**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第827回配信分2020年03月02日発行 承継をする後継者に送る経営の要諦シリーズ:その3 〜決定したことを実行に移す〜 **************************************************** <はじめに> ・前号のメールマガジンでは、社長のする最大の仕事は、ものごとを「決める こと」だと書いた。それはそれで間違いではないのだが、ここが中小企業の辛 いところで、決めたのはいけどそのミッションを誰がするの?というとてつも なく大きな壁にぶち当たる。会議などで緊急にやることを決めた。昨今なら、 突然降りかかった「コロナウィルス騒動」対策などは、その典型だろう。想定 外の事態が起こり、自社の業種業態からすると、今後近いうちに非常に大きな マイナスの影響が予想される。当然、企業だから何らかの対策をすぐに考えて 手を打っておかないといけない。当然そんなことはわかっている。 ・幹部が数名社長の元に集まり、対策会議を行った。そこで数件の現実的な対 策案が決まり、即日実行することとなった。現場レベルでできるものは、現場 にある程度任せればいいが、経営トップが乗り出さないといけない対策も当然 ある。決めたのはいいが、それは自らのミッションになる。ここで二通りのパ ターンがあり、その困難な課題から逃げようとする社長がいる。どうしても自 信がない。初めてのことだからわからない。費用が予想できないので、足が出 ない。いろいろな理由から、どうもこれは厳しいなと感じて、下の階層の幹部 にミッションを振るトップがいる。これが最悪で、最低のやり方になる。 ・逆に難しい課題とわかっていても、自信がなくても、やってみないとわから ないと割り切って結果を恐れず果敢にチャレンジするトップもいる。多少年配 のトップになると自ら行動を起こすことは難しいかもしれないが、比較的若い 経営者の中には若さゆえのチャレンジ精神が旺盛で、馬力に任せて押し切って しまう方もある。方法はさておき、結果の如何を問わず、このような姿は外か ら見ていて非常に美しい。最後は惨憺たる結果になって、みんなの前で謝るこ とになっても、挑戦しての結果がダメでもそれはみんな心の中では許してい る。一番悪いのは、挑戦せずにやり過ごすことだ。 <自分で実行する> ・意思決定をしたのはいいが、その後の行動が伴わないと、いくらいいことを 決めても実行が伴わないと、何も変わらない。しかし、スタッフの少ない小規 模事業者や中小零細企業では、余分なマンパワーを抱えている余裕はない。 おっつけ、ぎりぎりの人数でやっているから、新しい課題が決まっても誰がそ れをするのかということが、非常に悩ましい。日常業務を整理して、いままで やってきたことの一部をやめて、当分棚上げにする。そして、少しの時間をす かせて、その空いたところに新しい決まったミッションを投げる。そういう環 境設定をするのも、社長の大事な仕事なのだ。直接手を下す以外のことも多 い。 ・しかし、たいていの新しいことは担当する人がいない。そこで棚上げになる か、自らが出て行って実際に行動するかが、大きな分かれ目になる。また、新 しいことはなかなか一人では難しい場合が多い。社内に手伝ってくれる人材は ほとんどいない。ここで威力を発揮するのは日ごろから培ってきた人脈だ。普 通は利用価値がないと思っていた友人や知人が、新しいことには俄然力になる 場合がある。本業と少し関係ない業種に属する知り合いも、このときは非常に 大きなパワーを発揮してくれることもある。知り合いの士業の方、弁護士、税 理士、会計士、社労士、診断士などは無料でアドバイスをしてくれる。 ・労力を提供してくれなくても、知恵を貸してくれればいい。東京で情報収集 に行ったときに、まず会ってみたらいい知り合いを紹介してくれるだけでもい い。官公庁に知り合いがいたり、貴重な人脈を持っているだけでいい。もっと 踏み込んで、販売チャネルを紹介してくれるだけでもいい。以前に商社に勤め ていたので、海外のことに詳しい知り合いを紹介してくれるだけでもいい。自 分の名前を使って、会いに行ってくれてもいいと非常に気安く言ってくれるだ けでも有難い。このような人的なネットワークは一朝一夕にはできない。自分 ではできないことは、周囲を利用させてもらうしかない。日ごろからの付き合 いが大事だ。 <とにかくチャレンジする> ・実行しても成功するとは限らない。いや、成功する方が珍しい。10回バッ ターボックスに立って、2本くらいヒットが打てたら上等だ。残り8回は凡打 になるが、その凡打から得られるものが貴重なのだ。成功は、「たまたま」が 多いので、あまり学ぶ中身がない。失敗や不成功からは、学ぶことが多い。反 省や総括から学んだことは貴重だ。会社の費用を使って学んだことは、必ず社 内にノウハウとして蓄積しておかないといけない。失敗を失敗のままで、ごみ 箱にほかすことが多い。社内全体で失敗や不成功から学んだことを共有する時 間と機会を作るのは、社長の重要なミッションだ。特に、自らの体験を伝える ことは大きい。 ・部下の失敗もほめてあげることが大事だ。果敢に手を挙げてチャレンジした 人には、結果の如何を問わず、最大限の賛辞を贈ることだ。社長がそのような 行動に出ると、どうしたら褒めてもらえるのかが、非常にはっきりする。そう か、とりあえずやってみることが大事なんだと、社内の誰もが意識する。女子 事務員から上級の役員まで、社内にチャレンジ精神が浸透する。そのような空 気、風土、文化ができると、こぞって新しいことに挑戦する社風が徐々に定着 してくる。就業時間の幾分かを割いて、何か全員が新しいことに取り組んでい る姿は美しい。実際は、そうは簡単にいかないが、そういう雰囲気を作るのが 大事だ。 ・しかし、このような社風になるには10年くらいはかかるだろう。社長になっ てみたらわかるが、自分の意識ほど社員が簡単には動かない。どうして動かな いのだろうかと、頭にくることも多い。つい、かっとなって大きな声をあげる ことになる。冷静になろうと思っても、我慢の限界で、つい大きな声で幹部を 叱責することもある。あとで反省するのだが、もう手遅れだ。感情が混じる と、よくない。大きな声は、社外であげればいい。とにかく、まず新しいこと に挑戦した人を褒めてあげる。それが一番大事だ。あるいは、多くの人が見て いるところで、表彰したり顕彰したりする。そういう人の評価が高いと理解で きる。 <成長は意思と覚悟から生まれる> ・後継者によっては、業務経験が少ない人もあるだろう。その業界や業種に 入ってまだ年数が乏しい人もあるだろう。会社の実態を聞けば、びっくりする ような財務内容だったという場合もあるだろう。そんなマイナスの材料を見せ られると、承継に対して腰が引けるのもわからないでもない。しかし、承継に 関しての決まりはない。売上、利益、借入金、純資産の額など財務内容も大き な要素だ。しかし、売上や利益などの財務数字は水物だ。いい年度もあれば、 翌年度は大きく落ち込む場合もある。それを理由に承継を先延ばしするのは、 よくない。どんな状態でも、引き受けるなら覚悟をもって引き受けないといけ ない。 ・この「意思」と「覚悟」が重要だ。そのポジションになってみればわかる が、社長というポジションは企業のトップなのだ。すべてを決めることができ る。意思決定の権限がある。実施の当事者でもある。結果の責任もある。そう 考えると、決まった条件は事業承継にはない。後継者の「意思」と「覚悟」が 優先する。京都市の右京区の製造業のように、リーマンショックの最悪の状態 で、敢えて後継者が決断し先代からバトンを受けた。その後、この企業は後継 者のリーダーシップのもとに大きな飛躍と成長を刻んでいる。何が幸いするか わからない。大事なことは、いつ、なんどきでも、交代してもできる力をつけ ることだ。 ・意思決定し、実行する。実行して結果を出す。結果を出して成長する。非常 に単純なこのサイクルがどうしてできないのか。成長が停滞している企業はど こかこのサイクルが狂っている。後継者に承継する時点が、企業の体質を変え る絶好のチャンスなのだ。先代のしがらみもあるだろう、負の遺産もあるだろ う。それを嘆いていても仕方ない。ひたすら、粛々と努力を重ねて結果を出す しかない。もっと単純に考えることだ。他にエネルギーを注ぐ対象はないの だ。後継者と目された時点で、「覚悟」を決め、絶対に自分で会社を「成長」 させるんだという強い「意思」を持つことだ。想像以上に、トップのポジショ ンは重たい。