**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第764回配信分2018年12月17日発行 これからの中小企業経営の重要課題 経営する上での重要なキーワード:その6 〜人生において「無駄な苦労」はひとつとしてない〜 **************************************************** <はじめに> ・これは京セラの創業者稲盛さんの語録にあるひとつだ。他にも稲盛さんの名 言、語録は山ほどあるが、いくつか気に入っているものの中から選んだのは、 これだ。振り返れば40年以上になる自分の社会人人生で、確かにいろいろなこ とを経験したが、これすべて現在の仕事の糧になっている。中学から高校、そ して大学を経て社会人になり、もうすぐ社会人生活45周年を迎えるが、確かに 何ひとつ無駄なことをしたとは思っていない。いや、それより山あり谷ありの 人生を正直楽しんでやってきたというのが実態だ。 ・思えば高校生活の大半は野球部の活動と勉強だった。文武両道をうたい文句 にした学校であり、クラブ活動だったからそれ以外のことは眼中になかった。 多感な少年時代に全く女っ気なしの6年間を過ごしたが、特にそれで支障が あったわけではない。大学の4年間は、大学での野球は諦めて、母校野球部の コーチ役を務めた。裏方だったが、これもいい経験になっている。そして、就 職活動の失敗。最後の役員面接で、不用意な発言をしたことがきっかけで某大 手商社の内定を棒に振った。これで人生が変わった。 ・想定外で就職した製造業ではオイルショック直後だったので、半分の設備が 止まり暗澹たる状態だった。仕事がなく半分の時間を独身寮でのテニスとマー ジャンに浪費した。復活したと思ったらまた二度目のオイルショックが起こ り、数回の希望退職を募ることになる。組合長が壇上で土下座して謝る姿を見 て、まだ若かったが非常にショックを受けた。その後組合の役員に誘われて8 年間の組合活動に従事することになるのだが、最初の社会人期間のこの経験と ダメージが、大きな教訓になっている。いい苦労をしたと思っている。 <いい苦労を選ぶ> ・32歳で転職したあとも、当初はバブルの絶頂期だったが、バブル景気が崩壊 するとメッキが剥げて、挙句の果てに80億の負債を担いで倒産した。多額の役 員報酬はなくなり、高額で買った株券は紙くずになり、担保に入っていた自宅 は競売にかかった。幸いにも、家が古かったので競売にかかっても誰も買わな かった。10年くらい不良債権として中小企業金融公庫の所有物になっていた が、底値で値切って買い戻した。70,000千円の担保債権物件を10,000千円に値 切り倒して買い戻した。数日後に権利書が戻ってきた。 ・以降の変遷は省略するが、意外と苦労の連続だった。どこでどう人生を間違 えたのかは分からないが、とにかく順調に歩んだことは一度もない。しかし、 無意味な苦労はなかった。無駄な苦労もなかった。渦中にいるときは、それこ そ必死だった。今でこそ冷静に当時の状況を振り返ることができるが、当事者 はその時点では足元のことしか見ていない。しかし、それはそれでいいのだ。 必死に向き合う時は向き合うしかないのだ。必死に向き合って、とにかくその 状況を何とか切り抜けることに全力で当たることだ。 ・意味のない苦労はしたくないが、無駄な苦労はひとつとしてない。意味のあ る苦労なら、買ってでもすればいい。単なる汗をかくだけの苦労や、つまらな い精神的な取りこし苦労はしたくない。切り分けて、何が積極的に取り組むべ きテーマ、または苦労なのかを明確に本人が意識することだ。人生に無駄な苦 労がないと感じた時から、その人の成長が始まる。起こっていることはすべて 事実としてとらえて、前向きに受け入れる。他人に責任転嫁しているうちはい い結果は出ないし、すべて自分に起因するものだと割り切ることだ。 <苦労して得たものは忘れない> ・若いうちの苦労は買ってでもせよとは、先ほど書いたが、特に若いうちには 限らず、人生ずっと苦労は買ってでもしたほうがいい。苦労と考えると後ろ向 きの話しになるが、新しい経験、体験だと前向きに考えればいい。今までにな い体験、経験だとわくわく感があるはずだ。未知なことには、当初戸惑いと恐 怖心があるが、一度経験してしまえば人間には免疫ができる。免疫ができると 非常に身体として強くなる。ところが、病原菌がうようよしているといって、 人ごみにでないといつまで経っても免疫ができない。 ・小さい子供が幼稚園にいくと、すぐに病気にかかるのは実は免疫が弱い、な いからだ。一度軽い病気にかかると、体の中に免疫ができて、抗体が生まれ る。この抗体が次に菌が侵入してきたときに防波堤になる。苦労も一度経験し ておくと、何事も経験だからこの苦労が次に生きてくる。あらゆるすべての場 面を経験することは不可能だが、一定の場数を踏めば、あとは応用問題だ。早 く一定の場数を踏むには、とにかく若いうちからどんどん苦労を経験すること だ。それも、簡単にできたことは意味がない。 ・苦労して、努力して、ようやくつかんだコツのようなノウハウは一生忘れな い。自転車に乗れた人は一生自転車に乗れる。一度泳ぎを覚えた人は、一生泳 げる。苦労しなくて手に入れたものは、意外と早く忘れるし、なくなる。経営 も同じで、順風満帆の事業承継のようなケースだと、いったん逆風が吹きだす とあっという間に転がり落ちる。成岡が役員で在籍していた企業がそうだっ た。創業以来順調に来たが、バブル経済の崩壊と共にあっけなく崩壊した。抵 抗力がなく、免疫がなかった。苦労してやってこなかった典型だ。 <気持ちを前向きに切り替える> ・社会に出て35年間、いろいろな業種、業界を経験したが、確かにいま振り 返ってみるとそのどれもが現在非常に大きな財産として生きている。転職した ときは当初戸惑いの連続だった。製造業から出版業、出版業から印刷業、印刷 業から人材サービス業といくつかの業界を見てきたが、いまそれぞれの苦労が 数倍の価値で生きている。規模感もいろいろだ。最初の製造業は一部上場の大 企業。配属された事業所は3000人の大所帯。転職した出版社は当初40名だった のが、あれよあれよという間に300人に膨張した。 ・あえなく崩壊した出版社の親会社だった印刷会社は70名だった。最後の人材 サービス業の会社は、繁閑の落差が大きく繁忙期は200名、閑散期は70名くら いに大きく変動する。これくらい大きく変動すると、人事のマネジメントも大 変だし、ファシリティも大きく変動する。これくらい大きく人数が上下する企 業も珍しいが、とにかく繁忙期に入る際の準備は大変なのだ。当初、移籍した ときは面食らってびっくりした。これもしかし経験のうちだと割り切ることが できるようになって、そこから腹が座った。 ・苦労と思うと気持ちが後ろ向きになり、足も出ないしやる気も起こらない。 これはしんどいがいい経験だと、気持ちを切り替えることが大事だ。そして、 この難局を乗り切れば、必ず一皮剥けると信じることだ。事実、修羅場をくぐ ることでぐっと成長した実感がわかる。自信が持てるようになるし、似たよう な場面に出くわすと、妙に落ち着いて対応できる。あんな苦労をしたんだか ら、こんなケースは大したことないと余裕ができる。どんな年になっても、苦 労は買ってでもするものだ。成長の肥やしになる。そして二度とできない。