 事情など多くの情報を集め、取捨選択し、優先順位をつけ、、そこから未来を 描かないといけない。これには、相当恣意的な要素が多くなる。経営者の得手 不得手、好き嫌いも関連する。過去の苦い経験に基づき、絶対にこれだけはや らない、しない、見ない、などを決めている経営者もある。その逆もある。 <緊急な仕事より重要な仕事を> ●金融機関は過去しか見ないが、経営は過去を踏まえつつ、3年後、5年後の 未来の絵を描かないといけない。その際に、どういう仕事は機械化し、どうい う仕事は人間が行う仕事として切り分けるのか。それを明確にするのが経営者 のミッションだ。一般的には付加価値が高く、代替手法のない業務が残る。付 加価値が高いとは外部に払うカネが少なく、代替手法とは他の方法でも可能で あれば、それが唯一無二にならないということだ。つまり、その企業その部署 その人でしかできない付加価値の高いものは、機械にとって置き換わらない。 ●もっといえば、代表者そのものがとって置き換わることができない存在でな いといけない。後継者に交代するのは世代交代であり、組織の若返りという意 味もあるが、ノウハウをきちんと承継しないといけない。そのためには、一定 の引継ぎ機関が必要で、十分時間をかけてコツやキモを伝授する。しかし、考 え方やイズムなどという多分に定性的で属人的な部分は時間がかかる。過去の 膨大なデータを分析すれば、この局面でどう判断したのが正しいか。それは ビッグデータを解析すれば出てくるだろうが、あくまでも過去の条件ならばと いう注釈付きだ。 ●営業やデザイン、企画、設計、開発など個人のスキルに多分に依存している 業務は、AIに置き変わる可能性は小さい。多少は置き換わっても、最後の最後 は人間がジャッジする。そうなると、高度で知的生産性の高い業務しか人間は やらなくていいことになる。今後の事業承継も含め、子息には小さいときから 「考える仕事」に向いた教育をしないといけない。まず、自分自身が「考え る」仕事に集中しているか。誰でもできる作業的な仕事をやっていないか。緊 急な用件より、将来を見据えた重要な課題に取り組んでいるか?常に自問自答 して考えるクセをつけることだ。