**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第761回配信分2018年11月26日発行 これからの中小企業経営の重要課題 経営する上での重要なキーワード:その3 〜人は不足気味にする〜 **************************************************** <はじめに> ・昭和45年に産能大学出版会から発行された土光敏夫著の「経営の行動指 針」。非常に古い本だが、いまだに成岡の座右の書としてデスクの片隅に置い てある。実は、昭和59年に32歳のときにメーカーの技術屋から義兄が経営する 印刷会社と出版社に転職した際に、代表取締役の義兄がくれたのが、この本 だった。当時成岡は32歳で、代表取締役の義兄は10歳上の42歳。出版社はでき てまだ12年。社員は40名くらいで売上は12億円だったと記憶している。その代 表取締役の義兄がくれたのが、この本だ。 ・32歳の当時、大学を卒業して10年間化学繊維の製造メーカーの技術屋として 愛知県の豊橋市の工場で勤務していた。毎日、毎日新しい機能の繊維を開発す ることがミッションだった。最後の2年間くらいはPETボトルにするポリマー の開発をしていた。そんな技術屋丸出しから、一転して中小企業の経営陣の一 角にリクルートされた。故郷の京都に戻ってきたのはいいが、右も左も分から ない。まして出版や印刷と言う事業とは全く縁遠い生活をしていた。それも人 文科学系の出版社だから、余計に分からない。 ・いろいろな部署を経験させてもらったが、まずこの本を読んでおけと渡され たのが、土光さんの書いたベストセラーのこの本だった。手に取って、ぱらぱ らとめくっただけで、当時はゆっくり読む時間もなく、何となく置いてあっ た。さしたる感想もなく、義兄の社長からは「読んだか?」と聞かれて、「読 みました」とは答えたが、どれもが全くぴんと来ることはなかった。それはそ うだろう。そういう立場になっていなかったのだから、わかるはずがない。正 直に「あまりぴんと来ません」と答えておいた。 <人が多いとムダなことをする> ・それから実にいろいろなことがあり、会社は倒産し、2回転職し、資格を 取って独立した。その間、子会社の代表取締役や倒産した出版社の取締役など を経験し、その都度、この本が役立った。やはり、経営とは幾分か経験であ り、そういう修羅場をくぐらないとこの本の値打ちや書いてあることは分から ないかな、と思えるようになった。全編で100のフレーズがあるが、今回はそ の中でも最も気に入っているひとつの「人は不足気味にしていると育つ」とい う節を紹介する。反対の意見の方もあるかもしれないが。 ・その節には、正確には「人は不足気味にしておけ。そうでなければ人は育た ない」とある。人材が育っている職場は、得てして仕事の割りに人が少ない。 一人当たりの負荷が大きいが、それをあまり気にしないくらい実に仕事が効率 よく回っている。そして成果も出ている。逆に、何となく大勢いる職場では無 駄が多く、仕事中の集中力も低いようだ。ムダな会話が多く、雰囲気は和やか かもしれないが、どことなく緊張感がない。ぴりっとしていなくて、惰性で時 間が流れている感じがする。 ・ひとりひとりのメンバーが自分の能力以上の仕事を抱え、何とか効率的にう まく仕事を遂行しようとすると、そこには必ず知恵が働き、工夫があるはず だ。時間は24時間と有限だから、何とか時間内にうまく手際よく、無駄を排除 して進めるはずだ。常に時間を気にしながら、予定を立て、ときに飛び込みの 仕事も入る中で、要領よく片付けていく。手戻りがないし、一発でいろいろな ことが決まる。決して手を抜いているようには見えないが、コツを掴んでい て、実に気持ちがいい。人が多いとムダなことをする。 <異動をきっかけに仕事の棚卸しをする> ・逆に、そういう環境を経営陣は作らないといけないということだ。しかし、 一歩間違うと、非常に過酷な職場になり、3K職場などと揶揄されることに成 りかねない。紙一重のところもあるが、全員がベクトルを合わせて一生懸命に 目標の達成に燃えている職場は、見ていて気持ちがいい。営業の部署でも、数 字に執着し全員で今月の目標を達成するのに一丸となっている部署は活気が違 う。そういう職場の環境をどうやって作っていくか。それが幹部や経営陣の使 命であり、ミッションなのだ。 ・おそらく中間管理職からは、人手が足りないというブーイングが起こること もあるだろう。そういうときに安直に増員をするのではなく、本当に意味のあ る仕事は何か、必要な仕事は何か、やめてもいいものはないか、今一度点検し てみる必要がある。とくに、人事異動や退職などがあったときはチャンスだと 思えばいい。人の異動をネガティブにとらえずに、そういう非定常なときが何 かを変えるチャンスなのだ。成岡は4回転職し、3回単身赴任を経験し、職場 や仕事はそれこそ記憶できないほど変わった。 ・それでも、毎回何とかなっていた。初めはいろいろと教えてもらわないと分 からないことが多いが、一定の時間と経験を積めば、あとは自分でやり方を考 えればいい。あまり詳細に引継ぎをしたり、してもらった記憶はない。資料や 書類、最近ではデータがどこのフォルダーやサーバに入っているのかを教えて もらえば、あとはそれをどう活用するかは本人次第だ。人が不足気味の職場で は、常にこの仕事の「棚卸し」を自動的にやっている。組織は勝手に不要な仕 事を創り出すクセがある。 <メンバーの納得感が大事> ・毎回異動や転職をして、新しい職場や環境に行った都度、メンバーの「職務 分掌」を書いてもらう。毎日やる仕事、週末に必ずやる仕事、月次単位でやる 仕事、3か月に1回やる仕事、決算の準備でやる仕事など、仕事には内容と頻 度があるはずだ。それを全員もれなく書いてもらい、全員で点検する。メン バーの仕事を掌握するのが目的だが、それを書き出すことで仕事の「棚卸し」 をしている。「棚卸し」は員数を勘定するのも目的だが、不要な在庫を捨てる ことが目的だ。仕事も同じだ。 ・人を不足気味にしておくコツは、安易に欠員を補充しないことだ。あるい は、もう常識となっているやり方を人が不足気味のときに工夫することで切り 抜けることを考える。5名でやっていた仕事を、1名が何らかの理由で異動や 退職した際に、単純に補充をするのではなく、1名欠けた分を全員で分担する ようにする。そうすれば、仕事の質は良くなり、工夫や改善も生まれるはず だ。当たり前のように2時間残ってやっていた残業も、定時で変えるクセをつ ければ、やろうとすればできるものだ。 ・大事なことは、人を不足気味にして、メンバー全員に納得感があることだ。 一人でも横を向くとこれは難しい。経営陣がやることは、そのメンバーの気持 ちをひとつにさすことだ。補充をせずにオーバーワークを押し付けるのではな く、無駄を省き効率を上げ、生産性を高めるにはどうすればよいか。全員が知 恵を絞り、全員がアイデアを出し、全員がベクトルを合わすようにマネジメン トする。この本にはそのようなヒントになるフレーズが満載だ。以前、若かっ たときに読んでもぴんとこなかったが、今なら非常によく理解できる。本は読 み直すことが必要だ。