**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第745回配信分2018年08月06日発行 これからの中小企業経営の重要課題 経営者としての心構えを伝える7回シリーズその1 〜経営理念の大事さを認識する〜 **************************************************** <はじめに> ・一族同族であれ従業員であれ、第三者であれ次世代に事業を承継したり引き 継ぐときに最も大切なものは、会社としての根幹である「経営理念」だ。「経 営理念」というと大げさに聞こえるかもしれないが、そもそもその会社や企 業、お店が存在している理由であり、根拠になる。なぜ、事業を営むのか、何 を目的に事業を継続しようとしているのか。意外とそういう大事なものは日常 表に現れない。何か空気みたいなもので、見えないし、よく分からない。よく わからないものが非常に大事なのだ。 ・日常の商売の営みに「経営理念」などという崇高なものは、ほとんど関係な いし関与しない。毎日の売上であったり、毎週の業績には「経営理念」は全く と言っていいほど関係ない。経営者も今週の業績や売上を追っかけているの で、日常意識する場面はほとんど表れない。しかし、何か大きな出来事があっ たりトラブルがあったりという非日常の重要な出来事があったときに、この 「経営理念」が明確かどうかが非常に重要になる。迷った時の聖書やバイブル のようなものだ。日ごろは意識していないが、そういう時に決定的な要素にな る。 ・「経営理念」とは会社の基礎をなすものだ。そもそもどういう目的でこの会 社が設立されたのか。事業を営む目的は何か。「目的」とは「的」であり最終 「的」を射抜いたらそれで弓矢の矢の目的は達成できたことになる。最終の ゴールであり、常に意識して追い求めるゴールなのだ。マラソンは42キロを 走ったらゴールが見えてくるが、事業の営みにゴールはない。終わりのない、 ゴールのないマラソンを走っているので、先が見えてこないことがある。そん なときに、「経営理念」で事業の目的が明確化されていれば、非常にわかりや すい。 <目先目先の損得で判断する> ・売上の数字や利益の金額は具体的な目標であり、分かりやすい。それは達成 すべき目標であり、経営理念とは異なる。経営理念で掲げた会社存在の目的を 達成するには、当然毎年の目標があり、それは具体的な数値で示される。目標 とは「道しるべ」であり中間のマイルストーン(置石)なのだ。どうしても経 営上は、この目標をどう達成するのかという方法論を検討することになる。そ の手前で「経営理念」に合っているか、どうか、などという検討は実はほとん ど行われない。 ・しかし、経営上大きな意思決定をするときは、この経営理念に合致している かどうかが問題になる。新しい事業分野に進出するとき、大きな投資をすると き、他社と提携するとき、海外に進出するとき、幹部人材を外部から採用する とき、などなど大きな経営上の意思決定はすべてこの「経営理念」に合致して いるかがどうかが、問われることになる。よって、この「経営理念」という漠 然としたものが、経営の分岐点に差し掛かるときに非常に重要な判断材料にな る。この判断なくして大きな意思決定はできない。 ・ところが現実はそうではない。意外と大きな決断は、「経営理念」に照らし て検討し判断し意思決定しているというより、目先目先の実利で判断するケー スが多い。成岡が役員していた同族一族が経営していた企業の出版社でも、平 成3年に本社ビルを15億円で買ったときに、果たして「経営理念」に照らして 本社ビルを購入するのが正しい判断だったかと言われれば、非常に恥ずかしな がらそんな検討はほとんどしていない。旧本社が手狭になった、社員から文句 が出ている、採用に不利、などという目先の理由で購入を決めた。 <経営理念がないことにあとで気が付く> ・いまとなっては恥ずかしい話しだが、当時10名近くいた役員会で真剣に経営 理念に照らして本社ビルの購入投資を議論したかと言われると、ほとんど記憶 にない。当時の売上規模、借入金額からしたら、非常に大きな決断だがその場 の雰囲気はそれを否定することを許さなかった。いや、逆に経営理念が果たし てまともにあったのか?と問われると、非常にお粗末な話しだが、記憶にな い。おそらく、そんなものはなかったのだろう。意識をしたこともなければ、 その存在を確認した記憶もない。 ・人文科学系の学術専門書の出版を生業としていた当時の出版社にとって15億 円の本社ビルの購入は、非常に大きな決断だったが、いとも簡単に決まってし まった。数10億円規模の売上の会社で、15億円の固定資産の購入は非常に重た い。しかし、金額が大き過ぎてぴんと来ないため、ほとんど核心に触れる議論 無く、短時間の討議でことは決済された。この15億円の投資が、その後の業績 低迷の大きな原因になったのは、実は数年してから気が付いたことになる。 ・おそらくぼんやりとした経営理念はあったのだろう。学術出版に貢献して文 化学術の振興に寄与する、などという美辞麗句を並べた経営理念はあったのだ ろう。しかし、それを誰も意識することなく、誰も大事だと思っていない。経 営理念が存在していたことと、意識していたことと、大事にしていたこととは 異なる。また、例えあったとしても形骸化していたと思われる。会社をやって いくうえで一番大事なもの、それが「経営理念」なのだ。そういうことに成岡 も気が付いたのは、実は会社が潰れたあとになってからだった。 <経営理念がないと意思決定が迷走する> ・実は平成になってから、世の中はバブル経済に沸いていた。土地や株は高騰 し、ゴルフ場の会員権は3倍から5倍くらいに跳ね上がった。某地銀が購入の 案件を持ってきたのは偶然だが、15億円になる資産をいきなり買うのはリスク が高いはずだ。しかし、出版社は資産がないので土地建物は持っていれば損し ない。必ず上がるから借金をしてでも所有しているほうが正しい。そういう理 屈に押されて購入を決めたのがいきさつだ。では、出版社が土地建物を自家所 有する意味が本当にあるのだろうか。 ・顧客である消費者が頻繁に来社されるビジネスなら、土地建物の新品を所有 する意味はあるだろう。しかし、出版社に直接読者が書籍や雑誌を買いに来る わけではない。取引業者や印刷会社、デザイナーなど業界の人が来る。なら ば、誰が考えても新しく本社ビルを買うのは見栄でしかない。確かに社員数が 増えて手狭になっていたことは事実だが、本来的に出版社が高額の固定資産を 所有することが正しいとは思えない。しかし、判断の基準になる「経営理念」 がなかった。そうなると、意思決定は迷走する。 ・結局、成岡の所属していた出版社は平成8年前後に特別清算でなくなった。 実質破産である。最大の原因は、本社ビルの購入である。いったん購入し、 150名が移転引っ越して数年後に業績の悪化に伴い、150名はまたもとの場所に 戻って、その後賃貸ビルとして家賃収入を得ようとした。移転に10,000千円か かりその後の後始末に数千万円かかった。結果、数年後に破たんした。当時、 明確な「経営理念」があり大きな判断をその理念に照らして行っていれば、い まどうなっていたか分からない。しかし、これで学んだものは多かった。