**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第826回配信分2020年02月24日発行 承継をする後継者に送る経営の要諦シリーズ:その2 〜成岡流意思決定のコツ〜 **************************************************** <はじめに> ・先週号で、後継者社長に贈る言葉の第1回目で社長の仕事とは何かをいくつ か書かせてもらった。その中でも最重要と思えるのは、「決めること」即ち 「意思決定をする」ことである。組織のトップとして、これが一番大事な仕事 なのだ。極端に言えば、これ以外の事柄の優先順位はどんと落ちることにな る。毎日、決めることだけをすればいい。それくらい、社長の仕事の一番大事 なことは、この「決めること」にある。しかし、優柔不断であったり、未経験 のことであったりして、なかなかタイムリーに意思決定ができない。そこで今 回は意思決定の「コツ」のようなものを書いてみたいと思う。 ・まず、社長が決めるべきことは実は非常に多いのだろうが、あまり何もかも 一人で決めることはよくない。一部は周辺にいる人材にことを託すようにしな いといけない。自分はやはり会社の経営上大事な投資や人材、開発などの少し 未来を見据えた仕事に積極的に取り組む。その際に、何を決めないといけない かを自分自身で明確にしておく。そして、時間の80%を割いてこの「決めるこ と」を自分の最大のミッションだと暗示をかける。どれくらい時間がもらえる のか、直ぐに決めないといけないのか。それにもよる。まず、ことの内容を正 確に把握することだ。しかし、判断の材料が全部揃うものでもない。 ・わからない、不透明な部分も多く存在するはずだ。自分の理解能力を超えた 案件もあるだろう。しかし、わからない、自信がない、決めないは禁句だと 思ってほしい。この案件を決める権限を有するのは、社内で自分自身なのだ。 もちろん、どうもわからないことだらけの場合もある。しかし他の誰もこの案 件の内容が分かる人はいない。そんなとき、社長が日和見に徹して、自分が責 任を取るのがいやだから結論を保留にしたり、あいまいにすることも多い。一 度あいまいにすると、そういう優柔不断な癖がついて、なかなかその癖から抜 けきれない。従業員や周囲の人たちは、結構そういう社長の優柔不断さを見て いる。 <やらない、しないも意思決定> ・物事を決定したり、決めたりする際の自分なりの哲学を持っていればいい。 例えば、結論を保留するのは1回のみ。50%自信が持てたら必ず実行する。投 資総額がいくら以上のときは、必ず他人の意見を聞く。総額がいくら以下のと きは、その時点で決める。例えば、このような自分なりのルールを決めておけ ば、意外と判断がスムースにいく。設備投資などは、装置や機械を買うので、 まだわかりやすい。判断がつきやすい。一番迷うのは、人材の採用だろう。成 岡の場合、よほどのことがない限り重要な採用には、必ず自分が立ち会うよう にしていた。最終的な判断は。必ず自分で行う。最後の採用の可否は自分です る。 ・採用を自分で決定すれば、言い訳ができない。確かに、人を判断する眼は難 しいが、それをするのが社長の務めだ。成岡もいままで多くの採用の現場に立 ち会い、多くの中途採用、新卒採用を行ってきたが、その経験からすると 「迷ったときは止める」ことにしている。どうしても自信が持てない面接とい うこともある。どうしようかなと迷う時も多い。採用媒体に多額の費用をかけ たときや、応募者が非常に少なかったときなどは、普段なら採用しないケース でもOKを出したこともある。しかし、迷った時の結果はほとんどNGだった。ま れに迷った人が、あとで大輪の花を咲かせたこともあったが、それはレアケー スだ。 ・社長の仕事は意思決定だが、やらない、しない、という意思決定も立派な意 思決定だ。特に、事業に関してはやらない事業領域を決めておくことも必要 だ。いろいろな案件が持ち込まれるような企業の場合、非常においしい話しを もってくる人も多い。一緒にこういう事業をやりませんかというお誘いがあ る。たいてい、数年先に大きな収益が出て貢献するというおいしい話しだが、 そんなうまいビジネスが多く転がっていることはほとんどない。製造業が飲食 業に進出したり、サービス業に出ていく場合もある。国内市場はもう難しいか ら、海外に出ていく案件も多い。多角化や市場の多様化などという美しい言葉 に惑わされる。 <基準を設ける、例外の規則も作る> ・やらない事業領域を決めておくと、非常に意思決定がシンプルになる。しか し、ここからが難しいのだが社会や世の中の変化のスピードが、昨今は非常に 速い。なかなかついていくには、骨が折れる。この世の中変化の速度について いくとなると、事業領域を旧態依然として拘り続けていると、あっという間に 事業が陳腐化する可能性がある。老舗で長く続く企業は、逆に続けることは変 わること、という家憲や家訓を決めている企業も多い。両方正しいのであり、 数学の正解がひとつというのは、経営には当てはまらない。柔軟に、かつ大胆 に意思決定をすることが大事だ。間違った答えを正解と錯覚することもある。 ・多数決では物事を決めてはいけない。経営は民主主義ではない。多くの賛同 は必ずしも正しいとは限らない。いや、逆に少し反対勢力がいたほうがいい場 合が多い。だいたい、感覚的には3割賛成、7割反対くらいの逆風下で出発す るのが妥当ではないかと思っている。賛成が多いということは、みんなが結果 を見えているということだ。見えていないから、不安があるから、リスクがあ るから、反対するのだ。では、そのリスクを取り除いたらいいのではないか。 そういう風に逆説的に考えれば、反対の理由をよく吟味して、その問題点を解 明すればいい。それができたら、意外にことはうまく行く。 ・反対の声を抹殺しないようにすることだ。フランクに社長にものが言える雰 囲気、空気、土壌を作ることが必要だ。会議で、自由闊達に意見が飛び交うこ とが好ましいが、遠慮や忖度でなかなかフランクに討議ができない。階級や職 制に関係なく意見が出るのが理想的だが、そう簡単なことではない。それよ り、会議というかしこまった場面より、廊下の立ち話し、トイレでのさりげな い会話、居酒屋での雑談などから、いいアイデアが出るものだ。真剣に、深刻 に、必死に考えることも大切だが、ふとした発想も大事だ。大切なことは、 トップがその思い付きを真剣に聞いて、検討する姿勢を見せることだ。 ・数字で表せるなら判断もできやすいが、ほとんどの事業計画、投資計画の数 字はその通りにいかない。いかないと思っていた方がいい。しかし、判断の目 安にはなるから数字は無視してはいけない。数字に関しては、自分なりの尺度 や物差しを持っていて、その基準に照らして判断する。しかし、いつもその基 準から抜け出せないと、判断が偏るので自分に例外の枠も設けておく。これは 例外だと自分で納得して、今回は基準をあてはめないと理解することだ。特別 の、特段の理由で例外を認めるのは、大いに結構だ。常識的なことばかりを決 めていては、会社は変わらない。ときに、大きな冒険や博打を打つことも、経 営には必要だ。 <ときには反対が多いこともやると決める> ・意思決定が社長の仕事なので、そのあとの始末も社長の仕事だ。まず、意思 決定した背景、理由などをわかりやすく、丁寧に説明することだ。結論だけを ぽんと言っても、ほとんどの人はわからない。なぜ、みんなが反対したのに社 長はそのように決めたのか、決断したのか。ほとんどの人は納得していない場 合なら、余計に疑心暗鬼になる。社長の意思決定が、天邪鬼になり誰もその決 定に賛同しない。賛同しないくらいならまだしも、足を引っ張る場合もある。 特に、上級の役員間での反目は非常に大きなマイナスになる。社長と専務が対 立するという構図は、よろしくない。会社の活力を大いに削ぐことにつなが る。 ・説明と説得は異なる。いくら説得しても、ほとんどの周囲の人間は納得して いない。しかし、だからと言って説明を省略してはいけない。どうしても、こ とを急ぐあまり面倒になって説明を省略することが多くなる。となると、社長 の下した意思決定が宙に浮いてしまい、ことが円滑に進行しない。結果も出な いだろうし、業績もかえって悪くなる。何回でもいいから、同じ内容でいいか ら、面倒くさいと思わずに説明を続けることだ。それは、こちらの覚悟を見せ ることにもつながる。たった1回の説明で終わるような内容なら、そのことに 重たさがない。社長が必死になって説明している姿は、美しいものだ。 ・意思決定をして、結果が思わしくなかったら、迷わず元に戻ることだ。やは りいくら社長でも間違うことはある。人間だから間違いはつきものだ。あまり 頻繁に間違っては権威がないが、本当に間違ったと思ったら、迷わず引き返 す。かけたコストを取り返そうと思わずに、多額の月謝を払ったと割り切れば いい。けじめをつけるなら、自身の報酬を減額すればいい。メンツや世間体な どを気にしている場合ではない。社員からの冷たい視線を気にすることなく、 十分に説明して、何が違ったのか、何を読み違えたのかをきちんと説明すれば いい。経営とは失敗の連続なのだ。しかし、失敗しないと成長しない。失敗の ダメージを最小限にするのも、社長の立派な務めなのだ。