**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第810回配信分2019年11月04日発行 事業承継のいろいろなパターンを検証するシリーズ第13回 〜役員退職金をどうするか〜 **************************************************** <はじめに> ・代表取締役または役付役員などが辞任し退職する際に、なかなか悩ましい問 題が、この役員退職金をどうするかだ。金額も半端でない場合もあり、そう簡 単に結論がでる問題でもない。また、社内に役員退職金規定があれば、一応理 屈上はこうなるというのは言えるが、ほとんどの中小企業の場合は、役員退職 金規定はない場合が多い。仮にあるとすれば、過去にその会社がこの役員退職 金で相当揉めた経験がある場合だろう。普通の会社の場合は、役員退職金規定 などという洒落たものはないはすだ。余程この問題で揉めた場合に限られる。 ・まず、大前提として「役員」が「退職する」にあたり「退職金」が出るのが 一定の条件だから、この一部でもそれに反する、あるいは抵触する場合は、役 員退職金は支給できない。例えば、何かの理由で現在の社長が会長になるが、 代表権は持ったままという場合は、役員退職に馴染まないので対象にならな い。やはり、「役員」を退任し、当然代表権も返上するというのが理屈だろ う。仮に、何らかの理由で代表権を持ったままという場合は、「役員退職金」 は支給できない。つまり、支給するには一定の要件をクリアーする必要があ る。 ・「役員」すなわち「取締役」を辞任する。同時に、取締役でなくなり代表権 もなくなることになる。そして、役員会、株主総会を開いて新しい代表取締役 を選任する。役員が同族で所有と経営が一体化している中小企業では、後継代 表者は指名になる。取締役の辞任届は、特に決まった様式ない。しかし、代表 取締役の辞任なので、あとで揉めるといけないので日付はしっかりと確認して おく。むしろ一番の問題は、あとの本人の立場をどうするのかということだ。 以降完全に引退し、隠居する人は見たことがない。なにがしかの形で会社と関 わる方が多い。 <明確な決まりはない> ・代表取締役の交代は、企業にとっての一大事だ。手続きもさることながら、 日常関係ある企業や得意先、仕入先、従業員、組合、金融機関などにきちんと 通知し、いついついから代表取締役が誰それに交代すると通知しないといけな い。その通知には、いくらいくらの退職金を会社から支給して、などという文 言は一切ない。役員退職金はあくまでも社内の出来事であり、いくらもらう か、また支給したのかしなかったのかは、対外的には分からない。決算書には 記載されるので、金融機関にはわかる。支給できる企業は立派で、業績も悪く ないはずだ。 ・一般的には、役員退職金の支給金額は、「辞任する直前の月額報酬」に「役 員としての在籍年数」を乗じ、さらに「功績倍率」という係数を乗じて算出す る。まず、辞任直前の月額報酬の金額が問題になる。何らかの理由で月額報酬 を非常に低く抑えている場合があるが、この金額を採用するのかが難しい。過 去数年間の平均を取るとか、いろいろな方法があるが、何が正しく何が間違い という方程式はない。次の「在籍年数」も難しい。創業者なら会社ができたと きから、退任するまでがずっと「在籍年数」になる。 ・当初は平取締役で、徐々に役付き役員になり、最後は数年間代表取締役で あった場合、通算の在籍年数を何年とするのか定義はない。一般的には、代表 取締役であった年数を基準にするが、千差万別だ。最後の「功績倍率」も決ま りがない。一般的には代表取締役なら、2倍くらいが普通だろうか。1倍〜3 倍くらいを恣意的に決定する。辞任する直前の月額報酬が30万円で、代表取締 役に20年、功績倍率を2倍とすると、30万円×20年×2倍=12,000千円という 計算になる。これを基準にいくらが妥当かを検証する。 <借入してまで払うべきではない> ・そもそも役員退職金を払える財務状態か、ということも大きな課題だ。現金 が潤沢にあり、少々多額の退職金を払ってもびくともしないという中小企業は 非常に少ない。仮に払えるとしたら、外部に積立金をしていてその積立金を取 り崩すか、解約して資金手当てをするのが普通だ。通常の財務状態では、運転 資金がそう潤沢でない場合、簡単に多額の退職金を右から左へ支給することは 難しい。また、この役員退職金は損益計算書では特別損失になるので、最終赤 字になる可能性が高い。理由がはっきりしている赤字ではあるが。 ・多額の役員退職金を金融機関から借り入れをして支払うというのは、あまり 感心しない。それくらいの苦しい財務状態なら支給は見送るべきだろう。現金 がいきなり大きく減少し、その後の会社の経営に支障をきたす可能性がある。 借入してまで払うというのは、経営上好ましくない。準備をして、満を持して 支払うくらい期間が必要となる。いきなり多額の退職金を払うことはできな い。少なくとも、準備に10年近い歳月が必要だろう。借入してまで、次世代に ツケを残してもらう退職金などは、嬉しくない。次世代に負担を強いてはいけ ない。 ・前々回でも書いたが、現在の代表者の引き際と今後のライフスタイルのイ メージが必要だ。まだリタイア時点で住宅ローンが残っていたりすると、相当 の金額の退職金が必要となる。最近でこそ減ったが、バブル時代に高額の住宅 やマンションを購入され、返済が滞りいまだに多額の借入を個人で抱えている 高齢の代表者の方もいらっしゃる。そのために退職金が必要だと言われても、 会社としては本意ではない。所有と経営が一体とはいえ、次世代の後継者から すれば、それくらいは自分の代で何とかしろと言いたくなる。 <急に決まるものではない> ・法人税を払いたくないから赤字を作るために役員退職金を払うというケー ス。高額の住宅ローンが残っているからという理由で、役員退職金が必要な ケース。外部での積立金がないから、金融機関から借り入れまでして退職金を 払わないといけないケース。運転資金を金融機関から借りることができないの で、自分の友人知人から借りて何とか辻褄を合わせた。その友人知人への返済 が残っているので、退職金で返済するケース。いずれにしても、正常な状態で 退職金を払うのではなく、マイナスの理由で払う退職金は本末転倒している。 ・代表取締役としての在職中に、運転資金を借りることができなくて、自分の 手元のおカネを会社に突っ込んで、決算書で役員借入金が多額に残っている ケースはよくある。中小企業ではそれが当り前だと言われる経営者の方もある が、やはり個人が運転資金を突っ込まないと会社が回らない状態は異常なの だ。その役員借入金、代表者からみたら貸付金の一部でも退職金替わりに払っ てほしいと、この時点で言われる経営者の方も多い。しかし、個人のおカネを 運転資金として会社に供給したら、そのおカネは資本金と同じ扱いだ。一方通 行で、おカネが戻ることは少ない。 ・30年経営を担ってきて、次世代にバトンタッチするにあたり、自分の役員退 職金の支払いで会社に多大な迷惑をかけるのは、経営からみれば本来の姿では ない。後継者が十分納得でき、会社に資金負担をかけない退職金でないと、も らっても後味が悪い。やはり、10年先を見て、自分がリタイアするときにはど ういう姿に会社がなっていないといけないか。常にそのことを頭に描いて経営 するのと、行き当たりばったりで経営するのとでは、雲泥の差が生じる。その 時点になって慌てていたのでは遅い。特に、役員退職金と言う一生に一度しか ない多額のおカネだ。慎重にことを運ぶ覚悟が要る。