**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第734回配信分2018年05月21日発行 これからの中小企業経営の重要課題 これからの企業の事業価値向上戦略7回シリーズ:その4 〜少ない資産で高い効率を上げる会社に変化さす〜 **************************************************** <はじめに> ・事業価値を高めるにはいろいろな方法があると思われるが、中小企業は株式 を公開しないので、決算書の数字で評価する以外に適当な方法がない場合が多 い。特に、金融機関や外部の第三者が評価する場合は、数字で判断できるもの は決算書が唯一と言ってもいいくらいだ。ところが、中小企業の経営者の方は あまり決算書に関心がない。関心がないより、決算書の数字の見方が分からな い。分からないから見ないのか、見ないから分からないのか分からないが、と にかく高い費用を税理士さんに払っているにも関わらず、決算書を理解しよう と努力しない。 ・決算書の問題点は、年に1回しか出てこない数字の貴重なデータであるとい うことだ。年に1回、それも期末の時点から2か月くらい経過しないと正式な ものは出てこない。例えば3月末決算の企業で決算書が出来上がるのは5月末 になる。もう新しい年度になってから2か月も経って、ようやく正式な決算書 が出てくる。野球で言えばプレボールがかかってから3回くらいが経過してい る。終わった期間の数字を云々するより、いまの足元の業績の方が大切だ。終 わった結果より、今いまの数字に執着し何とか業績を挙げようと必死に努力し ている。 ・そんな状態の経営者に済んだ期間の業績の分析をしても、もうどうでもよい と一蹴される。もう関心がなく、目は先の方に向いている。いまさら過去を分 析しても、あまり有意義ではない。それより今月、来月の売上や資金繰りの方 が大事なのだ。月末の手形や給料の心配の方が大切になる。もうこうなると決 算書は無意味な紙の資料と化し、ほとんどの経営陣や役員はコピーが配られて も関心がない。机の引き出しにしまって終わりになるか、ロッカーやキャビ ネットの中に格納されて、二度と日の目を見ない。税理士さんも要らないこと をご注進して経営者の機嫌を悪くしたくない。 <決算書から事業価値は分からない> ・赤字、黒字には関心があるが、資産と負債には関心がない。ところが、事業 価値ということになると過去から現在までの営々として築いてきた利益の集積 が問題になる。どれくらい今まで利益が積み上げられてきたのか。10,000千円 の資本金でスタートした企業が、いまどれくらいの資本金になったのか。増え たのか、減ったのか。逆に業績が悪くて、当初の資本金の額を下回り、マイナ スになっている企業もある。そうなると、現在の株式価値は限りなく少ない。 極端に言えば1円になる場合もある。実際には評価は時価でするので、必ずし もそうでない場合もある。 ・将来はどれくらい収益を生むのか。キャッシュを生むのか。これもなかなか 難しい。直前の状態が3年先、5年先、10年先で継続するということは誰も分 からない。経営環境も激変するかもしれない。今年順調なビジネスが、来年ど うなるか分からない。2020年のオリンピックが終わったら、どうなるのだろう か。いま絶好調のインバウンドも、ひとたび米朝が戦争状態になったりした ら、激減するだろう。中国からの観光客もガタ減りになる。逆もあるかもしれ ない。米朝が仲直りし、アメリカが北朝鮮の体制を認めると、緊張がなくなり 一層訪日観光客が増える可能性もある。 ・少し前の時代では、世の中の変化が激しいことの表現に「ドッグイヤー」と いう言葉を使った。イヌの1年は人間の7年に相当するという意味だ。ところ が最近では、それ以上に変化の速度が大きく、マウスイヤーという言葉まで登 場する時代になった。そんな時代に、将来3年、5年先が正確に見えるだろう か。それより、企業のサイズを小さくして、臨機応変に時代の変化に柳のよう に柔らかく対応するほうがいい。そうなると、企業の規模を小さくして、体重 を軽くし、速く走れるようにする。体重が重たいと、速く走れない。60Kgの人 と70Kgの人とでは、当然60Kgの人の方が速く走れる。 <継続するには変化する> ・事業価値を高めるには、少ない資本や資産で高い効率で収益を上げている企 業を目指すべきだ。大きな売り上げも重要かもしれないが、図体がでかくなり 回転率が悪くなると、当然資金効率は悪くなり、おカネの循環が鈍くなる。そ うなると、要らない資金が必要となり、いろいろな部分に余計な脂肪や贅肉が つく。筋肉質の身体になって体重が増えるのならまだしも、皮下脂肪や要らな いところにいっぱいのムダなものがくっついている。付いた脂肪や余分なもの をそぎ落とすのは難しい。相当運動して、筋トレをして、しかもそれを相当時 間継続しないといけない。 ・いったん会社ができたら存在は永遠に継続することが前提だ。自分の代のみ 30年で終わるなら、それは事業活動とは言えない。後世に継承され、いつの時 代も必要な企業として存在があり続けるようにしないといけない。そうするに は、どの時代においても社会や世間から有用な存在であるには、その時代時代 の環境に適合するように素早く変化を先取りして、自分自身が変わることを厭 わない。京都の地にはそのように祖業から激変して今日生きながらえ、さらに 価値を高めている企業が山ほどある。 ・だいたい経営者一世代で30年だから、30年にひとつ大きな事業の柱を作って いる企業がある。会社が出来た当時は仏壇の金具を製造していた企業が、いま や医療機器の重要な部品を製造し、その分野ではなくてはならない企業になっ た例もある。トヨタも最初は機織り機の会社だった。時代を読んで、これから は自動車の時代が来ると信じ、ひたすら研鑽を積んで世界の企業になった。日 本電産も最初はガレージからの創業だった。堀場製作所は、大学発のベン チャー企業だった。そういう素晴らしい企業が京都には多くある。 <先人に学び自社を変えていく> ・京都には世界的なビッグネームになった企業が多数あるが、祖業と比較して みれば同じことをしている企業はほとんどない。一部は継続している場合もあ るが、少しは異なる事業を行っているケースが多い。10年から20年単位の永い スパンで考えて、祖業のよさを守りながら、新しいことを大胆に取り入れて チャレンジしながら事業領域を少しずつ変化させていく。10年20年経てば、か なり事業内容が変わっている。それをうまく自然体でやっている。そういう立 派な中小企業が京都にはたくさんある。誇れることだ。 ・事業価値を高めることを考える前に、自社の現在の状態を一度子細に点検し てみるといい。年に一度の精密検査のようなものを受診してみる。徹底的に頭 のてっぺんからつま先まで、とことん検査を受けてみる。出てきた決算書の数 字を信用せずに、自分自身で納得するまで徹底的に点検する。在庫の数字は正 しいか。売掛金の回収は全部可能か。その他の資産は合っているか。おかしい ところはないか。土地の評価は現時点ではいくらか。持っている有価証券の価 値はいくらか。 ・会社の資産を正確に把握して、実際の株の価値はいくらになるか。それを把 握したうえで、将来に向けて何にどれくらいおカネをかけることができるの か。投資の余力はあるのか。ないならおカネを借りることができるのか。自分 の企業の強み、価値が将来も活かせるのか。そういうことを全部考えるのが、 経営者の務めなのだ。責任が重たいと思うかもしれないが、中小企業でそれを 判断するのがトップの務めだ。京都の光る中小企業は、ずっとそれを継続して 行ってきた。すべてやることが成功するとは限らない。大事なことはチャレン ジを継続することだ。