**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第722回配信分2018年02月26日発行 これからの中小企業経営の重要課題 他社との連携を考える7回シリーズ:第6回 〜見通しが立たないと思ったらすぐに引き返す勇気を持つ〜 **************************************************** <はじめに> ●多くのメンバー、多くの企業で一体に取り組んでいると、順調なときはいい が、一度おかしくなると建て直するは大変だ。特におカネに関して、気まずく なると取り返しがつかない。一定の期間、一定のコストをかけて、メンバーは 一生懸命取り組んできた。そして、なんとなく先が見えそうになってきたと 思ったら、アクシデントやトラブルが起こり、中断し、手戻りし、さらに困難 な状況に陥った。そういうときに、リーダーの決断は難しい。順風満帆に行っ ていれば、誰でもマネジメントはできる。逆に、ピンチ、困難に遭遇したとき に、どうするか。 ●まず、第一に考えるべきことは、かけたコストは戻ってこないということ だ。投じた費用は、俗に言う「ドブに捨てた」のと同じだ。ドブに捨てたのだ から、もう戻ってこないし、返ってこない。当然分かっている理屈だけど、こ れが現場では分からない。勘違いではないが、このかけたコストを何とかして 取り返そうとする。もがいて、あがいて、努力して、取り返そうとするが、逆 に時間もかかり、さらに追加で資金が要る。いっそうの努力が必要となり、今 までの倍近いエネルギーをかけて、取り返そうとする。しかし、ことはなかな か動かない。 ●こういう、既にかけたコストを「サンクコスト」という。サンクとは英語で 沈んだという意味だ。泥の中に沈んだコストなので、この泥の中からおカネを 探し出すのは難しい。つまり、サンクコストとはもう戻ってこないおカネなの だ。ならば、さっぱり、すっきり諦めたらいいのだが、ほとんどのケースでは このサンクコストを取り返そうと、さらに資金を投入し、人をかけて、時間も 浪費し、そして最後はうまくいかない。追い銭をしても、ほとんど効果はな い。実は世の中にはいたるところで、このサンクコストが発生している。 <世の中ではこのサンクコストが頻発する> ●壊れたガラスのコップを元に戻そうとしても、戻らない。車のキズやヘコミ は修理で何とかなるが、一度壊れたものは完全にはもとに戻らない。戻らない なら、諦めて別の物に変えるか、買うか、何か対策を考えないといけない。い つまでも、起こったことに未練いっぱいで悔やんでいてもしかたない。なぜそ うなったのかは真摯に反省しないといけないが、後悔しても事態は一向に良く ならない。反省から、次の対策は生まれるが後悔からは、愚痴しか生まれな い。愚痴からは、次の建設的な意見やアイデアは出ない。 ●しかし、ほとんどの会社の会議は、この結果的には愚痴の言い合い、オンパ レードになる。犯人探しになり、対策を考える会議にならない。つまり、サン クコストが目の前につらついて、誰かが言い訳をしゃべり始めると、もう止ま らない。リーダーがそれをたしなめるくらいの見識があればいいが、リーダー がそれを肯定してしまうと、もう治まらない。そして、サンクコストを諦める どころか、どうやって取り返そうかという不毛の議論になる。もちろん、取り 返す方法がイメージできるなら、努力はすればいいが。 ●成岡がかって在籍した出版社では、このサンクコストの問題が頻発した。新 しい企画が企画会議で提案される。面白そうだから、もう少し進めてみるかと いうことになった。担当者は、著者にもう少し原稿を書いてくれと依頼する。 そして、そこそこ原稿が上がった段階で再度会議にかけられる。ところが結論 はノーとなった。担当者は、実は今までかくかくしかじかの費用がかかってい る。原稿料も半端ではない。ここで止めれば大きな損がでる。ここまで来たか らには、この企画を世に出そうと主張する。 <無謀と勇気は異なる> ●実は、この議論は根本的に間違っている。まず、今までかけた費用はサンク コストだ。だから、もう戻ってこない。金額の大小に関わらず、戻ってこな い。まず、このことをきちんと認識する。この過去にかけた費用を取り返すた めには、この企画を進めて商品にしないと売れない。では、これから商品にす るのにいったいいくらかかるのか。その議論がないままに、過去のかけた費用 のみに焦点が当たる。これを取り返すには、さらに追加の費用が必要だ。これ が意外と多額にかかることがある。 ●そして、最大の問題は、この企画が商品になって、果たしてどれくらいの業 績に結び付くかだ。サンクコストは戻ってこないが、ここで止めたら、その費 用だけで済む。それが、追加のコストもかかり、さらに売るための費用がかか り、最終的に売れるかどうかは分からない。分からないものに挑戦するのが勇 気ある決断だとも言えるが、逆に合理的に考えると正しくない。どちらがリス クが高いかというと、おそらく追加の投資をして回収しようと考えるほうがリ スクが高い。リスクが高いのにチャレンジするのもいいが、無謀と勇気は異な る。 ●特に出版企画以外でも、日常これと似たような事象は頻繁に起こる。無理に 人を採用する。媒体に相当の費用をかけたのだから、希望の人材ではないが採 用する。結果的に数か月で退職する。媒体の費用がサンクコストで、これだけ で終わっていたら被害は小さかった。しかし、追加でムダな資金をさらにドブ に捨てたことになった。結果的に、大きな資金を失うと同時に、組織の雰囲気 やモラルも悪くなる。誰が採用を決めたんだと、犯人探しになり、反省して次 に活かそうとするマインドにならない。 <高い月謝から学んだことが大事> ●無駄な機械を買った。簡単に儲け話に乗った。誘われて、ある事業に資金を 投入した。売れそうだと、買い込んだら想定外に売れなかった。こんな経験を お持ちの経営者の方は、結構多いはずだ。売れると思って作りすぎた在庫もそ うだ。高くなるかもしれないと思って買い込んだ材料もそうだ。先に手を打っ ておくことは間違いではないが、それがすべて当たるとは限らない。正解とも 限らない。確かにリスクは取らないといけない。決断もしないといけない。全 部が100点は取れない。失敗や判断のミスもある。傷を大きくしないことだ。 ●臆病になる必要はない。経営はチャレンジの連続だ。不確定の未来に向かっ て、仮説で絵をかいて、そして確実に色を塗る。しかし、描いた絵が必ずしも 将来にマッチするとは限らない。大手企業の減損処理は、まさにこのサンクコ ストの処理なのだ。企業を買収しても、期待値ほど効果が出ないことは、実は 山ほどある。未来の事業に投資をして、少し時代が早かったというケースもあ る。売れると思って商社が買い込んだ資源が、何かの理由で暴落することもあ る。為替の変動もあり得る。見通しが立つのは、30%くらいではなかろうか。 ●しかし、そんな不確定、不確実な未来だが、時間はどんどん経過する。じっ としていては取り残される。大事なことは、経営には多少のサンクコストは避 けて通れないと割り切ることだ。ないに越したことはないが、そんな経営はあ り得ない。日頃からの内部留保を確保し、可能な限りサンクコストのリスクを 最小限に抑える手は打たないといけないが、決断を鈍らせてはいけない。そし て、起こった時は早く手を引く。一瞬でも早く決断する。そして、反省はすれ ど後悔はしない。高い月謝から何を学んだか。それが大事なのだ。