**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第806回配信分2019年10月07日発行 事業承継のいろいろなパターンを検証するシリーズ第9回 〜中小企業の株式・株券〜 **************************************************** <はじめに> ・日頃中小企業を経営している経営者の方で、株式や株価を意識することはま ず100%ないと断言していいだろう。東証などに上場している大企業ならいざ 知らず、非上場の中小企業では株式や株価を意識して経営することは、まずな い。あるとすれば、1年間の決算が出て、税理士さんが株価を計算し、社長の 会社の株価はおおよそいくらですよと、言ってくれるときくらいだろう。ある いは、息子に譲らないといけない株式が多くあり、贈与税のかからない範囲で 毎年少しずつ株式を後継者に贈与する、その時くらいだろう。 ・株価のベースは資本金だが、この資本金も日常意識することはほとんどな い。忘れている経営者の方もいらっしゃるくらいだ。300万だったか、500万 だったか。あまり日常の経営には大きな影響を及ぼさない。何かの折に、そう いえばうちの資本金は500万だったと、改めて意識するくらいだ。特に、後継 者は自分で会社を作った経験がない人が大半だから、自分が自己資金を出した 資本金などとは、縁遠い世界の話しだ。となると、ほとんど日常の業務で資本 金を意識することはない。意識しないから、債務超過になっても気にしない。 ・大企業では債務超過になること自体が、大問題になる。ところが、中小企業 の債務超過状態は珍しいことではない。決算書を見れば債務超過かどうかは、 一目瞭然にわかる。債務超過状態は、資本金を赤字が食いつぶし。さらにマイ ナスになっている状態を指す。過去に何らかのトラブルがあった。その結果、 大きな赤字が数年継続して、挽回もできず現在に至り、不本意ながらマイナス になっている。しかし、だからと言って通常の業務に大きな支障があるわけで はない。だから経営者の方は、あまり気にしない。 <3000万円で株式を買えと言われた> ・そもそも、株式があること自体を意識していない。上場企業なら株券を発行 し、紙に印刷した株券が発行されている。どこかの金融機関の貸金庫などに厳 重に保管されていることもある。しかし、中小企業の株式は、ほとんどが不発 行だから、形がない。見たことも、聞いたこともない株式が、事業承継や相続 のときに、俄然問題になることが多い。日常見ていない株式のことを、急に言 われてもわからない。まして、株価がいくらだから、いくらで買う、売る、な どということはめったに経験することではない。ぴんと来ない。 ・成岡も以前に在籍していた同族の出版社で自分が株式を購入する場面に出く わした。創業以降、苦労して会社を継続してきた一族の会長が引退することに なり、数年前に転職した成岡が、その引退する会長の持っていた株式を買うこ とになった。成岡本人は、全く寝耳に水の話で、突然社長をしていた義兄の社 長室に呼ばれて今度会長が引退するから、その会長の持っている株式を買うよ うに言われた。一族の役員だから、株式を持ってもらわないと困るというのが 義兄の社長の理屈だった。そう言われても、全くどうしていいかわからない。 ・さすがに、株式には価格、値段があることくらいはわかっていたので、「い くらでしょうか?」と質問したら、いま税理士さんに計算してもらっているか ら、追って通知すると言われた。そして数日後、購入する全社の10%の株式の 金額が、なんと3,000万円だと知らされた。当時、愛知県から京都に戻り、 3,000万円で建売住宅を左京区に買ったところだったので、おカネはありませ んと言った。そうしたら、子会社からおカネを借りて購入するように言われ た。本体の会社から役員が借入すると、決算書に記載されるのでまずいのだ。 <子会社からの借入が重たい荷物に> ・どうして購入する金額が3,000万円になるのかという説明はなかった。当 時、おそらくその説明を聞いても、理解はできなかっただろう。とにかく、 トップの命令には従わざるを得ないので、納得はしていないが承諾した。かく て、子会社から3,000万円を借入して、10年間で返済することになった。返済 金は毎月の役員報酬から天引きされた。ただ、当時まだ業績が良かったので、 毎年なにがしかの配当はあった。配当で幾分かのカバーはできた。しかし、毎 月の返済金額を全部カバーするには至らない。相当の持ち出しになった。 ・中小企業で、一族同族の役員になると株式を所有するのが常識だと、そのと き初めて知った。しかし、最後の最後まで、株券を見たこともなければ、触っ たこともなかった。結局、会社は平成8年に特別清算で破たんすることにな る。結局、その時点で子会社から借り入れた相当多額な借金だけが、手元に 残った。子会社も、その倒産した会社に貸し付けをしていた債権者であり、金 融機関も債権者だから、株券は紙くずになったが、借金だけはきっちり最後ま で残ってしまった。そのとき、初めて中小企業の株式の怖さを知った。 ・最終的には、2,000万円以上の借財が残り、住宅ローンの返済と合わせて相 当の借金地獄になった。住宅ローンは返済すれば、その分は自分の資産になる が、紙くずになった株券はいくら返済しても、全く意味をなさない。最後ま で、この株式の購入のための借入金の返済は重たく肩にのしかかった。中小企 業が破綻すると、こういうことが起こるのだと、その時初めて体験し、経営の 怖さを身に染みて感じたものだ。高い月謝を払って、勉強したのだと割り切 り、自分に言い聞かせるしかなかった。悔しかったが、仕方ない。 <常に株式を意識すること> ・本人ならまだしも納得できるかもしれないが、これが会社と縁の遠い本人の 奥さんなら、もっと理解ができないだろう。家族なら、さらに難しい。また、 相続の際にもこの株券が問題になる場合がある。代表者が亡くなり、相続人が 複数いてその相続人で株式を相続すると、必ず分散する。株式に値打ちがない なら、特に揉めることはないが、株式に一定の価値があると、不発行とはいえ 相続財産になる。突然、一族で見たこともない株式に関して、非常に醜い骨肉 の争いがおこることもある。相続税を意識すると、必ず株式は分散する。 ・税理士さんが会社の経営のことをあまり意識せず、相続税をとにかく安くす ることにだけフォーカスすると、経営上非常にまずい株式の分散になる可能性 が高い。存命中、在職中から将来の株式の持ち分をどのようにすれば、経営的 に最もベターなのかを考えておかないといけない。代表者が60歳を越えたら、 まず自社の株式がどうなっているのかを、一度正確に点検する。誰に何株ある のか、株主名簿を正確に記載して、その経過をつぶさに調べることだ。有償で 分割したのか、無償で譲渡したのか。古い話しになると誰も知らない。 ・兄弟でもめることが多い。親子より兄弟の葛藤のケースの方が多い。弟の専 務が兄貴の社長と喧嘩して、株式を持ったまま退職して、ライバル会社に転職 したケースもある。まして、その株式を有償で高額で買い取れと、訴訟にまで 発展した。その訴訟が原因で、代表者が病気になり、最後は帰らぬ人になった ケースもある。こうなると、なんのための中小企業の株式なのか分からない。 普段は意識しない中小企業の株式だが、承継や相続の時点では必ず揉め事の原 因になる。株式に関して、きれいにしておくことは現経営者の責務なのだ。