**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第808回配信分2019年10月21日発行 事業承継のいろいろなパターンを検証するシリーズ第11回 〜代表取締役社長の引き際〜 **************************************************** <はじめに> ・後継者への事業承継が成功した要因を見ていると、いろいろと企業の事情に よって異なるが、総じて言えることは先代の引き際が非常にきれいでうまいと いうことだ。特に、創業社長からの事業承継は非常に難しいが、これをきれい にかつ迅速にやり切ることが極めて重要になる。時間をかけて、ゆっくり緩和 しながら引き継ぐことも大事だが、ある時期が来たらスパっと割り切って次世 代に経営を託すくらいの度量がないとできない。創業社長は自分でゼロから始 めて、立ち上げて、成長させた功労者だ。その引き際は難しい。 ・どうしても、いろいろなことが気になって、なかなか完全にリタイアできな い。代表権をもったまま会長職にとどまり、いろいろと後継者に注文をつけ る。当初は仕方ないが、あまりにその期間が長くなると、二頭政治が続いて業 績にも影響が出る。従業員もしばらくは、立場は会長だが今までのクセで社長 と呼んでしまい、自嘲気味にまずいと感じる。しかし、永年の習慣はなかなか 修正できない。いっそ会社に顔を見せないくらいでないと、なかなか次世代へ の転換ははかどらない。引き際は自分で決めるしかない。 ・しかし、京都市内の某企業の創業社長の事業承継は見事だった。その企業 は、現会長が創業し35年くらい経過した時点で、代表取締役社長が会長にな り、長男が承継し代表取締役社長に就任した。会長は代表権を持たず、取締役 には留まったが、株式はうまくほとんど後継者に移した。そして、会長は75歳 という高齢にも関わらず、もうひとつ全く本業と関係ない会社を設立し、そこ の代表取締役に納まった。その企業は従来の企業とは全く縁もゆかりもない事 業をする会社だ。某ビジネスのフランチャイズの傘下に入った。 <引き際を準備する> ・現在では京都市内に数件の店舗を運営している。会社の3階建てのビルの2 階は本業の会社の事務所があり、後継者の代表取締役社長はそこで執務してい る。会長は3階の一部に場所を設けてほとんど社長と顔を合わさない。重要な 会議には出席するが、全く発言は控えてしない。会議が終わってから、長男の 社長が改めて重要な点を報告する。このときは、二人きりだ。この時間を利用 して、会長は好きなことを後継者の社長に言いまくる。他に誰もいないから、 この会話は二人だけのものだ。経験に基づくアドバイスが中心だ。 ・そして会長は自分が新たに設立した会社に注力している。75歳という高齢に も関わらず、結構元気で飛び歩いている。会ってお話ししていても、そのビジ ネスを結構楽しんでいるように見える。趣味も多くあり、当然ゴルフを始め、 謡曲、カラオケ、書道、ヨガなど、趣味は多彩で忙しい。発表会もあり、週末 はどこかに出かけている。本業の会社の業績も悪くないから、そういうことが できるので、以前から承継後はこのように暮らしたいと考えていた。そして、 それを実践するにはどうすればいいかを、ずっと考えて実行した。 ・そうするためには、事前に何をどうしておかないといけないか。金融機関か らの借入が、あまりに多額だとそうはいかない。また、組織がうまく機能して いないと、簡単に抜けられない。もちろん、基本の業績、足元の売上や利益が しっかりしていないとダメだ。将来への事業計画も、おおよそは絵が描けてい る。そういう状態に承継時点でするためには、いつくらいから何をどうすれば いいかを、ずっと考えていた。株式も順次贈与し、保証も外し、予め承継者を 専務取締役にして、最後の4年間は代表権を与えた。 <ある時間おいてスパっと辞める> ・業績も順調に推移したので、時期を決めて長男に承継した。自分は別会社を 設立し、その代表取締役に納まり、ほとんど本業には口を出さない。こういう 状態にできると、後継者もやりやすい。責任は重大だが、それだけ思い切って いろいろなことができる。会長には事後報告でいい。判断を逐一委ねる必要は ない。意思決定も自分の裁量で行える。給与や賞与、人事の採用なども自分の 責任だ。得意先の開拓や仕入れの値決めなども大事な仕事だが、任せてくれて いるから逆に真剣そのものだ。本当の社長業をしている。 ・世間でよくあるのは、承継を済ませ後継者が代表取締役社長になったが、相 変わらず先代が院政を敷いている場合だ。足利幕府があるにも関わらず、後鳥 羽上皇が院政を司るからややこしい。組織にトップは一人でいい。一般的に は、会長は対外的な業務を担当し、社内向けの業務は社長が担当する。しか し、承継して間がない場合はいいが、一定時間経過しても依然として会長が権 限を持ち、決済や決定をしている光景を目にする。特に、金融機関の窓口が先 代会長で、なかなか金融機関が後継者の社長と単独で直接会おうとしない。 ・給与や賞与、採用などを後継者の社長が決められるようになると、これは完 全にマネジメントを掌握したと言っていい。自分がその企業に転職し入社して から、自分が面接して採用を決めた社員や従業員が、全体の過半数を超えた時 点で、本当に経営の実態を掌握したと言えるだろう。それからが後継者の実力 を発揮する場面であり、いかに早くそういう状態に持っていけるかを全員で協 力して行う必要がある。それには、管理部門も営業部門も、製造部門も全員が 後継社長を盛り立てないといけない。先代の方ばかりを向いていたのではダメ だ。 <何かやることを決めておく> ・先代社長も承継したからと言って、毎日が日曜日ではもったいない。人生70 歳までは元気で働けとなってきた。特に病気がちな人は別にして、元気な人は 70歳を超えても働くのは一向にかまわない。いや、元気で身体が動くうちは、 外へ出て社会との接点を多く持った方がいい。引退して毎日ゴルフをするわけ でもないから、趣味と実益を兼ねたようなビジネスがあれば最高だ。何も、現 役の社長時代のように毎日必死になって頑張る必要はない。自然体で仲間と一 緒に、適当に身体を動かし、頭を使い、人と接して、新しいことを吸収する。 ・さきほど書いた75歳で起業した方は、まだ気分は現役の経営者だ。社長業は 一度やると辞められないとは、どなたかに聞いた名言だが、生涯現役で社長業 をするのも悪くない。特に、後継者が代表をしている本業の会社に一切迷惑を かけない範囲なら、少々のトラブルがあっても驚かない。それと、投資の限度 額を決めておいたらいい。ここまでおカネを使って、それでもダメなら、あっ さり引き下がり諦めることも大事だ。もう失うものはないから、限度までおカ ネを使ったら、そこできっぱりと止めることだ。ずるずる引きずるのが良くな い。 ・このようにするには、相当の期間準備が必要だ。準備というのは気持ちの整 理をつけることで、常にこのようなイメージを頭に描いて、承継したあとのラ イフプランを考えておく。そうすると、不思議なもので何かの情報があったと きに、さっと、ぱっと、意思決定ができる。日頃から考えておけばこそ、重大 で重要な決断や意思決定が、即座にできる。日頃から考えていないと、時間は かかるし、迷う。結果的に最後はうまくいかないことが多い。準備段取りで80 %の人生は決まると言っても過言ではない。早くから引き際のイメージを作っ ておくことだ。