**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第741回配信分2018年07月09日発行 これからの中小企業経営の重要課題 経営者の自分磨き7回シリーズその4 〜代表者が自分の主義主張と相いれないものを受け入れる〜 **************************************************** <はじめに> ・65歳から70歳を超えてくると、どうしても人間頑固になる傾向にあるよう だ。先日も会議所の事業引継ぎ支援センターに相談に来られた次期後継者の長 男の方が、実父すなわち創業者の代表者の方が75歳になって、いまだに現役社 長で元気だと。元気なことはいいのだが、経営面で自説を曲げないから非常に やりにくいとぼやいて相談に来られた。創業者で実際に自分が事業を立ち上 げ、40年以上社長をやって今日の会社を築いてきた。その自負たるや、他人で は分からないものすごいものがある。 ・しかし、ときにはそれが「あだ」になる。マイナスに影響することがある。 つまり、自身の成功体験は昭和の後半から今までにかけてであり、その手法が 今後も通用するとは限らない。世のなかは時々刻々変化し、10年前では常識 だったことが、もはや常識にはならない。そういう時代の環境変化は、昨今特 に激しく企業の栄光盛衰、合従連衡も毎日のように新聞紙上やメディアで報道 されている。想定外の組み合わせのM&Aもあれば、小が大を飲み込むびっくり のケースもある。 ・現在の代表者が創業した昭和40年から50年代にかけての日本及び周辺諸国の 状態と、平成も終わりになろうとしている現在とでは、その環境には雲泥の差 があって当然なのだ。しかし、自身の中にある成功体験はずっと成功体験のま まある。それがなかなか捨てられないし、ふっきれない。どうしても過去の成 功体験の呪縛にとりつかれ、新しい考えや発想を受け入れにくい。心の中で は、なるほどそうだと思っていても素直にそれを受け入れられない。自分の過 去を全部否定するような気がする。 <過去の成功体験は捨てにくい> ・つまり自分の周辺が、過去と同じなのだ。製造業などは、設備が重たいから そう簡単に事業所を移転できない。移転できないと、仕事の環境が変わらな い。変わらないと見える景色が同じだから、発想もおっつけ同じになる。毎 日、朝から同じ景色をずっと見ていると発想も硬直化してくる。ときに窓を開 けて新しい風を入れても、すぐに以前からの空気に同化されて新しい空気に入 替らない。この状態に変化を起こすのは代表者しかできないが、代表者が過去 の成功体験につかっていると、なかなかできない。 ・サービス業や小売業は、割と身軽なので環境を変えることは意外と簡単にで きる場合が多い。出店場所を変えたり、移転したり、身軽だから移動にあまり コストがかからない。もっとも客商売の場合は立地は非常に大事なので慎重に 検討しないといけないが、それでも製造業のように、土地、建物、機械が大量 にあるようなことは少ない。集客に不都合だと判断したら、損切と同じでさっ さと場所を変更する決断も容易にできる。環境を変えるにはコストもかかる が、変えたら変えたで心機一転頑張ろうという気になる。 ・過去の成功体験を創業者が転換するのには、相当の勇気が要る。自分から、 自ら捨てることは難しいので、何か外部から大きなインパクトが与えられない ときっかけにならない。大きな得意先の失注、製品の大きなトラブル、古参社 員の反乱やクーデター、資金繰りのピンチ、金融機関からの貸しはがしなど、 マイナスの要因が突然起こると目が覚めることが多い。どうしてそうなったの だろうと、自問自答する。そして、自らの判断、決定、方針がどうもおかし かったのではないかと気が付く。 <自ら変わることができる経営者は少ない> ・気が付いて変えられる代表者は、実は極めて少ない。ほとんどの場合、他人 のせい、環境のせい、政治のせい、天候のせいになる。自分のことを差し置い て、まず責任は他の要因を探す。そして言い訳の理由を考える。外部環境や従 業員、他の管理職や役員のせいにしておけば、気が楽だ。問題は何一つ解決し ていないが、何となく言い訳ができて自己満足に陥る。ここで、はたと気が付 いて自分が過去の成功体験に固執して、新しい環境変化を受け入れることを 怠ったと感じれば、最高だ。 ・特に若い人の意見は貴重だ。会議でも、若い社員が勇気を出して代表者に建 設的な意見を堂々と言う場面を、何度も見て来た。しかし、大半のケースでは 代表者は受け入れない。自分の主義主張と異なる意見には、耳を貸さない。少 しは聞いているふりをすることもあるが、それは本当に聞いていることにはな らない。まして、聞いているだけではなく、それを取り入れて、いざ実行する となるともっとハードルは高い。まして、おカネもかかる、時間もかかる、エ ネルギーもかかる。 ・また、新しいことを始めるときは、一部は過去を否定しないといけない。時 代、環境に合わなくなった旧来のビジネスモデルのどこを捨てるのか。創業か らずっと育てて来た我が子のような事業を、部分的にせよ捨てる勇気は相当な ものだ。普通の経営者なら、それは全部残しつつ、新しい変化を付け加える。 旧来のものが全部残っていると、新しいものは付加しにくい。まずい部分は削 り取って、そこに新しいものを付け加えないといけない。しかし、なかなか古 いものを捨てる勇気がわかない。 <外部からの意見を柔軟に受け入れる> ・前述のように、そこで場所を変えたり移転したりという環境の大きな変化が あると、意外と新しい変化を受け入れしやすい。京都府下の製造業で、前から 使っていた工場が火災にあった。それは不幸な出来事だったが、それをきっか けに別の場所に移転し新工場を建設した。その新工場は、以前から温めていた 構想を大胆に実現しようと、思い切って新しいやり方を取り入れた。過去の成 功は、火災のあった古い工場とともに消え去り、新工場では世の中の変化に合 わせた新しいシステムを導入した。 ・自分の主義主張と異なるものを受け入れるのは、相当の勇気が要るが、この ように環境ががらりと変わるなら、それは大きなチャンスだ。後継者にバトン タッチをする際にも、そこまで大きな変化は難しいが、目に見えた変化を起こ すようにしないと、社長が次に変わったからと言って何も変わらなければ、変 わったことにならない。軋轢はあるし、いろいろと確執も起こるだろう。それ を想定して、次世代には自分の過去の成功体験や主義主張と異なる要素を持ち 込まないといけない。 ・自ら変わるのには、非常に大きな勇気が要る。そんな大きな勇気を持ち合わ せている経営者の方は、少ない。ならば、外部からの意見や第三者からのアド バイス、身内親族からの助言、金融機関からのコメントも受け入れることだ。 そして、それらをよく咀嚼して、吟味して、検討して、決断する。何もすべて に迎合する必要はない。いいとこ取りでいいから、受け入れて次世代に向けて 変わることを選択する。まず、決心する。次に、具体的に考える。結論ありき でいいので、自分の主義主張と異なる意見を柔軟に受け入れることだ。