**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第801回配信分2019年09月02日発行 事業承継のいろいろなパターンを検証するシリーズ第4回 〜不本意な事業承継は逆に改革のチャンス〜 **************************************************** <はじめに> ・一族同族への承継で一番多いのは直系長男への承継だと思うが、外から見れ ば至極当然の同族への承継だが大半の実態は、必ずしもそうではない。現在の 代表者の年齢と、ご子息の年齢の差は、おおむね25歳から30歳。つまり干支で 言うと2回り以上違うのが大半だ。学校で言えば、大学を卒業して数年経過し たころに、子息が生まれていることになる。世の中の動きも全く異なれば育っ た環境も全く異なる。受けた教育も違えば、経済環境もまるで異なる。同じで あるはずがない。そもそも、違うのだということを前提に考えないといけな い。 ・この育った環境が異なるというのは非常に大きい。常識も違うし、判断の基 準も違う。友人知人の人脈も異なれば、受けた教育も違う。海外の環境も全く 異なる。このような大きな違いがある中で育った後継者と、昭和の30年代の教 育を受けて生きてきた、現在の代表者とがものの考え方、判断基準の違いなど があって当然なのだ。さらに、それに加えて経営の経験が異なる。代表者は30 年近く、いい悪いは別にして何とか経営をしてきた。しかし、後継者の子息は 経営の経験は乏しい。これは時間軸からしても、致し方ない。 ・ならば、経営の経験を少しでも積んでもらうことが大切だ。経営環境を良く して、早くに経営を任すのも、ひとつの方法だ。京都市内の某金属加工の先端 を走るS社では、先代が60歳、後継者が30歳前後のときに承継を断行した。経 験が乏しいのを承知で、立場が人を作るという発想だろう。敢えて経験がまだ 乏しい後継者をその立場に置いた。そして、自分は一歩下がって後ろから見 守った。何かあれば、まだ自分が出ていけるエネルギーがある間に承継を行う のが妥当との判断だろう。これはこれで立派な判断だった。 <土壇場で知らされるネガティブな情報> ・逆にいつまで経っても心配が先立つあまり承継をずるずる先延ばしする経営 者も多い。経験が乏しいからというのが理由だが、それは現在の経営者の責任 でもある。多少未熟でも経営の現場に掘りこんで、相当の苦労を敢えて背負っ てもらうという艱難辛苦の経験を積ます環境を作らないといけない。それは現 在の経営者の役目であり、責務でもある。それをせずに、後継者の経験が乏し いことを理由にしてはいけない。その環境を作る責任は、もちろん当人にもあ るが、現在の経営者にもある。自分自身の問題だ。 ・後継者が不本意ながら、承継を受けざるを得ない事情が生じて、いやいや承 継を承諾するケースも多い。準備不足、借入過多、業績不振、債務超過、組織 未成熟、人心荒廃など文句を言えばきりがない。完璧に環境を整えてという ケースは少ないから、何かが欠けている場合が多い。やはり、経営の根幹は、 人、モノ、カネだから、このうち2つが欠落していると圧倒的に不本意な承継 になる。しかも、それが土壇場で知らされることが多い。今まで具合の悪いこ とは、敢えて伝えてなかった。土壇場になって知ったネガティブ情報のインパ クトは大きい。 ・まだしも相当前から、自社の実態を知らされておれば、まだ心構えもできた だろうが、承継の直前になって情報公開がなされると、圧倒的に疑心暗鬼にな る。わざと知らさなかったのだろうと、邪推することになる。何か言いたくな い、後ろ向きの理由があったのだろうと、親子間での信頼関係が崩れる。想像 しなくてもいい理由を考えたり、不要な心配、心労を背負うことになる。そう なると、本業に力が入らない。圧倒的に多い借入金の明細や、それが多額に なった理由を聞いてもはっきりした理由がわからない。 <開き直る絶好のチャンス> ・不本意な理由は他にもある。先代が採用した幹部や社員が、まだ大半だから 各自の処遇が後継者にしてみれば、承諾できない。自分なら、Aさんをもっと 厚遇すべきと思うが、先代はそうは思っていない。逆に後継者から見れば能力 が劣っているBさんの処遇が手厚い。何か、いきさつや理由があるのだろう が、ブラックボックスでわからない。現在の社長に聞いても、なかなか理由が 見つからない。賞与での評価のアップダウンはまだ可能だが、給料となると生 活問題に発展する可能性も高い。そうなると手が付けられない。 ・得意先や仕入れ先も気に入らない。また、ITやデジタル関連も相当に大きな 相違がある。若い後継者は自在にデジタル機器を操るが、年配の代表者はいま だにパソコンが苦手で、メールのやりとりができない。電話とFAXでの通信に なり、コミュニケーションがとりにくい。最近知り合った70歳を超えた経営者 の方とは、携帯電話以外のコミュニケーションの手段がない。非常にストレス になり、次第に避けるようになる。あまり重要でないことで忙しい時に限って 電話がかかってくる。それだけでも、相当のストレスが溜まる。 ・不本意な承継が行われると、確実に数年間は業績が低迷する。逆に不本意を 逆手にとって開き直って後継者が思い切って大きな改革、変革を行えるチャン スでもある。京都市内のE社は娘婿さんが承継したが、あまりの業績の悪さ に、つぶれても仕方ないかと開き直って、最後の最後に乾坤一擲大勝負に打っ て出た。これがダメなら潰れても仕方ないと腹をくくっての英断だったから、 失うものは何もない。こういう一種博打に似た開き直りは非常に強い。見事に 逆転満塁ホームランとなり、現在は順調だ。しかし、あまりこの真似をしては いけない。 <不本意な承継のときこそ革新のチャンス> ・不本意な承継なら、時間をかけて不本意な内容を取り除かないといけない。 しかし、時間をあまりかけている余裕がない場合が多い。京都市内のS社は金 属加工の企業であるが、リーマンショックの時に大きく業績が落ち込んだ。京 都の有名ナショナルブランド企業の直轄の下請け企業だったから、その企業が 業績順調なときは全く問題なかったが、いったんその企業の業績が落ち込む と、底なし沼になる。案の定、奈落の底に突き落とされたような状態になっ た。先代の経営者はなすすべもなく、茫然自失。そこで、長男が乗り出す。 ・反対もあっただろうが、強引に交代を迫り、最悪の業績のときに経営者交代 を行った。これ以上悪くなることはないと、がけっぷちの承継だった。その 後、若手の経営者は次第に実力をつけ、自社開発の新製品を生み出し、現在そ の自社新製品が主力になるべく、奮闘している。これは、不本意どころかこれ 以上の最悪はないという開き直りの承継に属する例だ。もともと不本意だった のだから、とにかく改善では追い付かない。改革に近い、半ば強引とも言える 大ナタを振るわないといけない。しかし、環境からすれば、やりやすい。 ・不本意なら不本意なりに、開き直るか、大胆に行くか。とにかく、平穏であ るはずがないので、前を向いて走るしかない。あまり、いろいろなことを考え ないでいいので、ある意味割り切れる。とにかく、業績を良くしてまともな状 態に一日でも早くもっていく。一心不乱にそれに集中してやれば、出口は見え てくるはずだ。心配なのは、心が折れそうになることだ。そういう状態のとき に、リセットする方法を身に着けておくことだ。気分転換、リフレッシュ、頭 の切り替えが大事だ。不本意な承継のときほど、革新が生まれるチャンスがあ る。