**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第828回配信分2020年03月09日発行 承継をする後継者に送る経営の要諦シリーズ:その4 〜決めたことを実行に移す体制は〜 **************************************************** <はじめに> ・社長の仕事は、まず決めること。次に実行に移すこと。ここで中小零細企業 では大きな「人材の壁」にぶち当たる。少人数で誰もが仕事を掛け持ちして、 一見時間が余って暇そうな人は一人もいない。みんな朝から夕方まで、忙しい ときは夜遅くまで目いっぱい仕事をしている。政府の言う働き方改革など、ど この会社の話しかと思うようなシーンが続出するのが中小零細企業なのだ。会 社によっては、社長が得意先に納品に出向くことも多い。あるいは、トップ セールスと称して社長が営業の最前線に立って陣頭指揮している。このような 企業では、何か新しいことを決めて始めるのは大変だ。 ・しかし、経営環境の変化に対応し新しいことを始めて、旧態依然とした古い ことをやめていかないといけない。10年前に始めた業務も、昨今のITの進化に より、もう特に必要ないのではないかと思える業務も多くあるはずだ。失敗が 多く、うまく進まない改善や改革は、現状をそのままにして新しいことを始め るから。新しいことを始める前に現状の仕事の棚卸しをするといい。無駄な仕 事が山ほどでてくるのが普通なのだ。一番無駄な仕事をしているのは、実は代 表者であることも多い。代表者のやっている仕事、あるいは仕事のように見え ることは、実は誰も変えることができないからだ。 ・あるいは昨今のコロナウィルス対策ではないが、このような緊急事態が起こ れば、まず何をさておいても対策を立てて、素早く実行に移さないといけな い。3月の売上が激減したという企業やお店もあるはずだ。直接でなくても、 得意先の企業がそのような甚大な影響を受け、間接的に自分の会社に影響が及 んできた。どうもその得意先の企業の状態が相当悪いようだ。果たしてこのま ま納品を続けていていいのだろうか。何か有効な対策を打たないと、取り返し がつかない事態になるのではないか。緊急に幹部を集めて、対策会議をしない といけない。いったい、誰が音頭を取って陣頭指揮をするのだろうか。 <後継者が自ら手を挙げる> ・中小企業は人材の余剰がないから、このような突発の事態や緊急の事態には 非常に弱い。野球を常に9人でやっているようなものだから、ベンチに誰も 座っていない。全員が守って、走って、打っている。このような場合は、後継 者が出しゃばって陣頭指揮をとらないといけない。既存の幹部では対応が難し い未経験の仕事なら、誰がやっても結果はわからない。従来から経験してきた 業務は、ベテランの社員のほうがよく知っている。しかし、今まで遭遇したこ とのない緊急の事態やトラブルなどは、誰もが未経験だから後継者が手を挙げ て自らが中心になって頑張るいいチャンスなのだ。そう、考えないといけな い。 ・後継者と目される人は、このような困難な事態に逃げてはいけない。経験が 乏しいとか、ほかの仕事が忙しいとか、そういうのは言い訳になる。目前に火 事が迫っているのに、自分だけ逃げるのか。そういう目で従業員は見ているこ とを意識しないといけない。幹部会議で手を挙げて、その代わり自分がいま やっている業務を整理して、誰かに託す。あるいは、少々障害が起こるかもし れないが、当面は目をつぶっても大丈夫な業務もあるはずだ。時間の捻出も工 夫をすれば、少しは時間が空くだろう。毎日2時間、早めに会社に来ることを 続ければ、何とかなるものだ。とにかく、社長に代わって前に出る。 ・その態度、勇気を見ただけで従業員からの信頼感は高まるはずだ。結果は やってみないとわからないが、最大限の努力をすればいい。とにかく手を抜い てはいけない。信頼できる部下を集めて、とにかくこの難局を乗り切ることに 意思統一をする。ここで、それなりの結果を残せば、完全な100%の成功でな くても周囲は認めてくれる。その結果を残すことが大事で、敵前逃亡して知ら ない態度を決め込むよりよほど評判は高くなる。数年先の事業承継をにらん で、これは最大のチャンスだと切り替えることだ。こんなまたとない機会は、 そう何回もやってこないと。そう思うと勇気が出る。 <優秀な人材を味方に> ・そんな大ピンチでなくても、常に業務の改善、改革には取り組まないといけ ない。先代の時代から粛々と続けている旧態依然とした作業や業務は、どこの 企業でもある。いや、上場している一流の企業でも、絶対にあるはずだ。その ような業務に果敢に手を付けて、改善や改革を進めるのは、後継者しかできな いことだ。自らが無駄に気づき、自らが変えようとしない限り、周囲から変え ることは不可能なのだ。相当に勇気が要るので、直系の子息ぐらいしかまとも に指摘することはできない。成岡はわりにストレートにモノを言うので、よく 代表者の方とぶつかる。ぶつかって議論になる前に、感情的にもつれて、お払 い箱になることも多い。 ・まず自分の仕事に隙間を作り、誰にどのようにやってもらおうかと、思案す る時間を作る。いきなり、考えずに新しいことを始めると、ほとんどの場合う まくいかないことが多い。そして、その空いた隙間や時間で新しいことを始め る空間を作る。資金面の余裕も少し作っておく。毎月がぎりぎりで綱渡りで月 末を越すような企業では、所詮新しいことを生み出すことは難しい。しかし、 資金は借入ができるなら調達ができるはずだ。むしろ課題は人材だろう。人材 だけはそう簡単に調達できるものではない。外部から優秀な人材をリクルート できればいいが、それには時間も費用もエネルギーもかかる。 ・それなら、社内の一番優秀な人材に新しいことをやってもらうしかない。し かし、どの中小零細企業も同じだが優秀な社員は、それだけで忙しい。とにか くいろいろな業務を担当していて、ゆっくり会議にも出られない。会議の途中 で中座して、得意先に出向かないといけない。代わりに行ってもらえる人もい ない。もっとひどい企業になると会議も行えない。2時間の会議を毎月行うの も難しい。しかし、この新しい案件をやってもらうには、彼しかいない。そん な中小零細企業は非常に多い。多忙を理由に新しいことへの取り組みを行って いない企業は、早晩淘汰され、事業価値は陳腐化する。 <難しい課題から逃げない> ・自分と社内の人材でもカバーできない場合は、公的な支援を受ければいい。 いろいろな支援機関が専門家を派遣する制度を作っている。数回は無料ででき るはずだから、外部の力を借りればいい。あるいは、現在報酬を払っている顧 問税理士さんや社労士さんから、外からボールを投げてもらう。借入が多い場 合は、金融機関からもいろいろとモノを言ってもらえるはずだ。先代の頭が固 いだろうから、この山を動かすのは容易ではないが、こちらからボールを投げ て山を動かす努力をしないと、何もことは変わらない。少なくとも、意思決定 をした内容は、現在よりもよくなる方向のはずだ。 ・どんな改善や改革、再生や成長には痛みを伴う。人間の身体でも、成長の過 程では服は合わなくなるし、靴も小さくなる。ということは、新しい洋服や靴 が要るのだ。そのためには、新しい洋服や靴を買わないといけない。あるい は、サイズはそのままで中身を筋肉質に変えることだ。体重や身長は同じで、 体脂肪を減らして筋肉を増やす。スリムにするには、相応の努力が必要だ。一 瞬努力をするのではなく、毎日継続して運動を行わないといけない。一人では 孤立するから、必ず社内で協力者、シンパを作っておく。毎朝の挨拶も、最初 は自分一人だったが、続けるうちに賛同者が必ず出てくる。 ・中小零細企業では意思決定したことを、社内で実行し進めることは非常に難 しい。会議ではきれいな話しに収まるが、さあ誰がやるのかとなる意外とこれ が決まっていない。後継者の立場にいる人は、今後を見据えて会社のすべての 業務にかかわることだ。自分は今の部署の所属だから関係ないということはあ り得ない。すべては自分のことであり、自分の会社のことだ。他人事では決し てない。会社を離れても、常にそのことが頭でぐるぐる回っていないといけな い。中小企業の経営者になるということは、そういうことだ、偏見をもってい えば、そこに働き方改革もない。従業員全員の生活がかかっているのだ。