**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第776回配信分2019年03月11日発行 京都の老舗の家憲や家訓から学ぶシリーズ:第2回 祖先崇拝と信仰 **************************************************** <はじめに> ・京都の老舗家訓シーリズの第2回目は「祖先崇拝と信仰」だ。少々古臭い感 じがするが、京都の老舗の特に商家には、独特の信仰と崇拝のルールがある。 大手アパレルメーカーの敷地には神社まである。あるいは、本社の屋上に鳥居 と社を構え、経営陣が定期的にお参りをする習慣がある。なにを古臭いと馬鹿 にする方もいるかもしれないが、当人たちは大真面目でその仕来たり、行事を 粛々と続けている。何があっても、どんなことが重なっても、これだけは欠か さない。そういう強い意志を垣間見ることができる。 ・今では先端素材の開発と製造で著名な企業である、福田金属箔工業株式会社 に残されている「常盤家の苗」という家訓には、「儒仏神 三教ハ神ハ木之 根、儒ハ枝葉、仏ハ花実・・・・」とある。「朝起第一、手洗神拝仏前ヘ先祖 之拝帳面毎日・・・・」とも書いてある。家を永久に相続していく者の心構え として、祖先を崇拝し、その祭礼を重んじて営み、祖先の功徳を偲び、加護を 祈りつつ祖先の恩恵に報謝することが、とりもなおさず祖先の心をわが心とし て家業専心していくことの基本と定めてある。 ・前号にも出て来た西陣の木村卯兵衛家の「家法定書」には、「神社仏閣ヘ願 文信心致、物見遊山止めにして売体用透ニハ家内之者始手代子供相つれ参詣之 事」とある。先祖の法要や墓参りは特に重要な行事で、神仏の信仰生活が求め られ、家業の合間に家族はもちろん奉公人もすべて神社仏閣への参詣をして、 物見遊山の遊興をしないことが肝要であるとしている。現代の企業の代表者に しては、非常に耳の痛い家訓ではないだろうか。祇園で飲むより、先祖の墓参 りに励めとの厳しいお達しだ。 <定期的に墓参参詣する習慣> ・特に先代の命日には、月参りと称して墓参し、その日は特に精進をしたりし て、そのことを掟としている企業もある。命日を特定し、けじめとしてその日 に合わせて業務のリズムを作っている会社もある。先祖を敬うという意思が、 企業の継続の原点なのだ。京都の老舗には、先祖の法要、神儒仏の信仰が家訓 の中に明確に記されており、先祖に対する報恩感謝、神仏儒三教の信仰生活が 家名存続の極めて重要な条件であった。また、特定の神社仏閣に参詣すること が必須の行事であった。 ・北野天神、祇園八坂神社、愛宕山などへの参詣参内は決まった日に決まった ように行うことが求められた。現代から見れば、なんとバカみたいと思える が、くそ真面目にこの行事を続けることがミッションだと信じて疑わない。そ ういう頑ななところが、老舗の強みでもある特徴でもあるのだろう。しかし、 あまりそれが高じると創業家の横暴のようなことになり、現代では通用しない 習慣になる可能性もある。関東の著名な企業では、正月の2日に創業者のお墓 に経営陣が全員揃って墓参するという。 ・昭和の時代ではそれも通用したかもしれないが、現代の近代的な経営を目指 す企業では、この習慣はおそらく通用しないだろう。創業家の墓参りをするよ り、もっと勉強することがあるだろう。感謝の気持ちの墓参は大事かもしれな いが、それは創業家だけで行う行事でいいのだろう。すべての役員、経営陣を 巻きこんで強制的に創業家の先祖崇拝を押し付けるのは、少し時代錯誤と感じ られても仕方ない。このような習慣も、時代と共に変わっていいのだ。頑なに 守ることと、時代に合わせて変わることのバランスだ。 <信仰から指標が見えてくる> ・神儒仏の三つの教に関しては、斎藤家の祖先久兵衛の遺言に、「神儒仏の三 道者人の一生無事ならん事を教しものなれば、必ずおろそかに思うべからず、 神というも元聖人、儒というも元聖人、仏というも元聖人、是皆元聖人、その 教方は違えど元一つなることを知るべし、一なること知らば背くまじきこと」 とある。少々長くなったが、三教は人の道の根元であり、功徳の母であり、信 じる者にのみ道は開かれるものであるとして、三教の信仰生活を代々子孫に明 確に要求している。相当なプレッシャーだ。 ・向井長好氏所蔵の「家内論示記」には、「神ハモト、儒ハ枝葉、仏ハ華、釈 迦ノ分レ身、是ミナ神仏ノ教、信ズベシ、信ズベキニアリ」とある。神儒仏の 三教は、当時の彼らにとっては精神修養の基本であり、指標でもあった。そし て、「三道は金銀銭のごとく、一方欠けても身を治めるに悪かるべし」とあ る。三教一致、心を磨き、身を修め、家を整えるための指標であった。何事に も、迷うこともあるが、そういうときにこの祖先崇拝の精神があると、心のよ りどころとすることができる。祈ると何かが見えてくるのだろう。 ・当時、士農工商の身分制度の一番最下層にあった「商人」「商売」というも のを立派なビジネスだと確立した石田梅岩の石門心学には、この神儒仏の三教 は「心の磨種(ときぐさ)」であり、祖先を敬い神儒仏の功徳を得んとする信 仰生活は、天地をはじめ国家、社会、親族の関係に至るまで報恩感謝の気持ち で貫かれ、主人には「忠」、親には「孝」、家名は「相続」、家業は「継承」 を明確に定めている。そして、陰徳を積み、正直正路の渡世と勤勉忍耐の生活 態度を説いている。なんとも現代に欠けている精神ではないか。 <経営者が態度行動で表す> ・ひるがえって、今日の我々の企業経営にどのように活かせばいいのだろう か。まず、精神的にはなにかよりどころになる確固たるものを持つことが大事 だ。それが、「神」であるか、「儒」であるか、「仏」であるかは別にして、 迷ったときに立ち返る原点のようなものを、この三つの教えから導き出すとい い。宗教に対する信仰というより、何か哲学的な考え方の「芯」になるものを この三つから自分なりに会得することが必要だ。そして、その意思を確認する ために定期的に参拝する。自社の守護神のようなものだ。 ・先祖の墓参も大事だ。命日にするか、創立記念日にするかは別にして、定期 的に祖先に対する畏敬の念を表すために、墓参することで決意を新たにするこ とができる。いくら心で念じていても、態度行動、形に表すことが重要だ。成 岡も、先祖の命日をおおよそ合算して、毎月14日と決めている。偶数月は墓参 を、奇数月は仏壇に参り、祖先の霊に感謝する。祖父は某大手企業の代表者を 永くしていた。父は大学の教員だった。代々承継したビジネスはないのだが、 それでも敬う気持ちは変わらない。 ・中小企業は所有と経営が一体化しているので、家も会社も同じ目線で見てい ることが多い。日常日ごろは感じないが、創業家が残した考え方のルールを重 んじることは重要だ。その行動や表し方は時代の変化と共に変わってもいい。 いや、変わらないと続かないだろう。しかし、メンタル=精神的なものまで変 えてはいけない。また、従業員にもその精神を説いて、共有賛同してもらう必 要がある。決して強制ではないが、経営者の生きざまに賛同してくれている社 員なら、行動を共にしてくれるだろう。気持ちのベクトルを合わすことが大事 だ。