**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第772回配信分2019年02月11日発行 これからの中小企業経営の重要課題 中小企業経営者に勧める7つの習慣:その6 〜セットアップの習慣〜 **************************************************** <はじめに> ・セットアップルーティンということばがある。スポーツの世界でよく使われ る言葉だが、試合に入る前の決まった手順と言えばわかりやすいだろうか。特 に、試合でなくてもあるプレー、ある場面、ある状況などの場合でも使われる ことがある。近いところでは、前回のラグビーワールドカップで多くのキック を決めた五郎丸 歩選手のプレースキックの前の動作が一躍有名になった。あ のおまじないのような一連の動作は、いっとき流行のようになり、多くのち びっこが物まねをした。一種のブームになった。 ・大リーグで活躍した(過去形かな)イチローのセットアップルーティンも有 名だ。ネクストバッターボックスにいる間の動作、バッターボックスに入る際 の動作、そして入ってからの動作などは、決まった手順、決まった順番があ る。そして、それを必ずおまじないのように繰り返す。全く意識しない一連の 動作で、見ていて非常に綺麗で美しい。よどみないという表現がぴたり合う動 作なのだ。偉大なスポーツ選手には、必ずこのセットアップルーティンという 一連の動作がある。ほとんどの選手が何かある。 ・スポーツ選手以外でも、歌舞伎の名跡、音楽家、役者や俳優、そしていろい ろな芸術家などにも、おそらくセットアップルーティンがあるだろう。プロの スポーツ選手はその動作がテレビなどで放映されるので、特に注目して見るこ とができる。芸術家などは、おそらく相当のクセや習性があるはずだ。自分が 意識していなくても、必ず何か大きなことにかかる際には、決まった手順があ る。あるいは、日常の作業に入る前、毎朝の習慣などは、一種のセットアップ ルーティンになる。気が付いていないだけだ。 <どこの現場でもあるセットアップルーティン> ・考えてみれば、ビジネスの現場でもこれは必ずある。成岡が10年間在籍して いた製造業の現場などは、これはもう徹底している。当然のことながら、現場 ではものづくりをしている。決まった手順がないと、品質に変動を来たした り、生産に齟齬が出る。ゆえに作業は必ず作業標準書というものがあり、これ を守らないといけない。しかし、丁寧に守っていても必ずしも全く同じものが できるとは限らない。原材料のロットが変わったり、何かトラブルがある。い つも、どこかで何かが起こっている。気が休まらない。 ・製造業であれ、卸売業であれ、小売業であれ、サービス業であれ、なにがし かのセットアップルーティンは必ずある。それを意識してやっているかどうか は別にして、必ず決まった手順というものがあるはずだ。一連の動作で、この 手順を決めて、守って、改善していくことは非常に重要だ。製品の品質もさる ことながら、多くは安全面の配慮もしてある。必ず、右側をこうしてから、左 側をこうすると、決めてある。これを逆にするととんでもないことが起こりか ねない。安全第一なのだ。 ・作業標準書、議事術標準書、設備標準書。この3点セットが当時の製造業の バイブルだった。しかし、昭和40年代の前半までは、製造業のノウハウは海外 の先進企業から技術輸入していた。成岡が入った企業でも、英語の膨大な紙の 資料が技術部の部屋に大事そうに飾ってあった。当時くらいになると、もうほ とんどの技術が海外の導入企業から離れて、一人前になっていた。しかし、他 の業界ではまだ難しかった。手順はセットアップルーティンに通じる。そこに 書かれている当り前のことが、実は非常に重要なノウハウなのだ。 <前日のやったことを時系列で書き出す> ・医療の現場や、航空機の離発着、鉄道の運行、道路の保守管理など、あらゆ る世界でこのセットアップルーティンは行われている。ホワイトカラーの現場 では意外とこれはない。なんとなく、職場に入り、何となく仕事が始まり、何 となく終わっていく。営業や経理総務などの現場では、このセットアップルー ティンが決まっていないことが多いようだ。サービス業でも、お客さん対応が 主になるからなかなかこちらの都合で決まりを押し付けられない。それを言い 訳にするので、いまだに生産性が低いとの指摘がある。 ・成岡のセットアップルーティンは、まず前日の出来事ややったことを朝から 晩の終了まで、逐一手帳に書いていくことから始まる。これはオフィスのデス クに座って、まず取り掛かる。朝にオフィスで仕事が始まり、どこどこにでか けて会議があり、誰それとランチを食べてから次に移動して某会社に行って誰 それに会って、そこからまた移動して会合に出て、また移動して夜の公的な機 関の理事会に出席して、終わってから懇親会があって某所で宴会があり、最後 オフィスに戻る。これを逐一思い出し手帳に書く。 ・この前日の出来事を時系列的に書いて、反省をする。生産性があったか、付 加価値があったか、無理無駄がなかったか、時間を有効に使ったか。意外と、 忙しい時ほど何もまとまったことをしていない。予定を粛々とこなしているだ けで、何も前向きのことをしてない。生産的なアウトプットを何も出さない で、ひたすら忙しく走り回っていた。そんな一日が結構多いのだ。忙しいのは いいことかもしれないが、放電ばかりで充電していない。そのうちに放電ばか りで、バッテリーがあがってしまう。 <今日の予定を時系列で書き出す> ・前日の反省をきちんとすると、そういう自分が明確に見えてくる。緊急のこ とばかりやって、重要なことは何一つしていないと思うと、愕然とする。次 に、その反省を踏まえて当日の仕事を時間を追って書いてみる。移動の時間 や、食事の時間なども考慮し、どのような順番でどのように動けば一番効率が いいかを考える。移動時間をいかに有効に使うか。食事の時間がないなら、ど の移動中に簡単に済ますか。最後はどこで終わるから、そこからオフィスまで の移動手段は何か。そこでは何ができるか。 ・パズルみたいな問題を、ひとつひとつ時間を入れて順番にシュミレーション する。移動の時間と時刻も明確に記入し、その一日のイメージが出来上がる。 これが非常に大事なのだ。このふたつの大きな作業を完全に終わらせてから、 当日持ち出す資料やデータを準備する。データはUSBに入れてオフィスの外に 持ち出す。この持ち出すデータの選択を間違うと致命的なので、ここは焦らな いで慎重に行う。講演のデータを入れ間違ったという大失態も過去にはあっ た。入れたUSBをオフィスに忘れたこともあった。 ・最近では、学習してさすがに大失敗はないが、それでも冷汗ものの綱渡りも ある。この朝のハイテンションのピーク時に電話が鳴ると最悪だ。まず、ほと んどの電話は出ないし、出られない。このセットアップルーティンは、実は 1980年に当時製造メーカーの技術屋で初めての40日間海外出張に連れて行って もらった際に、当時の上司であった鬼のS部長直伝で叩き込まれた。この偉大 な上司先輩から教わったことは、実はいま大いに活きている。また、教わった ことを改編して、愚直に継承している。