**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第802回配信分2019年09月09日発行 事業承継のいろいろなパターンを検証するシリーズ第5回 〜妹婿・娘婿に承継するケース〜 **************************************************** <はじめに> ・直系男性親族に承継者候補者がいない場合、真っ先に候補にあがるのは女系 親族の配偶者だ。つまり、代表者の妹婿、娘婿だ。こういう承継は世間ではよ くある例で、このパターンで成功して業績を大きく伸ばしている企業も多い。 なにせ、男性、女性の確率は半々だから、男性直系の承継者がいない場合の確 率は平均して50%になる。約半分の企業で直系男性の後継者がいないというこ とになる。そうなると、おっつけ近くにいる存在の女系の親族の配偶者が最も 近い承継候補者になるのは、至極当然の成り行きだ。 ・なにを隠そう、成岡も妹婿であった中小企業の義兄の代表者に誘われて32歳 で転職した。家内は4人兄弟の一番下で、代表者の義兄と成岡の年齢差は10 歳。代表者が42歳でまだばりばり現役のときに、声がかかり32歳で製造業の メーカーの技術者を辞めて転職した。義兄の経営している出版社、印刷会社に 転職し、まず出版社に入社したが、転職してから気が付いたのは、ほとんどの 役員が同族だったということだ。7歳年上の2番目の義兄と、家内の姉のお婿 さんも会社に在籍していた。そして、義兄の従兄弟が常務だった。 ・同族一族のオンパレードだが、10歳年下の末席取締役だったので、当初の職 責は軽かったが、次第に重責を任されるようになり、会社が破綻するまで第一 線で飛び歩いた。残念ながら経営破たんに至り、株式の購入代金3000万円の負 債が残り、担保に提供した左京区の自宅の処理に多額の費用がかかった。所 詮、妹婿といっても一族には相違ないが、もともの他人であることには違いな い。血統のDNAは異なるので、生活習慣から始まる文化の違いにはついていけ ない面がある。また、生い立ちから来るものの考え方にも相違が多い。 <妹婿より娘婿> ・4人兄弟は珍しく、たいていは2人または3人だ。となると代表者が長男 で、その妹婿となると年齢が接近している場合が多い。2歳年下の妹婿が、 ちょうど代表者と同年齢というケースに近い場合が多いだろう。そうなると、 妹婿は後継者になり得ず、最後は代表者とならずにナンバーツーという黒子の 立場で終わることになる。成岡のケースのように、10歳違いと言う妹婿の場合 は、比較的珍しい。年齢があまり近いと、次世代の後継者になり得ない。代表 者の姉の子供、つまり甥になるとちょうどいい年齢差になるだろうが。 ・成岡の周囲の企業でも、妹婿が代表者をしている企業が数社あるが、たいて い何らかの特殊な事情で就任したケースが多い。代表者が不慮の事故で急逝さ れたケース、突然の理由で先代が長男の後継者にダメ出しをして無理やり妹婿 を迎えたケース、兄が別の企業に就職し東京に転勤になり、間違いなく承継し ないと母親が諦めて妹婿を口説いたケース、などなどそれぞれそれなりに止む を得ない事情で承継したケースが多い。順当に考えれば、他の選択肢がなく て、妹婿しかなかったというのが実態だろう。うまくいかないケースも多い。 ・それに比較して、娘婿というケースは非常に現実的だ。まず、男性直系の子 息がいないので、女性の子息が候補者になるが嫁いでしまって対象にならな い。しかし、夫が何らかの理由で妻の実家のビジネスを承継する場合なので、 非常に自然な感じがする。結婚した時点でそれを意識したというより、その後 しばらくして妻の実家の商売の事情を詳細に聞いて、妻のお父さん、つまり現 在の代表者から口説かれたという場合が多い。結婚当初は意識しなかったが、 その後事情を聴いて人生の進路を変更した。覚悟があっての転職だ。 <覚悟の転職が成功要素> ・先に先代が口説いたか、自らそれを言い出したか、どちらが先かというのが のちのち問題になったケースもある。先代が重たい病気になり見舞いに来た娘 婿と会った時点で、そのような会話があった。どちらが言い出したかは定かで はないが、結果的に娘婿がそのときの会社を辞めて妻の実家のビジネスに転職 した。その後、順調にいけば特に問題はないが、その企業は10年してから業績 が低迷し、先代の代表者が転職してきてくれた娘婿への承継に疑問を感じ出し た。そして、最後は娘婿にダメ出しをする決断をした。 ・ダメ出しをしてからが悲惨だった。前職を辞めて妻の実家の商売を継ぐ覚悟 で転職した人に、妻の父親がダメ出しをした。社内は混乱し、従業員は不安を 感じ、当然業績も低迷することになりかけた。しかし、代表者の行動は素早 く、ダメ出しをしてから即刻外部の仲介会社に委託しどこか買収してくれる企 業を探すことを始めた。幸い、業績が順調で資産も問題なかった企業だったの で、他府県の同業者と目出度くお見合いから速攻の結婚に至った。現在も順調 に業績を伸ばしており、従業員も従来通りハッピーな毎日を過ごしている。 ・開き直った娘婿の承継で、会社が生まれ変わったケースもある。全くの門外 漢だったが、妻の実家のビジネスがもう立ちいかなくなり、救世主のような立 場で承継した例が数社ある。ほとんどが、落下傘で降り立った娘婿が、ドラス チックに改革を行い、それまでのビジネスを払拭して異なる企業文化を根付か せ、大きく業態転換して成功した企業も多い。我々は仕事柄成功したケースし か知らないが、とにかく開き直って大胆に業態転換した場合が多い。それまで のビジネスモデルに固執していたのでは、早晩廃業、いや破産になっただろ う。 <代表者の熱意が動かす> ・周到に準備して、娘婿を迎えたケースもある。娘二人しかいないから、早く から代表者は長女の夫に目を付けていた。しかし、拙速に迎えて失敗しては、 もとも子もない。慎重に見極めるために、まずその人となりを知らないといけ ない。機会を見つけては一緒に食事をし、ゴルフに誘い、さらに飲んで、その 人となりを知ろうと努力した。自社で開催した休日の会議に参加させたことも ある。さらに親交を深め、ころは良しとばかりに一気に口説きにかかった。い い会社に勤めていたが、妻のお父さんの攻勢に落とされた。 ・その後迎えた長女の夫は、一定期間それぞれの部署を経験し、現在は子会社 の代表に就任し、東南アジアの子会社の社長として単身赴任している。数年先 には帰国し、早晩承継するだろう。現在の代表者の周到な準備と、それができ る環境にあることが成功の要因だ。ことは重大だから、拙速に行ってはいけな いし、時間をかけて後継者として育てないといけない。大企業で優秀だったか ら、中小企業である自分の会社で果たしてやっていけるのかは、別問題だ。失 敗するケースもある。大企業にいた人は、頭のリセットができない場合があ る。 ・男性直系の後継者がいない場合、妹婿、娘婿は、最優先の選択肢になる。し かし、血族ではなく、あくまでも他人だ。そして、結婚した時点で妻の実家の 商売を承継する意識がない場合が多い。承継の意識のない人を、きちんと説得 し、説明し、転職させ、迎えて力を発揮さすのは、現在の代表者の重要で重大 なミッションだ。きちんとした業績の説明なくして、一時の感情に押し流され ての説得は、後世に憂いを残す。覚悟を決めたら、会社の将来の運命を託す人 材なのだ。決して思い付きではなく、必死に考えた結論なら、心を動かしてく れるはずだ。