**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第841回配信分2020年06月08日発行 特別シリーズ:新型コロナウィルス感染パンデミック対策その13 廃業も選択肢のひとつ 〜円満に止めるもの大仕事〜 **************************************************** <はじめに> ・このコロナウィルスの影響で、もうお店や事業を止めようと考えている経営 者や事業主の方も多いのではないだろうか。先日も、長く地域で愛されてきた 飲食店の廃業の記事が、地元新聞に掲載されていた。実は、このお店は小職が 以前に勤めていた印刷会社の近くにあり、近辺では有名な店だった。何回も食 べに行ったが、特に店のルーツなどを詳しく知っていたのではない。何が有名 だったと言えば、具材の分量が半端ではないくらい大量だった。そのせいかど うかしらないが、昼、夜を問わずタクシーの運転手さんや地元の人などが入れ 替わり立ち代わりで、常に満席状態の有名店だった。深夜まで営業していた。 ・女将さんのことは全く知らなかった。一人の客としてしか店には行かなかっ たので、経営者がどういう人か、店のルーツが何かも知らなかった。今回、60 年近く営業してこのコロナの影響で廃業を決めたところ、それを聞きつけた常 連さんが連日大勢い押しかけて、最後の1週間などはお店の前に長い行列がで きた。閉店の2日前に地元の新聞に大きく載り、そのせいもあって最終日など は数時間待ちという状態だったそうだ。事業主のお母さんが始めたお店で、そ の後一族で切りまわしていたが、事業主の女性が80歳になり、後継者もいな く、かつ、このコロナ騒動がとどめを刺した。とうとう廃業を決意した。 ・まことに残念で数名の知り合いの方からもこの情報をゲットしたので、先日 閉店から数日後のがらんとしたお店に女将さんを訪ねた。夕方だったが、奥の 座敷から出てきてくれた女将さんと短い時間だが事情をいろいろと聞くことが できた。詳細は割愛するが、ひとつは長くやってもうくたびれたこと、このコ ロナ騒動で4月、5月の売上が惨憺たる結果になったこと、いまならきれいに やめられること、お店が賃貸なので貸主との関係でいつかは止める時がくると は覚悟していたこと、などなど心情を聞かせていただいた。別の場所で、屋号 を承継して、別の若い人がやるなら応援してくれるかと聞いたが、色よい返事 はなかった。 <廃業の決意は勇気が要る> ・今回のコロナショックが引導を渡したことになった。こういうお店や事業、 会社は全国に非常に多くあるはずだ。倒産した企業数や事例は情報が公開され ることも多いが、このように粛々と廃業されたお店や企業数は、よくわからな い。おそらく倒産企業の数倍、数十倍はあるだろう。経営者が70歳を超えて、 後継者もいない状態で、このまま続けるのはいかがなものかと思案していた経 営者にとって、このコロナショックが引導を渡すことになった。いま、補助金 や借入をして、延命することは十分できる。しかし、それは延命しただけに過 ぎない。前向きに、次世代に向けてアフターコロナに立ち向かう気力も勇気も しぼんでしまっている。 ・事業を継続するには、いろいろな要素が必要だ。当然、資金や人材、設備や 仕入れ先、得意先、従業員などの利害関係者が必要だ。自分一人では何もでき ない。しかし、最も大事なのは事業を運営、経営するその当事者のマインド だ。事業主の気力、モチベーションが旺盛でないと、事業は絶対といっていい ほど、継続できない。事業をやっていると、順風満帆なときは少ない。むし ろ、辛い、苦しい、しんどい時間の方が長いはずだ。しかし、その苦労は真面 目に取り組んでいれば、いつかは報われるはずだ。手を抜いたり、不遜であっ たり、傲慢であったりすると、努力は結果に結びつかない。常に謙虚でいない といけない。 ・今回閉店廃業を決めたお店も、粛々と営業を続けていた。そんなに大きく儲 けがあったとは思えないが、それでもお客に愛され、地元の人が集い、温かい 交流があったお店だ。本当に残念で仕方ないが、女将さんの決意は固かった。 お母さんの代から続いたこのお店を、自分の代で終わりにするのは断腸の想い だろうと推察するに余りある。飲食店、和菓子屋、伝統工芸のお店、京都なら ではの糸へんや神社仏閣に関連したビジネスを細々と営むお店は、実は地元に なくてはならない存在だ。しかし今回のコロナウィルスはその最後の命綱を断 ち切ってしまった。一度、事業を止めると次の復活は難しいだろう。 <廃業が可能なうちに決める> ・だいぶ前だが、京都の花街のひとつ先斗町で有名なおでん屋さんが廃業し た。しかし、ここはファンの後押しで数か月後に別の場所で復活した。やはり こういうお店がなくなるのは惜しいという地元ファンの声援にこたえて、事業 主が気力を奮い立たせて再チャレンジした。ここまでになれば、以後は誰か他 人が引き継ぐことも可能ではないだろうか。継続も難しいが、廃業も勇気が要 る。また、廃業できればいいという人もいる。廃業するには、周囲の利害関係 者に迷惑をかけないで止めることができるという状態だ。勘違いされている方 もあるが、負債が多いと廃業しようとするにも廃業できないケースもある。 ・残った資産より、負債が多いと債務超過状態で廃業すらままならない。最悪 は倒産、破産という法的処理に委ねることになりかねない。小職も以前に破 産、倒産、特別清算を経験しているので、会社がなくなることの怖さ、後始末 の大変さなどは、十分承知しているつもりだ。しかし、本当に修羅場になると 想定外の事態が山ほど起こり、収拾がつかないケースが頻発する。よほど気力 をしっかり持って、ことに当たらないと、精神的に参ってしまう。事業をたた むときは、始める時の数倍労力と資金が要る。前に進むより、後ろに退くほう がリスクも高いし、エネルギーも要る。利害関係者も多くなる。 ・一番困るのは、止めるに止められないケースだ。借入が多額にあり、現状何 とか返済はしているものの、この多額の借入金を全部きれいに返済するには、 100年近くかかるという企業も珍しくない。あくまで計算上の話だが、現状の 返済金額で借入総額を割ると、気が遠くなるくらいの時間が必要だとの計算結 果になる場合がある。当然、こういう企業は債務超過になっていて、すべての 担保物件を換金してもまだマイナスになっている。こうなると、健康になる可 能性はない病気の人が、未来永劫に入院していて、おそらく生きては退院でき ない、社会復帰は難しいということになる。今回、こういう企業が多く出そう な情勢だ。 <止めることは後ろ向きではない> ・廃業は非常に残念だ。ただ、会社やお店がひとつなくなっても、雇用が維持 され、守られれば悪くない。別の企業や事業所でその後従業員が同じように働 くことができれば、雇用が維持されたことになる。得意先も、仕入れ先も、そ の事業を引き継いだ企業がその後面倒を見ることができれば、ハッピーかもし れない。経営者が高齢で、もうあと数年しかできないだろう。そのうち、相続 の問題も起こるだろう。また、健康でいればいいが、病気になることもあり得 る。そうなってから対策を考えていたのでは、遅い。特に、資金的に行き詰ま り、体力的にも気力が失せると、経営者は途端に投げやりになる。継続するモ チベーションが維持できない。 ・今回のコロナショックは、ほとんどの企業が不意打ちをくらった。これほど の状態になるとは、誰もが想定外だった。モノの準備もできていなければ、ま して心の準備もできていない。突然の不意打ちに面食らって、おたおたしてい るうちに、どんどん状態は悪くなった。ようやく、非常事態宣言が解除され て、さあこれからと思っていた矢先に、また次の感染の波が来る予感がしてな らない。おそらく、このように解除、小規模感染、解除、小規模感染を繰り返 しながら、いつかは徐々に終息に向かうのだろう。このインターバルと、感染 の波の高さがどれくらいかというのが、想定がつかない。不安でいっぱいだ。 ・しかし、続けるなら続けるで、断固たる意志をもって続けないといけない。 絶対に会社を潰さない、お店は続けると、内外に公言しないといけない。おそ るおそる、こわごわでは、難しい。断固たる意志が持てないなら、いったんこ こで止めるという選択肢もあるはずだ。経営とはそれくらい強い意志と覚悟が ないとできない。まして、今後10年、20年30年と事業の営みを続けるなら、こ こは断固たる覚悟を決め込むことだ。それができないなら、廃業も選択肢のひ とつだ。止めることは決して後ろ向きの結論ではない。ただし、止めるならき れいに止めないといけない。きれいに止めるには時間と準備が要る。早めの決 断が必要だ。