**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第733回配信分2018年05月14日発行 これからの中小企業経営の重要課題 これからの企業の事業価値向上戦略7回シリーズ:その3 〜事業価値を高めるには「顧客感動」を〜 **************************************************** <はじめに> ・古くには「顧客満足度を高める」というキーワードが流行った時代があっ た。商品を買ってもらった、お店に足を運んでくれたお客さんに「満足」を感 じてもらって帰ってもらえばいいという発想だった。「モノ」のない時代やお 店が少ない時代は、特に意識しなくても普通に商売をやっていればよかった。 人口が増えるというのはお客さんが増えるということと同義語だった。とにか く一生懸命普通にやっていれば、商売は繁盛した。奇をてらうことなく、こつ こつ真面目にやっていればよかった。 ・ところが時代が様変わりしつつある。まず、大前提の人口が頭打ちになり、 その後減少に転じた。生産年齢人口が減少しつつある。つまり、顧客数がこれ からはどんどん減ってくる。当然お店や会社の数はオーバーキャパシティにな る。余剰、過剰の会社やモノが溢れてくる時代になる。弾き出される企業やお 店が出てくる。創業より廃業が多くなり、合計の企業数が減少に転じる。生き 残りがちもあるが、市場全体のパイが小さくなり、縮小に転じる。成長が止ま り、停滞の時代になる。打開策を考えないといけない。 ・しかし、今までやってきたビジネスモデルをそう簡単に変えろと言われて も、それはなかなか難しい。一生懸命やっているのだが、それまでで決定打が ない。差別化しようと思っても経営資源が乏しい。何か変えないといけないの だが、人手と資金と時間がない。自分が新しいことに回ればいまの社業全体が 停滞する。では、資源の乏しい中小企業ではどうすれば事業価値が高まるだろ うか。それには、お客さんに対して「満足」を通り越して「感動」を与えるこ とだ。「感動」したお客さんは必ず周囲にアナウンスしてくれる。 <感動した顧客は周囲に営業してくれる> ・「満足」で帰ったお客さんは周囲にアナウンスはしてくれない。今の時代は 「満足」を与えるのは当然だからだ。「満足」も与えられないお店や企業は淘 汰されて残っていないはずだ。それくらい昔に比べて商品や製品、サービスの レベルは上がった。昭和40年代以降、高度経済成長を経験して、日本の事業レ ベルは格段に向上した。その時代は「顧客満足」を与えられる企業が成長し た。なによりモノがなかった時代を脱出して、モノが溢れる時代になった。溢 れてくると成長が止まる。余剰の在庫が増えて倉庫が満杯になる。 ・「満足」を通り超えて「感動」の領域になると「感動」を感じた顧客は、必 ずその「感動」を周囲に言いたくなる。聞いて欲しい経験をした人は、必ずや 周囲の人に言いたくなるものだ。特に女性の顧客はそういう傾向が強い。どう しても黙っていられない性格の人が多いからだ。いや、周囲に聞いてもらうこ とで一層その「感動」のインパクトが強くなる。そうなると完全にその企業や お店のファンになり、お客さんが強力な営業スタッフになる。ドラッカーが 言った「営業はしないことが最高なのだ」という有名なフレーズの領域にな る。 ・「感動」を感じた人は、ほとんどがオーバーに話しを修飾してくれる。よい ように内容を加工して話しをしてくれる。面白く、おかしく、さもおとぎ話の 主人公のように脚色して聞き手を飽きささない。少々のオーバートークは許さ れる。そして最後に、「あなたも一度行ってみたら」「一度経験してみたら」 「一度食べてみたら」というフレーズで終わることが多い。自社や自店舗のス タッフがいくら費用をかけて営業活動や広報宣伝をしても、これに勝るパワー はない。しかも、有難いことにコストはかからない。 <我慢して教育に時間をかける> ・では、「感動」を与えるにはどうすればいいか。まず、先週号で書いたよう に「従業員満足度」が高いことが必要だ。従業員の満足度が低い企業やお店 が、どうしてその顧客に「感動」を与えることができるだろうか。従業員がし らけていて、モチベーションが低い状態では、顧客に「感動」を与え感じても らうことは全くと言っていいほど不可能だ。まずは最前線で顧客と相対する従 業員のやる気、満足度、モチベーションが高くないといけない。経営トップ は、まずそのことに注力すべきだ。第一にやるべきことは、それだ。 ・次に仕組みを作らないといけない。難しく言えば、システムであり業務フ ローだ。従業員が個別単独にやっていても、全体では成果はでない。また、 100名の従業員のうち、99名が顧客感動を与えることが出来ても、たった最後 の1名がマイナスの結果を出してしまうと、全体では大きなマイナスになる。 いい評判はなかなか伝わりにくいが、悪い評判は疾風怒濤のごとく駆け抜け る。あっという間に市場に広まり、その影響は計り知れない。特に、昨今の SNSなどでの拡散のスピードは速い。気が付いたら、もう遅い。 ・教育の体系を作って従業員の質を均質化し、常にレベルを上げることだ。ス ポーツのプロの選手が常にトレーニングしているのと同じだ。給料の額は違う かもしれないが、おカネを稼いでいるという意味では同じだ。子供への教育は 100年先への投資だと、よく言われる。企業経営でも同じだろう。教育におカ ネをかけても、時間をかけても、すぐに目に見えてリターンは少ない。しか し、農業と同じでまずは土造りから始めないといけない。土台を造るのに時間 がかかるだろうが、経営者は途中で諦めてはいけない。我慢して継続する。 <トップ自らが教育を担当する> ・不思議なもので、継続していると賛同者が二人、三人と増えてくる。最初は 見向きもしなかった者がだんだん増えてくる。そこまで辛抱が肝心だ。途中で 心が折れそうになることがあっても、勇気を奮い立たせてこれが正しい道だと 確信する。近道はなく、遠回りに見えても教育を一生懸命やることが正道だと 腹を括る。括ったら、あまりぶれないことだ。トップの言うことが、ころころ 変わると周囲はその豹変ぶりに右往左往する。朝令暮改もいいが、あまりにそ れが頻繁に起こると、オオカミ少年になる。 ・従業員のレベルを均質化することは難しい。特に中小企業では、大企業のよ うに一斉に採用する新卒者中心ではないので、ばらばらの人生経験、社会人経 験者の集まりなのだ。そのばらばらな従業員が、全員同じように顧客に感動を 与えられるようになるまで、我慢して教育をやり続けなければいけない。しか も、経営トップが教育に深く関わることだ。人事部などという洒落た部署もな いから、トップ自らが教育の先頭の現場に立って旗を振る。間違っても、外部 の人に教育などを任せてはいけない。よほど専門的な領域なら別だが。 ・しかも昨今は時代の変化が速い。以前なら、こうすれば顧客に感動を与えら れたのが、最近では少し時間が経てば一般化し、陳腐化して、どこでも当たり 前になって来る。そうなると、以前と同じようにやっていたのでは難しい。感 動を与えられる新しいノウハウを確立し、従業員を教育し、再現性を高め、質 の均一化を図る。気が遠くなるように思えるかもしれないが、ビジネスに近道 はない。一度ショートカットに成功しても、次に同じように成功するとは限ら ない。地道な努力を積み重ねることがすべてだ。まず、経営トップがそう腹を くくらないと、顧客に感動は伝わらない。