**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第809回配信分2019年10月28日発行 事業承継のいろいろなパターンを検証するシリーズ第12回 〜個人事業の次世代への引継ぎ〜 **************************************************** <はじめに> ・まだまだ日本では個人事業の立場で事業を営んでいる方が多い。小規模な事 業や、創業して間もない企業の場合、まだ法人にする必要もないかもしれない し、法人にするメリットも感じられないこともあるだろう。また、そもそも法 人化するのにふさわしくない、もともと個人事業の形が向いている事業もあ る。例えば、小規模な開業医や、成岡のような士業のビジネスの場合だ。ほと んど代表者一人で家族経営のような場合は、特に法人にする必要がないと感じ られる方も多いだろう。しかし、実際には法人にしたほうがいい場合が多い。 ・先日もお目にかかった事業主の場合は売上の数字が数億円あって、かつ従業 員も10名以上いらっしゃるのに、個人事業でやっているのだと聞かされた。も う20年以上この状態で事業を継続しており、なんの疑問ももたれていない。不 思議に思って聞いてみると、顧問の税理士さんが法人にする必要がないからと いう理由でしていないのだと。これは、理由にならない。明らかにこの規模に なったら、雇用の維持や地域経済への貢献を考え、法人化するべきだ。消費税 を払いたくないなどは理由にならない。特に従業員の雇用を考えると、法人に することは大きい。 ・成岡は創業した15年前、当初から法人にした。それまでの20年間の中小企業 の経営経験から、世間や社会の信用という面では個人事業より法人の方が、は るかに信用度が高いことを感じていた。個人事業でやることは、当初から考え ていなかった。当時はもう、発起人が7人以上という制限はなかったが、株式 会社の場合資本金は1,000万円以上で、金融機関の口座にその金額が間違いな くあることの証明書が必要だった。この証明書を銀行で発行してもらうのに数 万円かかったのを覚えている。馬鹿らしくなったが、決まりなので仕方ない。 <資産の査定が難しい> ・個人事業の後継者、特に親族に承継の場合は現在の代表者が廃業を届け、同 時に後継者が開業するという手続きになる。これを連続して同時に行う。1枚 の用紙に廃業と開業を一緒に記載できるようになっており、単純な場合は特に 問題なく円滑に進行できる。ただし、業種や業界によっては、後継者が一定の 資格や経験、業歴がないといろいろと支障を来す場合がある。建設関係などは 特にそれが面倒なことが多い。その他の業種でも、運送業などもそうだ。もっ と言えば、開業医さんなら後継者は必ず医師の国家資格がないといけない。 ・個人事業の代表者から後継者に承継する場合、法人と異なり簡単そうに思え るが意外とそうでもない。まず、株式がないので株式の承継、譲渡は必要な い。法人の場合、業績が順調だと株式が非常に高い価格になる場合があり、以 前なら後継者がその株式を購入するのに資金が必要となり、難儀していた。最 近では時限立法で特例税制という法案が通過し、後継者が多額の株式買い取り 資金を用意する必要はなくなった。個人事業の場合、株式の購入に資金は不要 となり、その分いくらかは楽ではある。 ・個人事業の場合、土地、建物、機械など事業用資産はすべて代表者個人の名 義が多いから、これを承継する際にいくらの資産価値があるのか算定が難し い。土地に関しては一定の計算はできるが、それを相続でもないのに後継者が 買い取ることはまずない。あるいは、住居もほとんどが代表者名義だろうか ら、これも相続までは名義人は代表者のままだ。後継者はそこが事業に供する 場所なら、先代の代表者で父親の場合が多いが、地代家賃を払って賃借契約に なる。また、同居している場合も複雑になる。所有と経営が一体になり過ぎて いる。 <事業の磨き上げが必要> ・仕入れの継続、得意先への売上、従業員の雇用など、どれをとっても個人事 業だから簡単というものでもない。特に現在の代表者が創業者で、かつ特殊な 技能や能力で事業を継続している場合、簡単に後継者が円滑に事業を引き継げ るかというと、それは難しい。京都なら、伝統工芸士という認定制度があり、 現在の代表者が伝統工芸士の場合なら、後継者も伝統工芸士の認定をもってい ないと難しい。あるいは、建築関係では建築士、開業医なら医師免許、税理士 さんなら税理士の資格がないと事業ができない。当然といえば当然だが。 ・しかし、いくら親族で後継者だからといって、向き不向きもある。もって生 まれた素養や能力もある。幼少から父親の事業を傍で見ていて、大きくなった ら自分でもやるのだという強い意志と自覚があればいい。歌舞伎の名跡の後継 者が3歳くらいから初舞台を踏んで、披露の口上をのたまうのが、いい例だ。 あれくらい幼少のときから後継者の自覚があれば、なんら問題はないが、普通 にはそうはいかない。特に今後衰退する事業や、現在の業績が芳しくない事業 の場合、親族が簡単に承継するのも難しい。事業の磨き上げが必要となる。 ・個人事業の場合は、売上と利益、資産と負債、収入と支出において、法人で はないから年に1回の青色申告の申告書しか業績を判断する材料がない。売上 と利益は相手があるから比較的正確だが、資産と負債は事業主自体が決定する 部分が多いので、本当に真の姿を現しているかというと、そうでもない。特に 売掛金や棚卸資産などは、顧問税理さんが実態調査をしているわけではない。 事業主からの申告数字をそのまま計上されている場合が多い。果たしてそれが 正しいかどうかは、極端に言うと誰もわからない。正しいと信じるしかない。 <法人化するメリットは大きい> ・現在進行中の案件では、現在の代表者が40年個人事業でやってきた。数年以 内に次男が承継するにあたり、次男は将来のことを考えて法人化したいとい う。業種は建設業で、最近新規の採用が非常に厳しい。給料もさることなが ら、休日や休暇の情報が優先する。そういう雇用環境の中で、後継者はもう個 人事業では従業員の新規採用に限界があると感じた。承継を機会に法人化する ことを考えた。事業引継ぎ支援センターに相談の結果、次男が資本金を個人で 出資して法人を設立し、100%株主になる。そして父親が代表取締役に就任す る。 ・2年先に父親の代表取締役社長が退任し、一定の退職金を支払い次男が代表 取締役に就任する。2年間とはいえ、創業者の父親が一度は法人の代表取締役 社長に就任することに意味がある。登記簿謄本にも記載され、2年後に退任し たことも記載される。代表者変更の手続きは面倒でも、この承継の方式だと幾 分かの役員退職金は支払うことができる。そして次男が代表取締役に就任する までの2年間を承継の準備期間とする。株主の移動や株の購入はないから、特 に不要の資金も発生しない。時間が許せば、4年間という時間をかけてもい い。 ・個人事業は個人事業で重たさがないから、小回りが利くというメリットはあ るが、法人はやはり社会的な信用や雇用の面での優位性は動かない。また、い ろいろな公的な契約ごとが頻繁にある場合は、法人でないと契約ができない場 合もある。そして、いったん法人を設立すれば、企業は永遠の継続が前提だか ら、会社の存続が前提となる活動をしないといけない。となると、法人化する ことで後継者の存在や事業承継を明確にしていくことが求められる。法人は公 的な存在だから、一定の外部からの牽制を利かすことも可能になる。個人事業 から法人化するメリットは大きい。