**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第730回配信分2018年04月23日発行 これからの中小企業経営の重要課題 これからの企業の人材戦略7回シリーズ:その7 〜経営者が語る未来のビジョンがいい人材を引き寄せる〜 **************************************************** <はじめに> ●どんなすごい企業でも、大企業でも中小企業でも業績のアップダウンは避け られない。なぜなら外部環境が大きく変わるからだ。20年以上前なら、いくら 外部環境が変わるといっても、そう急激に変わることはなかった。10年、20年 かけて徐々に環境が変わり、気が付けば周辺も結構大きく変わったねとのんび り言っていた。ところがどうして、最近の経営環境の変化は、非常に激しく 待ったなしの状態になっている。ひと昔前はドッグイヤーと言って、犬の年齢 の刻み方くらいの速度で世の中が変化すると言っていたが、どうもそれも古い ようだ。 ●ここ10年の大きな出来事で言えば、インバウンド需要の伸び、IT技術の進 歩、スマートフォン市場の拡大、自動車業界のEV化などだ。大手電機メーカー の業界においても淘汰が進み、パナソニック始め大手電機メーカーの再編が進 んだ。自動車業界もしかり、住宅産業、スーパー流通などあらゆる産業におい て、以前からの常識が通用しなくなっている。通用しないならまだしも、以前 からの常識が阻害要因になっている。びっくりするような出来事が、日常茶飯 事に起こる。過去の成功体験がほとんど役に立たなくなった。 ●そこへ輪をかけて世界的な政治情勢に大きな変化が起こっている。東西冷戦 が終結し、南北間格差の解消がテーマになった。新しい枠組みが始まったと 思ったら、新興勢力が猛然と先進国を追い上げ始めた。特に中国の台頭は顕著 で、東アジアからインドを経由しての「一帯一路構想」は現実にどんどん動い ている。気が付けば、日本は完全に東南アジアから中東地域で主導権を取れな くなってきた。中国資本が入ったプロジェクトがどんどん進み、日本の影は薄 い。アジア、アフリカ諸国では、経済援助は大半が中国資本なのだ。 <時代は変わった> ●島国日本は鎖国状態のような時期があり、海外に目を向けなかった。最近で は若い人が海外赴任を嫌う傾向にある。成岡たちが大学を卒業した1974年前後 では商社に入り海外に赴任するのが憧れだった。まだ、1ドル360円の時代で 海外からの輸入のウィスキーはなかなか高価で飲むことができなかった。そう いう時代に海外に行けるのは魅力的だった。製造業から世界に飛び出せる商社 に入るのは、なかなかハードルが高かった。しかし、今はあまり海外に若い人 が行きたがらないそうだ。リスクが高いからだろうか。 ●技術革新も大きく進んだ。電機、機械、情報通信、化学、繊維、樹脂、金 属、土木、建築など技術系の分野では、従来の技術レベルが大きく変化し、革 新的な技術が製造業の現場にどんどん入り、自動制御に始まりバッチから連続 への転換、原料の転換、エネルギーの変更、省エネ技術の導入など、工程管理 の方式も様変わりした。エネルギー原単位の改善や歩留まり率の向上は、目覚 ましい進歩を遂げた。しかし、メカニカルな革新はほとんど技術が完成し、IT を駆使した技術革新が主流になった。 ●なかなか中小企業はこの技術革新についていけない。相当なレベルの人的資 産が要るだろう。投資も必要だし、設備も要る。なにより手ぶらでは戦えな い。いまのレベルのままなら、日本国内では埋没する。ならば、座して死を待 つより海外に出るか。成功半分、失敗半分の確率なら、自分の時代に思い切っ て進出を選択するのもひとつの戦略だ。こういう意思決定は、代表者でしかで きない。今後の世の中の動きを考えると、いまのビジネスが30年通用するとは 思えない。じり貧になるくらいなら、自分の代で飛びだすか。 <常に先を見せる> ●思い切ってビジネスモデルを変えるには、組織を活性化して相応の結果を出 さないといけない。そのためには、構成メンバーのモチベーションが高まるこ とがないと難しい。給料が上がる話しの前に、どうしてその課題に取り組むの か、その課題を達成したときにどうなるのかを、トップが示さないといけな い。単に、いま苦しいからという理由だけでは、従業員はついてこない。この 困難な課題を乗り越えた先に、どういう景色が見えるのかを見せないといけな い。決して給料が増えるということだけの理由ではない。 ●山登りと同じだ。この山を登るのは大変だ。5合目くらいまではいいが、8 合目くらいからは相当急な斜面になる。しかもガスがかかって、視界が悪い。 よく見えない。装備もこれでいいか、よく分からない。未知の領域に踏み込む ので、自信がない。みんなで一緒に行けるだろうか。自分はついていけるだろ うか。そういう不安や悩みがあるが、トップがその後を明確に示してくれる と、やる気も出てくる。見えない未来を、少しでも見えるようにして、自分と 一緒に成長しよう、あの高い山に一緒に登ろうとみんなを鼓舞しないといけな い。 ●頂上に登った後、次にどういう山に登るのかを見せておいてくれると、どれ くらい力を残しておければいいかが分かる。へとへとになって、ようやく頂上 に着いたと思ったら、すぐにいきなり向こうに見える次の山に登るんだと言わ れても、元気が出ない。それなら、先に言っておいてくれという愚痴のひとつ も言いたくなる。トップは常に数年先、数年先を従業員に見せて、モチベー ションを切らさないようにしなければいけない。しかし、経営環境の変化は急 に訪れることも多い。説明している時間がないくらいの速度で環境が変化す る。 <経営者は逃げられないなら腹を括る> ●経営者は常に前向きなマインドを持ち、次の3年先5年先をイメージして従 業員のモチベーションを切らさないようにテーマを探し続けないといけない。 しかし、世の中の変化は激しい。激しいだけならまだしも、分からない。自分 の感覚、能力、裁量では推し量れない動きが一気に出てくる可能性がある。例 えば、地政学的なリスクがある。大国同士の関係が険悪になり、一触即発の状 態になると為替や株価が大きく動く。そんな変化には、逆立ちしても抗えな い。原材料に輸入品が多くある商売だと、為替の変動要因は大きい。 ●過去にはオイルショック、リーマンショックなどがあった。中東で戦争が勃 発したり、朝鮮半島での紛争、ロシアのクリミア侵略、アフガン戦争など、日 本が責任のないところでの紛争が起こり、世界情勢が一気に緊張し為替や株価 が大きく動いたことがある。国内的にはバブル経済の崩壊、金融機関の破綻、 阪神大震災や東日本、熊本の大震災などがあった。なんとか乗り越えて来たと 思ったら、また次の災難が降りかかる。自社の責任は何もないのに、どうして こうなるのだろうかと、ぼやきの一つも言いたくなる。しかし、トップが会社 でぼやいてはいけない。 ●何が起こっても経営者は逃げられない。従業員は他社に移ることもできる が、経営者は船の船長と同じだから、最後の最後まで残らないといけない。沈 むときは一緒だ。そうならば、開き直って前向きに行くしかない。どうせ逃げ られない運命なら、やるしかない。そう腹を括ると、その気持ちは必ず従業員 に伝わるはずだ。トップが決心して、数年後のビジョンを示せて、目の前の困 難に立ち向かう勇気を見せれば、必ずや従業員はついてくるし、展望も開け る。そう思えば、次第に風が吹いてくるものだ。まずは、自分自身に暗示をか け、鼓舞することだ。