**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第805回配信分2019年09月30日発行 事業承継のいろいろなパターンを検証するシリーズ第8回 〜渡す側が兄弟の場合の処遇〜 **************************************************** <はじめに> ・受け取る側の兄弟の問題もあるが、渡す側、つまり現在の経営者、代表者、 経営陣が兄弟で構成されている場合、これもなかなかやっかいな問題が起こる 可能性が高い。ほとんどの場合、長兄が代表取締役になっている。そして、次 兄が副社長か専務取締役などの役職に就任している場合が多い。そして、年齢 も2歳か3歳くらいしか違わないと、代表者が後継者に承継するときに、次兄 の専務も一緒に退くことになる場合が普通だろう。となると、代表者と専務の 2役を次の後継者が一人で背負わないといけないことになる。 ・代表者と次兄の専務の役割分担が明確な場合が多いだろうから、2人分の業 務を次の代表者の長男が一人で背負わないといけない場合、相当以前から準備 に時間をかけて、じっくり構えて承継の段取りをしないといけない。それで も、100%円滑に引き継げるかというと、ことはそう簡単ではない。代表者や 専務の個人的なキャラクターやいままでの経過、いきさつに顧客や得意先が くっついている場合が多い。こういう承継は、なかなか後継者ですといって簡 単に引き継げるものではない。場合によっては、得意先が離れることもある。 ・代表者の長男だから、次男だから、全く同じように得意先がつきあってくれ たり、仕入先が従来の条件を守ってくれるとは限らない。それくらい、ビジネ スは厳しいと覚悟した方がいい。特に何か落ち度があったり、瑕疵があったり すれば、理由は明確だが、そうではなくて、なんとなく数字が減ってきて1年 経過したら従来の半分になっているという現象は、よくあることだ。後継者の 能力不足や力量不足ならまだ諦めもつくが、特に原因がわからない状態で業績 がどんどん落ち込んでいくことがある。これは少々難儀な課題だ。 <代表者の兄弟が同時に抜けるか> ・社長と専務が同時に引退という場合、得意先、仕入先の引継ぎの問題以外に も、いろいろと社内、社外には課題が山積する。まず、退職金をどうするか。 同時に二人に払うとなると、場合によっては相当の金額を用意しないといけな い。社外に積み立てていればまだしも、業績が悪い企業ではそんな積立金など はない。20年くらい代表者や役付き役員をやっていると、計算上は相当な金額 の役員退職金に税金がかからずに受け取れる。これは特別損失になるから、支 払ったその決算期は大きな赤字を計上することになる。一気に業績が悪化す る。 ・本当に払うのか、という問題もある。社長と専務は長兄と次兄の関係だが、 個人の生活は全く別々だから、個人の家の経済状態まではわからない。住宅 ローンが残っている場合もあるだろうし、子供が遅かった場合は、まだ大学生 という可能性もある。とにかく、リタイア後の家の経済状態が円滑に回るよう にしないといけない。完全にハッピーにリタイアメントは難しいが、それでも 後顧の憂いなく引退してもらうには、相当の準備がいる。また、そういう条件 をクリアーしないといけない。保証の問題や担保の問題もつきまとう。 ・代表者が全体をマネジメントしていて、次兄の専務が実務を管轄している ケースが多い。代表者のマネジメントは引き継げても、実務は一定の経験が必 要になる。実務は売上や利益に直結しているので、次兄の専務が抜けると、業 績に大きなマイナスの影響を及ぼす。そういう場合は、長兄の代表者が抜けて も、専務はそのまま残留する可能性もある。後継者が代表者になり、数年間は 次兄の専務が実務を承継できるまで、残るケースも多い。しかし、これも何と なくいびつで、本当に承継がなされたとは言い難い。外から見ても、好ましく ない。 <長兄がCEOになって混乱した> ・代表者が会長になり、代表権を持ったままCEOになると言い出した企業もあ る。結構規模の大きな企業で、従業員も40名くらい。売上も製造業だから10億 円近くある。業歴も永く、いい得意先が多い。この企業では、長兄と次兄の年 齢差が2歳しかない。次兄の専務はずっとナンバーツーのポジションで、あま り目立たず長兄の社長を支えてきた。おカネ周りのことや、総務的な雑務、官 公庁との交渉や手続き、労務関係などのバックヤードを一定に引き受けて、そ の結果長兄の社長が自由に対外的に活動できた。 ・長兄の社長にしてみれば、未来永劫に次兄の専務が社長になる可能性はな い。あまりにそれではまずいと思ったのか、突然自分がCEOになり、次兄の専 務を社長にすると言い出した。周囲はその発言の真意がわからず、しばらくの 間混乱した。立派だと思うが、中小企業に不釣り合いなCEOという職制の意味 が分からないまま、ことが進行しその結果組織の指揮命令系統が混乱し、社内 がざわざわした。結局、この騒動は会長の勇み足という結果になり、いつの間 にかなくなった。慮っての処置だったが、中小企業ではそぐわなかった。 ・最終的には、次兄が社長になり2年間務め、その後会長の長男に承継した。 代表者の変更が2年間に2回起こり、手続き上も費用も相当かかった。何より 社内が混乱し、後味の悪い結果となった。長兄が次兄を慮ってのことだった が、やはり企業の実態に合わない処遇は組織に受け入れられない。誰が悪いと いうことではないが、この承継のミスは相当後に尾を引いた。この空白の2年 間で一番こたえたのは、優秀な若手の社員が退職したことだった。やはり中小 企業とはこういうものかと、愛想が尽きたと彼は語った。 <目線は常に市場に向ける> ・ナンバーツーのポジションだから力を発揮する人もある。トップに立つと意 外とその実力が発揮できない人もある。本当にいろいろなケースがあり、何が 正しく、何が間違いとは言えないが、その企業の空気、風土、文化に合わない 承継は、おそらくうまくいかない。確かに永年苦労して長兄を盛り立ててきた 次兄の専務の功績は大きい。その功績に対し、一度は社長と言うポジションに 座って欲しかったという長兄の社長の気持ちも分からないではない。しかし、 果たしてその配慮が正しい結果を生むかと言うと、そうでもない。 ・ビジネスは最後は結果なのだ。結果は、お客さんや得意先、仕入先、金融機 関、従業員などの利害関係者が証明してくれる。一族同族の、兄弟間の思いや りなどは、意外と評価の対象にならないかもしれない。次兄の功績に対して は、社長と言うポジションを一度経験してみさせたいという配慮より、別の形 で報いることが正しかったのだろう。それはポジションではなく、退職金であ り、名誉であり、リタイアしたあとの処遇であったりだ。身内のことに気を使 うより、目線は顧客や市場に向いていないといけない。 ・もとより本人がどう思うかも大事だ。果たして本人が、それを希望していた か。一度は社長と言うポジションに就いてみたいという「欲」があったか。そ れは、長兄の思い過ごしではなかったか。経営陣の人事は、中小企業ではトッ プの専管事項だ。誰もこれに対しては手出しはできない。だからこそ、余計に 慎重に、かつ大胆に決断しないといけない。目線は常に内側より、外側つまり 得意先であり、顧客であり、市場だ。最終的には数字の結果が証明する。一族 への配慮より、会社の成長とは何かを優先する決断をすべきだ。