**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第763回配信分2018年12月10日発行 これからの中小企業経営の重要課題 経営する上での重要なキーワード:その5 〜失敗すれば、またやり直せばいい〜 **************************************************** <はじめに> ・「失敗すればやり直せばいい。」これは松下幸之助の名言語録にあるフレー ズだ。実際にはその後に、「やり直してダメなら、もう一度工夫し、もう一度 やり直せばいい。」というのが続く。しかし、この冒頭の「失敗すればやり直 せばいい」という単純な名言の方が、何かピンと来る。いったんトライして結 果が思わしくなくても、また反省して再度チャレンジすればいい。1回の結果 で諦めるようなものなら、所詮それは大したことはないと言っている。現実の ビジネスでは、初回にトライしてうまくいくことなどほとんどない。 ・事前に相当緻密に作戦を練り上げ、事業計画を作り、準備万端整えてスター トしたプロジェクトでも、やってみると意外なことが起こるのが普通で、当初 の描いた絵の通りいかないことが普通だ。いわゆるプロジェクトのマネジメン トには、その場その場の臨機応変さというのが、非常に重要になる。あまりに 当初の計画にこだわり、頑固にそれを守らないといけないと信じ切って、実は やっていることは大きく外れていたなどということは、ざらにある。つまり、 計画はあくまでも計画であり、現実を受け入れることが大事だ。 ・もうひとつ大事なことは、立ち止まって考えて、次の対策のイメージが浮か ばないときは、一時休戦も止むを得ない。格好悪いから、途中で止まるなど もってのほかと意気込まないで、どうも何かおかしいな、しっくりこないな、 と思ったら躊躇なく立ち止まって考える。自分のビジネスの感性や、それまで の経験則から学んだことと違っていると感じたら、改めることを憚らない。メ ンツも評判も関係ない。このまま進むと八甲田山死の行軍ではないが、全員討 ち死にする可能性もある。その時は、すぐに改める。 <大博打の投資はいけない> ・会社の命運を左右するような、乾坤一擲大勝負の失敗は、これはやり直せば いいというものではない。むしろ、そういう大勝負をかけないといけないとい う大博打を打つことの方がおかしい。そこまで追い込まれてからの勝負は、が けっぷち状態だから、もう後ろに下がれない。となると、覚悟が決まっている とはいえ、負ければ会社の存続に関わる。勝算があってのことだろうが、この 勝負に負けたら会社がなくなるという博打に似た勝負は、原則してはいけな い。しかし、当事者はそのことに気が付かない場合もある。 ・セカンドオピニオンも重要だ。特に、創業者が代表者の場合、ほとんど周囲 の意見を聴くことがない。創業者で、代表取締役で、社長で、大株主で、借入 の個人保証までしている人が、いったん言い出したプロジェクトに正面から反 対することは難しい。命がけでここまで創業以来やってこられた代表者にして みれば、自分がこれほど一生懸命会社のことを考えて提案している案件に、ど うして反対するんだと頭に来ているに違いない。オーナー経営者ににらまれる と、後がないからどうしても迎合してしまう。 ・成岡の経験では永年役員として在籍した出版社で、平成2年くらいだったか 15億円で新品の本社ビルを買った失敗があった。それが原因で会社が結果的に は破綻したのだが、この提案を当時の我々役員は全く止められなかった。そも そも、出版社で本社ビルを新築してうまくいった会社などないというのが、当 時の常識だった。なぜなら、出版社に来られる人は関係者であり、お客さん= 読者ではない。お客さんが来ないのに、ビルをきれいに新しくしても、その投 資効果がほとんどないことは、一目瞭然なのだ。 <失敗の原因を明らかにする> ・しかし、当事者になるとそうはいかない。足下は一生懸命見ているが、少し 遠い将来のことは見ていない。いや、見たくないので見ていないというほうが 正しいか。こういう社運を賭けたような投資で失敗すると、これは命取りにな る。こういう失敗は論外だが、ある程度の投資の失敗、チャレンジの失敗は、 これはつきものだ。小さな失敗の積み重ねから大きな結果が生まれるのだ。こ の小さな失敗は、経営者にとっては「投資」であり、社員や従業員の場合は 「費用」と割り切るべきだ。 ・特に若いうちの失敗は、会社は「費用」としないといけない。しかし、単な る「費用」として済ませると、またいつか同じ失敗を繰り返す。繰り返した失 敗は、費用とは見ない。それは明らかなミスであり、ロスであり、手戻りであ り、時間のムダを発生させた。失敗を費用としない最大のコツは、反省をしっ かり行い何が失敗の原因だったかということを分析しないといけない。失敗の 原因は分からないことも多いが、いくつかの原因は推測できるはずだ。準備の 不足が多いが、何の準備が不足していたのか。 ・あるいは、まさかのときの代替案が用意していなかった。人の予備の手当て がイメージ出来ていなかった。相手の情報を確実に入手していなかった。そも そも担当者の経験が足りなかった、など挙げれば一杯でてくる。すべてに対応 策を用意することはできないが、最も失敗の原因に近い重要なものから対策を 施す。やり直すまでに、その準備段取りができるかどうかも、大きなポイント だ。時間がないから見切り発車すると、ほとんど結果は満足できるものではな い。再チャレンジの場合は、成功の確率を上げないといけない。 <失敗は投資> ・松下幸之助の語録にある「失敗すればやり直せばいい。やり直してダメな ら、もう一度工夫し、もう一度やり直せばいい。」これを粛々と実践できる体 制、資金、時間、人材、設備など、言うのは簡単だが現実の経営の現場に戻る とハードルは高い。しかし、経営者の意識をそのように持ち続けるのは、特に おカネが要るわけではないし、時間がかかるものでもない。要するに経営者自 身の気持ちのありようが肝心なのだ。たった1回の失敗で、諦めるような提案 は、初めから出さないほうがいい。執念が感じられない。 ・以前、幸之助さんは「成功の秘訣は何ですか?」と聞かれたときに、有名な 返答で「成功するまでやり続けることです」と答えたという。特に新規事業や 製品開発などは、困難の連続だ。まして、誰もが経験のないことにチャレンジ する場合は、成功の確率はどんと低くなる。それに腰が退けてやらないより、 やってみて成功しないでもいろいろな情報が得られるはずだ。得られた貴重な 情報を精査し、次回に活かすことを考える。俗に言うPDCAの「C」つまり、 チェック=反省をどれくらいきちんとできたかが、成功と失敗の分かれ目だ。 ・時代はどんどん変わる。成岡が製造業から転職した昭和59年、1984年はまだ インターネットが普及していないし、パソコンもまだそれほど普及しなかっ た。Windows95が出たのが1995年だから、まだまだITなどという時代ではな かった。しかし、そこから30年。いまや、ソフトバンクで通信障害が起こった 4時間で社会がパニックになりかける環境だ。腰が退けてじっとしていては、 何も変わらないし起こらない。自らチャレンジして、投資をして、失敗から得 たものを糧にして、転んでもまた立ち上がって歩くことだ。失敗は、成功への 入り口と心得る。